第57話 アクセサリーショップ「月の明かり」
ついに目的地のアクセサリーショップにたどり着いた。
場所は貴族街と平民街の中間くらいにある。家から大分離れたところだ。
外観はいたって普通。
看板にはネックレスや腕輪などのアクセサリーっぽい絵柄と共に「月の明かり」と店舗名が書かれてる。
「思ったよりも普通な感じだな」
「話題といってもアクセサリーショップならこんなものよ」
ライト君の感想に応えるルビーお姉さん。
アクセサリーショップって家の近くには無いから分かんなかったけど、こんなもんなのね。
「エリー、行こ?」
「ええ」
私たちはお店に入ると女性の店員さんがカウンターで一人くつろいでた。
「いらっしゃいませー」
私たちが来ても態度が変わらないのは見に来るだけの客が多いせいなのか、この店員さんの性格なのか謎だ。
まあそんなことは置いといて、アクセサリーを見たいんだけど問題が発生した。
なんと私とエリーはアクセサリーが見えない。
いや、アクセサリーが透明とかそういう意味ではなくて、単純に背の高さが足りずに台の上のアクセサリーが見えないのだ。がっでむ。
「う~ん、見えませんわ」
「だよねー」
私たちのような幼女が来ることは想定外なのか踏み台は置いてない。
台が並んでるのを見ると、さながら迷路のように入り組んだ壁のようだ。
背が低いと見える視点が変わるのでやっぱり新鮮だ。と無理やり思うことにする。
前世のSNSだったか、買い物で子どもが帰りたがる理由に子どもの目線に商品が並んでなくとてもつまらないからだっていう記事を見たことがある。
当時はふーん位にしか思ってなかったけど、当事者となって分かった。あの記事はホントだった。
仕方ない。
ここは獣人の身体能力を生かした取っておきの技を使うしかない。
「エリー、私が肩車するから、エリーだけでも見なよ」
「肩車? 何ですの?」
「私の肩の上にエリーが乗るの」
「ちょっと、フランちゃんがそこまですることないわよ? 店員に椅子を借りればいいじゃないの」
や、確かにそうなんだけどさ。
でも、私はエリーと一緒になんかしたいんだよね。
道中の話で盛り上がったんだけど、ネコミミ型のアクセサリーの良さが分かるとか、すっごい気が合うと思うんだよね。
椅子を使って私が見るのはエリーが見た後だ。
「フラン、ルビーの言う通りよ? そこまですることは無いわ」
「いいのいいの。私がエリーにしてあげたいの。それに私は獣人だもん。こう見えても結構力持ちなんだよ。エリー位ならへっちゃらだよ」
「えっと……じゃあお言葉に甘えさせていただくわ」
だよね。最初は否定しつつも期待する眼差しだったもんね。
前世じゃとてもじゃないけど肩車なんてできなかったし、やろうとも思わなかった。
でも今の私は獣人のアクティブ系女子のフランなのだ。
前世の学生時代、男子がふざけて肩車してたのって、やっぱり身体能力が高いから今の私みたいに気兼ねなくできたんだろうね。
ちょっとドン臭いような運動神経もあって運動が苦手だった前世と比べると、思い通りに動く上に力持ちの体って素晴らしい。
ホント、お母さんと同じ種族に生まれて良かった。
ちなみに前世の私を否定してるわけじゃない。私くらいの運動神経なんてそんなのは当たり前だし、力強さも男性くらい力が強かったら便利だなと思う程度だし。
そんなことをつらつら考えながら私はエリーに背を向けて屈む。
「えっと、どうやって乗れば良いのかしら?」
そうだよね、貴族の子だと思うけど、お嬢様は肩車なんて知らないよね。
……今の今まですっかり忘れてたけど、貴族の子だと思う相手にこんなことさせていいのかな……。
まあ今さら言動を変えるなんて逆に変か。エリーはいい子だから大丈夫なはず!
ええい、ままよ、な精神だ!
「私の肩を跨いで頭に引っ付くような感じで乗ればいいよ」
「そ、それじゃあ失礼するわ」
貴族の子だったとしたら、こういったことにはもたつくと思ったけど、エリーは器用に私の肩に跨ってきた。
「じゃあ立ち上がるからしっかり掴まっててね」
「掴まるってどこに掴まればひゃああぁっ」
「んふふっ」
ちょっと大変だけどエリーを乗せて立ち上がることができた。このまま維持もなんとかなりそうだ。獣人のパワー様々だ。
ちなみにエリーは前世の人間だった時にあった耳の位置に手をおいてくれてる。
その位置には髪の毛しかなく耳が無いという感覚にも慣れた。
というか、もう前世の人間の耳の感覚があいまいなくらいだ。
人間の時の耳の感覚がもうあいまいでも、別に喪失感があったり寂しくなんてない。
むしろネコミミの方がいい。目を閉じてても音の聞こえ方で距離感を含めて周りの状況が驚くほどよく分かるし可愛いし。
「すごい、すごいですわ、フラン! 大人になったようですわ!」
エリーは大興奮だ。
私たちの他にもチラホラお客さんがいるけど、微笑ましい目で見てきてるのでこれくらいの騒ぎなら大丈夫そうだ。
「おー、根性あるな、フラン」
「ライト君、私は大丈夫だけど念のため言っとくね。いざというときは支えてね」
「おう」
さて、それじゃあエリーに誘導してもらおう。
「エリー、どれを見たい? そこに行くから案内して」
「分かりましたわ。ええと、そこの角を曲がってくださる?」
私はエリーの指差す方に歩いていく。
足がもつれたら大変なのでゆっくり確実にだ。
「ほら、これなんてどうかしら?」
エリーはネコミミ型イヤリングを手にとって私に見せてくれた。
「うわぁ、縁に花の飾りが付いてるんだ。可愛いね」
「ふふっ、そうね。フランにきっと似合うわ」
「そうかな~」
「きっとそうよ」
こんな感じで楽しんでたのって前世含めていつ以来かな。
最初にトラブルのリスクを考えてたのがバカみたいだ。
エリーと出会えて良かった。
アクセサリーとか小物類って見てるだけで楽しいですよね。
次回更新は12/25(月) 22:00の予定です。




