第59話 ピンク髪の幼女
12/28 表現を一部修正しました。
カランカランカラン……
「ちょっと、誰よアタシのお店で高笑いしてるのは」
エリーが高笑いを決めてるまさにその時、お店のドアから私たちと同い年くらいのピンク髪の幼女が入ってきた。
ドレススカートにコルセットだけど動きやすさを重視したような格好で見た目だけで貴族と分かる。
それにしてもカラフルな髪の毛の人が多いこの世界でピンク髪は初めて見た。
ウィッグっぽさや違和感は全くない。
「おーーーほっほっほっ! ……ふぅ、これは失礼しましたわ」
「え?」
ピンク髪の幼女がエリーを見ると時間が止まったように動かなくなった。
「あ、お嬢様、いらっしゃいませ」
「……」
「? お嬢様?」
店員さんが声をかけても反応がない。
ピンク髪の幼女の顔色がみるみるうちに青くなっていき、ドサッと手荷物が彼女の手から床に落ちた。
「エ、エリザベス様! 申し訳ございません! エリザベス様とは知らずとんだ無礼をしました!!」
手荷物が床に落ちたと同時に、はっと我に帰ったピンク髪の幼女は頭を下げて謝ってきた。
「……今の私は平民のエリーですわ。騒いだ私に非があるのは明らか。貴女様が謝罪する必要は無く、むしろ私が謝罪しますわ」
そう言うとエリーは今までの笑顔が嘘のように消え、悲しい顔をして私に振り返った。
「……エリー?」
「ごめんなさい。今の話で何となく気づいたと思うけど、あなたに言ってなかったことがありますの。今は申し上げられませんが……それでも、私と……私と、友達でいてくださる……かしら?」
ハキハキ言うエリーらしくなく、最後は声が小さくなっていった。
「なに言ってるのエリー。私はそんなことで友達を止めるようなことはしないよ? それともそんな冷たい人に見える?」
「そ、そんなことありませんわ!」
「ありがとう、エリー。良かった。むしろエリーの立場がどんなのか分かんないけど、私が友達でいいの?」
「もちろんですわ! フランが友達じゃないと嫌ですわ!」
「エリー、ありがとう!」
私はエリーにひしっとハグをする。
エリーもひしっとハグし返してくれた。
一緒に過ごした時間は短いけど、エリーは5歳児とは思えないほど聡明でとてもいい子だし、何よりとても気が合うし、こんな素敵な友達と出会えることはそうないだろう。
エリーの立場は知らないけど、私としては時々でもいいから一緒にいたい。
「……え? ……フラン? ……どこかで聞いたことあるような……?」
なんかぶつぶつと呟きが高性能なネコミミに聞こえる。
「え? うそ? そんな…………」
ピンク髪の幼女がパクパクと目を白黒させてまだ呟いてる。
……
いい雰囲気なのに地味に気になる。
私はハグをやめ、ピンク髪の幼女に顔を向けた。
「ね、ねえ、あなたの名前ってもしかしてフランシェスカだったりする?」
「うん、そうだけど……。あれ? 誰か私をフルネームで呼んでたっけ?」
「ああーーーーー!!!!」
あ、貴族らしき人についうっかり普段通りの口調で返しちゃった、とか思ってると、ピンク髪の幼女は私を指して大声をあげた。
高性能なネコミミに大音量は堪える。
思わずネコミミを押さえると、ピンク髪の幼女ははっとした表情となり口に手を当てた。
「ところでフランの名前を伺う前に、自分から名乗るのが礼儀ではなくて?」
エリーはハグを止めた辺りから目に見えて不機嫌だ。
言葉に刺を感じる。
ちょっときつめなつり目のせいで迫力が半端無い。
ホントに同い年?
「も、申し訳ございません! ……こほん、アタシはアイリーン。ムーンライト男爵家の長女、アイリーン・ムーンライトよ」
ピンク髪の幼女って思ってるとうっかり口から出そうなので、心の中でもアイリーン様と言っておこう。
そのアイリーン様は私に自己紹介をした。
合間合間でびくびくしながらエリーをチラ見してる。
貴族に色々と階級があった気がするけどあまり興味なかったから男爵がどれくらいの階級かは知らない。でも家名を名乗ってることからアイリーン様は間違いなく貴族のお嬢様だ。
そんな貴族のお嬢様であるアイリーン様がエリーをびくびくしながら様子を見るってことは、もしかしてエリーはそうとう上位貴族の有名なお嬢様なんだろうか。
名乗りの挨拶をしてもらったので私も挨拶を返そう。
貴族相手にできるだけ失礼の無いようにしないと。
私は前世の知識をフル活用して挨拶に臨んだ。
「丁寧なご挨拶ありがとうございます。既に存じていらっしゃるとは思いますが、私の名はフランシェスカと申します。ご覧の通り獣人です。本日は話題のアクセサリーを拝見させていただきたく参りました。その話題のアクセサリーをアイリーン様がお作りになられた物と伺い、とても感銘を受けました」
私は挨拶の閉めにワンピースの裾を摘まみカーテシーをした。
そんな私をみんなポカーンと見つめる。
この世界の共通語には日本語と同じように謙譲語や尊敬語とかあるけど、ほとんど使ったことなかったから間違ってた?
カーテシーは黒歴史に残るほど密かに練習していたし、あとはエリーのお手本を見せてもらったのである程度は様になってると思ったんだけど……。
前世の中学生時代以来したことないからダメだった?
「あ、ありがとう。……すごく様になっていたけど、あなたって貴族なのかしら?」
「いいえ、そんなことはございません。私には家名はありませんし、所作については友を手本にさせていただいただけです」
友、のところでチラッとエリーを見るとニッコリ微笑んでくれた。
「そ、そう……大声を出して悪かったわね」
「勿体ないお言葉ありがとうございます」
「べ、別にいいのよ。それよりも後であなたとお話があるんだけどいいかしら?」
マジか。
私にいったい何の話があるのか知らないけど、お貴族様からのお話って不安なんだけど。
すっごい避けたい……。
でも平民の私には実質拒否権ってないよね。はあ。
「もちろんです。喜んでお受けいたします」
「ありがとう。ではまた後で」
そういうとアイリーン様は床に落としていた手荷物を拾い上げると店員さんの元に向かっていった。
エリーのきつい釣り目で睨みつけられると結構怖いです。
しかし、フランはマリアンナ(母親)の威圧で恐怖耐性がついてるので、隣で見てても迫力がある、くらいとしか思ってません。
次回更新は12/29(金) 22:00の予定です。




