第55話 幼女を助けよう
私たちは噂のアクセサリー屋に向かう途中、1人の幼女が明らかに見た目がヤバい男達に囲まれていた。
「だから案内など不要だと私は何度も申し上げておりますわっ!」
「っつーケドぉ、マジでこんなとこお嬢ちゃん1人でいちゃ危なくね?」
「ぶははははっ、オメーが危ないとか言うの、ウケるんだけど」
「俺らこンなだけど、心配してるのはマジなンだぜ?」
あの見た目がヤバい男達に囲まれたらそりゃ怖いよね。虚勢を張れるだけすごい。
スルーしていってもいいけど、さすがにあんなにびくびくしてたら可哀想だ。
別に私は正義の味方でも何でもないし、強くなんてないけど、今回だけは何とかなりそうなので大丈夫だ。
「お、おい、お前ら! そんな小さい子を囲んでどうするんだ!」
ちょっ!
ライト君が先走って突っかかってってる!
「あン? 坊主、俺らに言ってるのか?」
目の前の3人組の1人がライト君をギロリと睨むように振り向く。
ライト君は思わず怯んでるけど、あの見た目じゃ仕方ないよね。
「っつーケドぉ、俺ら別に何もして無くね?」
「オメーが言っても説得力皆無でウケるって」
「っでーな、まあ否定できねーけど」
「「ぶははははっ」」
「ぐ、バ、バカにしてっ! そうだ、お前らに言ってるんだ!」
「あー、別にバカにして無いっての」
3人組のうち1人がライト君をあしらってると、私に気づいて話しかけてきた。
「ン? お? なんだ、子猫ちゃンがいるじゃねーか」
「お、おい、彼女は関係ない! 話をしてるのは俺だ!」
ライト君が慌てて私を庇うように前に出るけど、私はお構いなしに横からひょっこり顔を出して声をかけた。
「こんにちは、リーダー、久しぶりだね」
「フラン?!」
ライト君はやっぱりこの人たちのこと知らなかったんだね。
隣にいるルビーお姉さんはちょっとニヤニヤしてるあたり彼らのことを知ってるようで良かった。
3人組の1人目はモヒカン、2人目はスキンヘッド、3人目はトゲトゲと特徴的な髪型だ。
服装はパンク風を取り入れた世紀末っぽい風貌で、モリモリ筋肉の上半身にトゲ付きチョッキを着たり、チェーンやトゲ付き肩パッド、リベットブレスレット等々付けている。
モヒカンがリーダーで、「ん」が「ン」になるような特徴的な話し方をするやつだ。
スキンヘッドは言葉の最初に「っ」を入れる話し方をするやつだ。
トゲトゲはスキンヘッドにつっこんだり「ウケる」って言ってるやつだ。
見た目といい、チャラい話し方といい、どう見てもヤバいです本当にありがとうございます。
というのは冗談にして、実はこの人たちは全員ゴールドと高ランクの冒険者。
そして見た目に反してすごくいい人たちなのだ。
受付嬢のサラさんの話では、ゴールドのパーティでワイバーンを討伐できる強さだと考えると、異世界のテンプレにあるような雑魚キャラじゃない。
治安の悪いところではあの見た目のおかげで下手なごろつきやチンピラですら寄ってこないし、万が一の際の実力も不足はなく、彼らの実績を知ってる行商人たちからの人気は非常に高い。実際指名依頼してるのを何度も見かけたし。
私は彼らが見た目と話し方のせいで誤解されるのがすっごい勿体ないと思うんだけど、本人たちは気にしないらしい。
長期の護衛依頼を受けてたらしくここ1年ほど見かけなかったので、最近冒険者になったらしいライト君は知らなかったのかもしれない。
ちなみに彼らと初めての出会いは私が暇つぶしにロビーをぶらぶらしてるときだった。
いきなり背後から話しかけられ、振り返ってみたらあまりの怖さにヤバい人たちに絡まれたとか攫われるとか思い、べそをかきながらダッシュでお母さんに助けを求めて飛びついた。当然この出来事は私の黒歴史の一ページだ。
へっぽこ獣人とか思うかもしれないけど、考えても見てよ。自分の身長は1mも無いのに、相手は私の倍以上の高さなうえに世紀末な見た目が3人もいるんだよ?
粗相をしなかった私を褒めてくれてもいいくらいなんだよ?
「っつーかぁ、子猫ちゃんいんの? うわ、すっげー久しぶりじゃん。大きくなってね?」
「ばっか、オメー分かってねーな。大きくなってね? じゃねーよ。全然ウケねーよ。見てろ。子猫ちゃん、可愛くなったな」
トゲトゲがキリッとしてお世辞を言ってくれるので、私は行儀よくちゃんとお礼を言う。
「んふふっ、ありがとう」
「ぶははははっ! ってお前がそう言うと、ぶはっ、確かにウケるっ、くっ、腹いてー!」
スキンヘッドが腹を抱えて苦しそうに笑ってる。うん、私も笑いをこらえるの、ちょっと大変かも。
「お、おい、フラン、大丈夫なのか?」
ライト君は若干おろおろしつつ私を心配してくれる。
「全然大丈夫だよ。私に任せてね」
「でも……」
「フランちゃんなら全く問題ないわ。任せてあげなさい」
「ねーちゃんまで……分かった」
私たち二人の様子にライト君はしぶしぶ納得すると、道を譲ってくれた。
そんなわけで、今回だけは何とかなる。
すっかり怯えて動けないあの幼女を何とかしてあげなくちゃ。
「リーダー、ほら、あの子が可哀想だからちょっとどいてくれる?」
「あー、子猫ちゃン頼むわ」
「ぶははははっ、っつーかぁ、リーダー子猫ちゃんに怒られてんの」
「うっせ」
私は世紀末トリオをどかして幼女の前にやってきた。
「大丈夫?」
「……」
怖かったからかギュッと目をつぶってまだびくびくして反応がない。
普通の幼女じゃそうなるよね。泣かないだけ偉いと思うよ。
うーん、こういう時はどうしようか。やっぱりハグかな?
「怖かったよね、もう心配ないよ」
「っ!? あ、貴女は!? それになんで抱きついてるのかしら!?」
「私はフランだよ。私はお母さんにハグしてもらうと安心するから、ハグすればあなたが安心するかなって思ったんだ」
「そ、そう……」
私は驚き慌てふためく彼女にしばらくハグして背中を優しくぽんぽんとした。
「……ありがとう。もう落ち着きましたわ」
少しすると彼女は落ち着いたのかハグを終えた。
「貴女ってすごいのね。彼らを説き伏せるなんて」
「ううん、説き伏せるなんてそんなことしてないよ。あの人たちはああ見えてすごくいい人たちだもん。だまそうとしたり、無理やり何かしようとしたりなんて無かったでしょ?」
「……そうね、確かにそうでしたわ。私が1人では危ないと忠告していただきましたわ」
「でしょ? 本当に心配してただけなんだよ。それで、あなたは、えーと……」
「あら、私としたことが恩人に名乗ってすらおりませんでしたわ。私の名はエリ……」
「エリー?」
「そ、そう。エリー。私の名はエリーですわ」
「よろしくね、エリー」
「ええ、よろしくお願いしますわ」
この子は平民の格好をしてるけどよく見ると明らかに質のいい服だったり、この話し方といい、極めつけが金髪ツインドリルな髪型といい、どこかの貴族の子が黙ってお忍びで街に出てきたとしか思えない。
エリーという名前も途中で誤魔化したとこからすると、今は本名を隠し平民として振る舞いたいのかな?
ドリルが物凄く気になって仕方ないけど、この子について詮索しても仕方ないしトラブルになりそうなので、空気を読んで詳しいことは聞かないでおく。触らぬ神に祟りなしだ。
とりあえず目的地があるならルビーお姉さんやライト君がいるので聞くだけ聞いてみよう。
「そういえばチラッと聞こえたんだけど、エリーはどこか行きたいの?」
「そうでしたわ。私、最近話題になってる不思議なデザインのアクセサリーショップに行きたかったのですわ」
なんということでしょう。
私たちの目的地は一緒だったではありませんか。
思わず脳内ナレーションが流れた瞬間だった。
見た目がヤバい彼らのパーティ名は「世紀末」だったりします。
次回更新は12/21(木) 22:00の予定です。




