第60話 またね!
今回は少し短めです。
12/30 誤字修正しました。
私はほっと一息つきエリーを見る。
「エリー、私の挨拶やカーテシーって変じゃなかった?」
「いいえ、とても素敵でしたわ」
エリーは笑顔を返してくれた。
前世だけどカーテシーを密かに練習していてよかった。前世の私えらい。
黒歴史に感謝するのは初めてだ。
本場の貴族のカーテシーに比べたらショボいかも知れないけど、エリーが褒めてくれたんだから何とか合格ラインだったと思いたい。
ちなみにカーテシーって言葉はこの世界にもある。言葉もその内容も前世のものと同じというのは間違わないからいいけど本当に不思議だ。
「さて、先ほどいらした彼女が噂のアクセサリーを持ってきたようですけど、見るのはまたの機会にしますわ」
「え? いいの?」
落ち着いたかと思ったら突然のエリーの言葉にびっくりした。
あんなに楽しみにしてたのに。
「ええ。名残惜しいけど、私はそろそろお暇させていただきますわ」
「なんで? もうちょっと見ていこうよ」
私はまだまだエリーと一緒にいたい。
「そうしたいのだけど、これだけ騒げば平民のエリーでいられる時間はもうおしまいですわ」
「あ……」
辺りを見回すと、他のお客さんはエリーが貴族だと察したらしい。
じろじろ見ることは全くないけど、あからさまに距離がある。関わるまいという意図が見えるようだ。
エリーのことを知らなかったら私もたぶん同じことをしてたと思うから非難はできないけど、エリーに対してそんな態度にちょっと悲しくなった。
「そっか……。ねえ、また会えるよね、エリー」
「ええ、もちろんですわ。きっとまた会えますわ」
そう言ってエリーは私に微笑んでくれた。
その微笑みには寂しさは少しあるけど、でもまた会えると確信してるような気持ちが表れていた。
私たちはそっとハグしあった。
少ししてハグを終えると、ルビーお姉さんとライト君だけじゃなくアイリーン様も近くにいた。
きっとエリーを見送るんだろう。
そういえばエリーはこのお店の場所が分からないって言って私たちと一緒に来たんだよね。
ちゃんと帰れるのかなと少し不安に思っていると、エリーは手をパンパンと叩き、少し大きめな声で呼びかけた。
「スー、居るんでしょう?」
「こちらに」
ほぼノータイムでメイドがお店に入ってきた。
え、もしかしてずっといたの?
っていうか、いつからいたの?
チラッとアイリーン様を見ると、彼女も驚いた顔をして首を横に振った。
彼女が入るときにはいなかったらしい。
「アイリーン様、後ほどフランと話があるとおっしゃっておりましたわね」
「は、はいっ!」
私とアイコンタクトをしてる中、突然話を振られ、アイリーン様は思わずびくっとした。
「貴女様とフランの話に茶々を入れるつもりはありませんが、そのお話はフランにとって不利益でないことを期待しておりますわ」
「エリザ……エリーさんが心配するようなことは一切ないわ。むしろアタシが話を聞いてほしいとお願いをする立場よ。そのお願いの話を聞いた結果についてもフラン……さんの意思を尊重するわ」
エリーはエリーや私の名前を呼ぶところでアイリーン様を睨む。
エリーが私を心配してくれるのは嬉しいんだけど、そんなに睨んだらアイリーン様がちょっと気の毒になる。
「そう、なら安心ですわ」
エリーがにっこり微笑むとアイリーン様もぎこちなく微笑む。若干怖い。
今度は私に微笑む。同じ微笑みなのに私に向けるその顔は本当に嬉しそうだ。
「フラン、今日はあなたと出会えて、そして友達になれて本当に良かったですわ」
「うん、私もだよ」
「ルビー、ライト、お二方も今日は私に付き合っていただきありがとう存じます」
エリーはルビーお姉さんに向き直り感謝する。
「ルビーとのお話はとても楽しかったですわ」
「い、いえ! こちらこそとても楽しかったです!」
今度はライト君に向き直り感謝する。
「ライトは誤解だったとはいえ、私を助けようとする姿は勇敢でしたわ」
「お、おう。ありがと。なんか空回りで恥ずかしかったけどな」
私だけじゃなく、二人にも感謝の言葉をしっかり伝えるエリー。平民でも関係ないようだ。
受付嬢のサラさんもそうだけど、この国の貴族はすごいと思う。
「では皆様、ごきげんよう」
「エリー、またね!」
「ええ、また」
そういうとスーさんが店の扉を開け、エリーは帰っていった。
……
…………
エリーが帰ると周りのお客さんはほっと一息したような感じとなり、騒ぎとなる前のような雰囲気に戻った。
エリーはきっとまた会えるって言ってくれた。
でも私はエリーがいなくなったことで言葉に出せない寂しさを感じ、気づくとエプロンをぎゅっと握っていた。
友達が帰った後ってなんだか少し寂しい気持ちになりますよね。
次回更新は12/31(日) 22:00の予定です。




