第56話 エリーとの出会い
「私、最近話題になってる不思議なデザインのアクセサリーショップに行きたかったのですわ」
なんということでしょう。
私たちの目的地は一緒だったではありませんか。
思わず脳内ナレーションが流れた瞬間だった。
「へ、へぇー、そうだったんだ」
エリーはとてもいい子そうだし、初めての同年代っぽいのでもっと話してみたい。
でも一方でお忍びの貴族の子とかトラブルフラグ満載なので、できれば関わりたくない。
そんなこんなで答えに迷っていると、ライト君が空気を読まずに話に割り込んできた。
「なんだ、そうだったのか。これから俺たちもそこに行くぞ」
ちょっと待って、なんで勝手に伝えてるの。
「まあ、それではフランも一緒なのかしら?」
「え、あ、うん、そうだよ」
ライト君の突然の不意打ちで慌ててるところに話しかけられたのでめっちゃきょどってしまった。
ちょっと恥ずかしい。
「よろしければご一緒させてくださらない?」
私はルビーお姉さんの方を向いて確認する。
「今日の主役はフランちゃんなんだし、フランちゃんが決めるといいわ」
ルビーお姉さんは華麗に回避した!
考えてみたら、ここまで首をつっこんでおきながら、一緒に行きたくないのでさようなら、なんてことは笑いのネタにすらならないくらい酷すぎるので言える訳がない。
それに一緒といってもアクセサリーショップまでだ。まあいっか。
「うん、それじゃあ一緒に行こ?」
「ええ、ぜひ!」
エリーは花が咲いたように笑顔を向けてくれた。
エリーの目はエメラルド色でとてもきれいだけど、私よりもずっとつり目なので結構気の強そうな印象だ。
でもその気の強そうな印象なせいか、笑顔になるとすごく可愛い。
こういうギャップっていいよね。
「子猫ちゃン、話は纏まったみてーだな」
「うん、この子の行きたいところと私たちが行くところが同じだったの。だから一緒に行くことにしたんだ」
「そーか、ならそのお嬢さンを任せても大丈夫そうだな」
「うん!」
私がリーダーと話してると、スキンヘッドとトゲトゲがだべってる。
「っつーかぁ、さっきから俺ら空気じゃね?」
「ばっか、オメー、俺らって空気がなかったら、子猫ちゃんが来なかったじゃねーか」
「ってか、俺らがいないと息ができない的な?」
「そこまで言ってねーよ」
「マジで?」
「マジで」
「「ぶはははは」」
彼らは見た目がヤバいけど、性格が明るくいつも楽しそうだ。
「おい、ふざけてないで行くぞ。お嬢ちゃン、怖がらせて悪かったな。子猫ちゃン、それじゃああとはよろしくな。あとそこの坊主、なかなか根性あるな。頑張れよ」
「お? そろそろ行くっつーか?」
「恒例のあれ、やっちゃう?」
「たりめーだろ。じゃいくぞ」
「「「ヒャッハーーー!!!」」」
謎のノリと掛け声(?)をして世紀末トリオは去っていった。
相変わらず濃い人たちだ。
「……最後、俺誉められた?」
「みたいね」
ライト君が呆気にとられたのかポツリと言う気持ちは分かる。
まあ仕方ないよ。私も最初は同じだったし、今も通行人の人たちもぎょっとして見てたし。
彼らはこの世界とは別の世界から来たんじゃないかって思うくらいにキャラが濃いもん。
ぼんやりしてるのは時間が勿体ないので話を進めよう。
「ルビーお姉さん、ライト君、この子と「エリーですわ」エリーと一緒に行きたいけどいいよね?」
……何気に主張ははっきりする子だ。
「ええ、もちろんよ」
「目的地は一緒だし構わないぞ」
「だって。良かったね」
「ありがとう存じますわ。場所が分からず困ってましたの。遅れましたが、私の名はエリーと申します。よろしくお願いしますわ」
エリーはスカートの縁をつまみ、見事なカーテシーをした。
滑舌はまだまだ幼さが残るものの、話し方といい所作といい、とても私と同年代とは思えない。すごい。
しかしこの優雅な振る舞いがますます貴族だという根拠になってるけど、そこには気づかないのだろうか。まあ私とそう変わらない年齢ならこれくらい仕方ないか。
ちなみに私もまだまだ滑舌に幼さが残ってたりする。仕方ないよね。5歳だし。
「よろしくね、エリー。私はルビーよ」
「おう、よろしくな! 俺はライトだ」
ルビーお姉さんはエリーが貴族っぽいと何となく分かってる感じだけど、空気を読んで普段通りに振る舞ってる。
一方、ライト君はまるで気づいてない。大丈夫だろうか。
私の心配をよそに、私たちは噂のアクセサリーショップに向かっていった。
最初は天気がいいとか、どんなものが売ってるのかとか、他愛ないことだけど話は弾む。
そしてエリーは私の手を握ってとても嬉しそうに話しかけてくる。
「フランはどんなアクセサリーが好きなのかしら?」
「指輪やネックレスも好きなんだけど、ネコミミに合う獣人用のイヤリングが好きだよ」
私が気になってる獣人用のアクセサリーについて話したら、エリーが食い気味に色々と聞いてきた。
「獣人も私と同じようなイヤリングをするのかと思ってたけど違うのかしら?」
「うん、多分違うかな。普人のイヤリングって耳に穴をあけたり挟んだりして付けるでしょ? 少なくとも私みたいな猫獣人は耳に穴をあけたり挟むなんてありえないと思うよ。だから猫獣人にはイヤリングは無いのかなって思ってたんだけど、お母さんのドレッサーにネコミミ用のイヤリングがあったんだ」
「まあ、穴をあけたり挟まずにどうやってつけるのかしら?」
「えっとね、耳を取り囲むような大きな輪っかを乗せるんだよ。でも乗せただけだと落ちちゃうから、ちゃんとヘアピンがついててそれで留めるんだ」
「すごいですわ。私の近くにいる獣人にそのようなイヤリングをつけている者はいなかったから存じませんでしたわ。フランといると色々と新しいことが分かって楽しいですわっ!」
エリーは私の他愛のない話でもとても喜んで聞いてくれる。
それに自分がつけれるわけでもないのに獣人用のアクセサリーについてもとても興味津々だ。
私の中身は大人なので、相手が同年代の子どもじゃ会話なんてつまんないだろうなって思ってたけど、不思議なことにエリーはそんなことは全くなく、むしろとても気安く話しかけられる。
アクセサリーという共通の話題も相まって、私はエリーととても気があうと思う。
いつの間にか私はエリーと打ち解けていた。
種族によって差がありますが、この世界の子どもは総じて精神年齢が早熟です。
エリーの年齢でもフランとしっかり話せるくらいの精神年齢はあります。
\ヒャッハーーー!!!/
次回更新は12/23(土) 22:00の予定です。




