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ネコミミ娘に転生したので楽しく気ままに生きたい  作者: 星川 咲季
■第1章 異世界の日常編(3歳)
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第5話 母親の存在

ようやく会話らしい会話をします。

 うん、回想や状況確認はもういいかな。

 そろそろ着替えて朝ごはんを食べに行かなきゃ。


 もぞもぞ……


 ようやくワンピースに着替えができた。手足が短いせいでちょっと時間かかった。

 苦戦して「むぁー」とか声が漏れたような気がするけど気にしない。


 私は部屋から出ようとドアに向かう。


 「と、届かないー……」


 なんと言うことでしょう。背が足りずドアの取っ手に手が届きませんでした。

 思わず脳内ナレーションが流れる。


 え? マジで?

 私は今までどうやって出入りしてたの?


 ……思い出した。自我が戻ったのはつい先日だけど、それ以前の記憶もちゃんとある。

 部屋の出入口に踏み台あるのをすっかり忘れてた。

 私の冒険がいきなり終わるとこだった。


 取っ手を少し引っ張りすき間を作る。すき間があれば後は開けられるしね。

 ちなみに、くるくる回る現代日本のようなノブは無い。鍵もない。ドアは非常に単純な構造だ。

 私は踏み台から降り、ドアから踏み台を離して廊下に出る。

 取っ手につながった紐を引っ張りドアを閉める。


 廊下がすごく広く感じるのは体が小さいからなのか、家が大きいからなのか、どっちだろう。

 何度見ても新鮮だ。


 家の構造は記憶の中にある。だから家の中で迷子にはならないのだ。

 んふふん。

 朝ごはんのいい匂いがリビングから流れてきており私のお腹を刺激する。


 あ、お腹が鳴った。


 私は腹の虫により蜜に吸い寄せられていく。私の蜜はリビングにあるはずだ。




 「おはよう、フラン。今日はちょっとお寝坊ね。この前のことはもう大丈夫?」


 リビングに入った私に、ちょうどテーブルにお皿を並べ終えたお母さんが心配そうに声をかけてきた。

 お寝坊じゃなくて回想や状況確認してたから時間がかかったんだよ、とは言えない。


 お母さんの名前はマリアンナ。お父さんからはマリアと呼ばれてる。

 お母さんは私と同じネコミミに銀の髪としっぽを持つ獣人だ。

 腰までのびる長い髪をゆるふわな三つ編みでまとめており、髪の先端は可愛らしく赤いリボンで結んでいる。

 少々釣り目気味だが水色の碧眼がとても映える。絶対インスタ映えする。

 身長は少し低く見えるが、年齢は20歳前後だと思う。おい、前世の私より若いぞ。

 顔のバランスは整っており、スタイルはすごく良い。誰が見ても美人だ。

 家族補正はあるだろうけど前世のモデルがかすんで見える。とても子持ちとは思えない。

 お父さんはよくこんな人を捕まえれたなあと心底思う。

 朝食を作っていたのか青いワンピースにフリルのついた白いドレスのようなエプロンを付けている。

 エプロンがずれないよう腰をひもで縛っているため、強調された大きな胸がどどんとそびえたつ。すごい。


 「おはよう、お母さん。もう大丈夫。元気いっぱいだよ」


 この前のこととは、大パニックを起こした日のことだ。


 「そう、良かった。お腹すいたでしょ? さ、顔を洗ったら食べましょう」


 「うん。分かった。この前は心配かけてごめんね」


 「もう、謝らなくていいのよ。私はフランが元気ならそれでいいの」


 私は返事をすると、お母さんにギュッとハグされる。ハグは我が家の挨拶だ。

 前世は日常でハグすることはなかったので分からなかったけど、家族のハグはすごくいい。

 自分が相手を求める心と自分が相手から求められてる心を感じる。とても満たされるのだ。


 私は台所の隅にある甕から小さな桶に水を汲み顔を洗う。

 言っておくけど、猫のような洗い方じゃない。ちゃんと水を付けて洗う。


 確かに先日はパニックになったけど、中身が大人な私はもう大丈夫。

 この家で育った記憶はしっかりある。

 この世界の人は愛情深いのか、両親ともとても私を可愛がってくれた記憶がある。

 前世の記憶を引き継ぎ自我が戻った今でも、この人は私の大切な、そして大好きなお母さんだ。

 心配させたくない。


 顔を洗い終えた私はそんなことを考えながらじっとお母さんを見上げてると、お母さんはにっこり微笑みながら「ふふ、まだまだ甘えん坊ね」と私を持ち上げ、イスに座らせてくれる。


 ……じっと見てたのはちょっと考え事をしてたからだよ。

 持ち上げられるとき、つい照れてうつむいちゃったけど、とても穏やかで幸せな気分だ。

 気づいたら私は嬉しくて目を細め、お母さんの服の袖をぎゅっと握ってた。

 あ、そうだ、しっぽを下敷きにしないように気をつけなきゃね。


 「じゃあお祈りして朝ごはんを食べましょうか」


 「うん」


 「「日々の糧をお与えくださりありがとうございます。いただきます」」


 この世界は指を交差してお祈りし、食事をする習慣があるようだ。

 ちょっと形式ばった気もするけど、日本と同じように食事の挨拶があるのは親しみやすくて良かった。

 何に対してお祈りしてるのかは……覚えてない。

 たぶん神様だと思うけど、何の神様なのかな?

 そもそも神様は1柱なのか、何柱かいるのかな?

 まあいっか。


 「ねえお母さん、お父さんはまだお仕事なの?」


 「そうよ、今日のお昼には帰ってくるわ。お父さんが帰ってきたら一緒にお昼ごはんを食べましょうね」


 「はーい」


 リビングにお父さんがいなかったので何となく聞いてみた。

 夜通し勤務とかお父さんのお仕事は大変そう。前世の私がアレだったので内心心配だ。


 それにしても滑舌がどうしても幼くなる。

 ちょっと恥ずかしいけど実際幼いのだから仕方ない。そう、中身が大人でも私は3歳児だから仕方ないのだ。

 それに急に流暢に話し出したら変な疑問を持たれたり気味悪がられたりするかもしれない。

 万が一にも愛に満ちたお母さんに嫌われたくない。嫌われたら精神的な終わりを迎える自信がある。


 うん、日本語とは違うから知ってる言葉も少ないし、滑舌が幼いのはちょうどいいかもしれない。

 今の私は記憶にある私と変わらない。今まで通りで完璧なはずだ。


 「今日、私はお仕事がお休みだから、朝ごはんを食べ終えたら買い物に行ってくるわね。フランにはお留守番をお願いできるかな?」


 「うん、大丈夫だよ! 私はお父さんとお母さんの子どもだからね!」


 「それなら安心してお買い物に行けるわ」


 「んふふん、任せてよ」




 私たちは食事を終え、後片付けをする。


 いつの間にか準備を整え終えていたお母さんは予定通りお買い物だ。


 「お母さん、行ってらっしゃい」


 「行ってくるわね、フラン」


 優しくハグされた後、お母さんは扉を閉めて出発した。


 私はお母さんを見送ると自室に戻る。

 自室に入るときに踏み台はいらず、ドアは押せば開く。

 ドアの横に踏み台が無く一瞬入れないと焦ったりなんてしてない。無いったらない。


 しばらくして一人になるととても静かになった。

 この高性能なネコミミには自分の音以外は何も聞こえない。


 ちょっと寂しい。


 前世は親元から離れて何年も一人暮らしして慣れてるはずなのに。



母親の子を思う気持ちが少しでも伝われば幸いです。


次回更新は9/25 22:00です。

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