第50話 王都観光開始と王都の教会
王都観光なので背景描画が多いです。うまく伝われば幸いです。
私は赤毛が良く似合うルビーお姉さんと手をつないで街中を歩いていた。
反対の左側には金髪の少年ライト君がついている。
「みんな朝からすごいね」
誰に訪ねるわけでもないけど自然と言葉が溢れてくる。
私はルビーお姉さんに連れられて普段通らない道をてくてく進んでいく。
1の鐘が鳴ったすぐあとにも関わらず、大通りには人々が溢れていた。
この世界の朝は早い。日の出と共に活動し、日が沈むと就寝。そんな生活が一般的だ。中には夜行性の種族もいるけど。
私は王都に住んでいると言っても生活圏は広くない。
5歳児と言えば前世基準で幼稚園児だ。
これくらいの年齢なら私の感覚からすると当然だと思う。
前世と単純比較はできないけど。
うん、やっぱり楽しい。
目的地まで歩いてるだけだけど、生活雑貨を取り扱ってるお店、知らない野菜やフルーツを売ってるお店、変わったデザインの服を売ってるお店、なんにも売ってない普通の家。
住民は普人の割合が多いけど、それだけじゃない。
ケモミミにしっぽの獣人。
犬や猫だけじゃなく、うさ耳の人やトラっぽい黄色と黒の縞模様の人、熊っぽい人や狐の人と、獣人とひとくくりにしてるけどいっぱいだ。
髭もじゃで背が低くてもがっしりしたドワーフ。
体以上の大きさの荷物を持ちながら歩く姿に不安はない。ただ、女性のドワーフは子どもにしか見えない。ドワーフの夫婦を見るとちょっと犯罪チックだ。
容姿端麗でとがった耳のエルフ。
多少ひょろっとしてるような気もするけど、この獣人やドワーフだけじゃなく普人でも全体的にガタイがいい人が多いので相対的にそう見える。とにかく男性はイケメンで、女性は美人で全員モデルかと思う。無慈悲なほどのスレンダー率が高いけど。でも太った人は一人も見たことはない。
角が生えてたり肌の色がちょっと紫や緑がかった魔族。
角が生えた人は寝返りを打つと枕やお布団に穴を空けないのか、緑色の人は光合成しないのか、魔族の生態に疑問が尽きない。中には普人と見た目がほとんど変わらない人や、魔族の国には人の姿からかけ離れた魔族もいるらしい。魔族は時々しか見かけない。
ふわふわ宙に浮いてる妖精。
羽ばたいて飛んでるのではなく魔力を使って本能的に飛んでる。ぱっと見は不思議だ。ちなみに私のように魔臓持ちの獣人も妖精でもあるけど、純粋に妖精って呼ぶのはこういうふわふわ宙に浮く小さな妖精だ。妖精も時々しか見かけない。
みんな仲良く暮らしてる。
どれもこれも前世じゃ映画の中や小説の仲でしか存在しなかったファンタジー。
数年たった今でも見てるだけでも全然飽きない。
「んふふん、んふふん、んふふふふーん」
「フランちゃん、とっても楽しそうね」
「うん! お店で売ってるもの、街並み、いろんな人がいるのも、眺めてるだけですっごく楽しいよ!」
私はルビーお姉さんにニコニコしながら返事をする。
前世も今も一人っ子なのでお姉ちゃんがいたらきっとこんな感じなのかと思う。
「フランは冒険者に向いてるかもな」
「ん? なんで?」
「常に未知を求める心があるからさ」
ふとライト君が話しかけてきたので疑問を聞き返すと、キリッとした表情で言ってきた。
え?
なになに?
俺はキメ顔でそう言っちゃう系なの?
「なによそれ。冒険王の受け売りじゃないの。かっこつけちゃって」
「べ、別に間違いじゃないだろ。実際、そう思うんだからよ」
どうやらライト君は有名な言葉を言ってみたかったようだ。
耳が真っ赤になってる。
よしよし、可愛いやつめって頭を撫でてあげたくなるけど、私の方が背が断然低くてできない。心の中だけにとどめておこう。
しばらく街並みを眺めつつ雑談をして歩いてると目的地の教会に着いた。
「むぁー……」
私は言葉を失った。
遠くから見えてたけど、目の前にきて見上げると壮観だ。
白いレンガを綺麗に組み合わせており、どっしりとしたたたずまいに建物としての不安定さは一切ない。
正面の入り口のアーチは大きく厳かであり、上の方に見える窓も絵画のようだ。
柱に彫られている彫像は赤ん坊のような子どもが笛やラッパのようなものを吹いていており、風、水、火、土の4元素をかたどったようなシンボルを掲げている。他には雷のようなシンボルもあることから、きっと色々な属性のシンボルなんだろう。
たくさん並ぶ窓にはミュシャのような緻密な模様と細工が施されている。
ヨーロッパに旅行した時に見たことあるような教会のイメージに近いけど、柱や窓に象られている物が全然違う。
「どうだ、すげえだろ」
「うん、すごい。こんな大きくて綺麗な建物って作れるんだね」
この世界の建築技術を正直侮ってた。
中世ヨーロッパっぽい時代なので前世で見た小規模の教会とそう大差ないと思ってたけど全然そんなことなかった。
考えて見たら力が強い獣人や器用なドワーフがいるんだし、魔法や魔術まであるんだ。
中世ヨーロッパっぽく見えるけど、それはあくまで見た目であって、技術力はずっと洗練されているのかもしれない。
「さ、中に入りましょう」
私はルビーお姉さんとライト君と一緒に教会に入っていった。
中はとても広く、白い柱の上の方は4元素やその他のシンボルが描かれている。
太陽光が差し込みとても幻想的に見える。
左右には長椅子が並べられており、話し合ったりしてる人や、祈りをささげている人がいる。
奥には太陽と3つの月をバックに4元素やその他のシンボルが円を描くように配置されていおり、雄々しさや優しさだけじゃなく、不思議な迫力も感じる。
上に見えるステンドグラスも相まってとても神々しい。
デジカメが無いのが悔やまれる。この目にしっかり焼き付けておかないと。
「どう? せっかくだからお祈りしていかない? お祈りにもお布施はいらないわよ」
「祈るのはタダだし、誰でもいいみたいだしな」
「うん、お祈りする」
私は前世を含めて無宗教だ。特に信心深くはない。
でも、こうして転生して第二の人生を謳歌できている現実がある以上、神様に伝えられるなら感謝の気持ちを伝えたい。
って、そういえばこの世界の神様ってどんな神様なんだろう。一神教か多神教かも分かんない。間違えたら嫌だし聞いておかなきゃ。
「ねえ、ルビーお姉さん、お祈りするって言っても、どれに向かってお祈りすればいいのかな? たくさんシンボルがあるけど神様ってたくさんいるの?」
「ええっと……」
ルビーお姉さんがどう説明しようか困ってると、正面から法衣を着たおじいちゃんが声をかけてきた。
「ほっほっほ、今日は可愛いらしい子が来ましたな。僭越ながら儂がお教えしよう」
姿や文化が違ういろんな種族が集まっても平和に暮らせると思います。そうであってほしいと願います。
次回更新は12/11(月) 22:00の予定です。




