第48話 観光案内の依頼
いよいよ王都観光の依頼を出すお話です。
少年冒険者のライト君の治療しきったところをみんなも見ていたおかげか、冒険者も依頼してくるようになった。
そのおかげでいろんな冒険者と仲良くなった。
私はアルバイトを始める前までは受付奥のテーブルにちょこんと座ってロビーを見てたので、お互い割と顔見知りだったりするわけだけど。
ちなみに暇なのか時々ライト君が話しかけてくるけど自慢ばっかりだった。自慢ばっかりじゃダメだよと思いながらも私は暖かい目で見守ってる。
ライト君は美少年だけど、お父さんを基準に考えてしまうし、そもそも年齢的に私の守備範囲外なので恋愛感情はゼロだ。今は私の方が年齢低いけど。
赤毛の魔術師のルビーお姉さんとも仲良くなった。
きっかけは顔に少し切り傷ができたみたいで早く治したいとの依頼だ。
どうやら私の回復魔法は相当綺麗に治るうえに負担が少ないらしく、密かに女性の間で噂になりつつある、ということで来てみたようだ。噂になりつつあるとか初めて知った。
顔の傷をきれいに治すついでに、そばかすも何とかなんないか試してみた。
そばかすって確かメラニン色素の影響でできるんだよね。
というわけで、軽いノリで「そばかすのメラニン色素が薄くな~れ」って冗談半分なイメージで試してみたら、ちょっと必要魔力は多かったもののしっかり魔法が発動した。決して人体実験じゃない。
結果は成功で、ルビーお姉さんは女性の冒険者仲間にそばかすが薄くなったと言われて気づいたそうだ。
それからルビーお姉さんがすごいなついてきた。ちなみに見た目は12歳前後ってとこかな?
そうそう、この世界の女性はみんな綺麗って言ってもそれは顔の造形であって、しみやそばかすなんてのは普通にある。
そう思うと冒険者をしていたのに、しみ1つ無いお母さんの綺麗さはすごい。
種族特性なの?
若さパワーなの?
メラニン色素なんて知らないだろうから、あの意味不明な魔力量にものをいわせて何とかしてる?
謎だ。
私にもあの綺麗さが遺伝してるといいんだけど。
万が一そうでなくても私には魔法があるので、この世界にスキンケア品が無くても何とかなる。
いや何とかなるどころか前世以上のスキンケアができると思う。しかもコストは実質ゼロ。魔法マジ万能。神か。
さて、いよいよ目標の100Gが貯まった。
売上の5Gのうち、1Gはギルドに納めて、2Gは貯金するよう言われて、最後におこづかいとして残るのは2Gなのだ。
ギルドへ自主的に払ってるのは自由裁量と場所代の対価と思ってる。割合としたらちょっと多い気もするけど。
何はともあれ、これで王都観光ができる。
早速お母さんの受付に並んで依頼を出した。
「お母さん、ついにお金が貯まったよ。依頼したいんだけど、いいよね?」
「ええもちろんよ」
私は50Gを報酬として王都観光の依頼を出した。
1回の食費を5Gとしても3日分はある。
また、この国での宿代は朝晩食事つきで30~40Gが相場らしい。なので例え宿暮らしで昼食代を入れても赤字にはならない。もちろん、食事なしならもう少し安くできるようだ。
宿がその程度で利用できるのは、宿側が朝晩のメニューを決めちゃうらしいし、お風呂も無いし、体を拭くためのお湯は有料だし、ろうそくも有料と様々な理由があるからだろう。
ちなみに値段はお母さんと相談して決めた。
お母さんは冒険者に優しくとても割りのいい依頼だって言ってた。
残り50Gのうち、5Gはギルドへの依頼手数料で、45Gは途中で食事したり買い物したりするためのおこづかいだ。これだけあれば足りるでしょ。
私の依頼は翌日の朝にクエストボードに張り出された。
サラさんは依頼を受けたそうに血涙を流しながらクエストボードを並べていく。私の希望日にサラさんのお仕事が入ってるので受けれないらしい。
周りにいる冒険者が若干引いてる。受付嬢が引かれていいのか。
【王都の観光がしたいので道案内をお願いします】
依頼内容 :王都の観光名所の案内
報酬額 :50G
必要ランク:鉄
期間 :今週土曜日の1の鐘から4の鐘まで
集合場所 :冒険者ギルドに1の鐘の鳴る時刻に集合
依頼者 :フランシェスカ(銀髪の猫獣人)
特記事項 :依頼者は5歳の少女。彼女の面倒を責任もって見れることが必須条件
コメント :私はきれいな景色や街並みが大好き。
でも家から離れたところはまだ怖くて行けないし、素敵な場所を知らないの。
だから素敵な場所に案内してね。
なるべく早く出発したいので、少し早めに来てくれると嬉しいな。
特記事項はギルド側が記載する内容だ。
それと依頼者が子どもだと分かるようにコメント欄は普段話すような口調で書いてもらった。
思い返すと5歳児が一日の給料出すから観光案内してほしいって現代日本じゃ考えられないファンタジーさだ。まあ冒険者たちは報酬額を親が出してるんだろうと思うだろう。
何にせよ、どこの金持ちお嬢様かって感じだけど、気にしないでおこう。
私の依頼が張り出されると、すぐさま金髪の少年冒険者と赤毛の女性魔術師が奪い合った。
ライト君とルビーお姉さんだ。
「おい、これは俺が最初に手をつけたんだ。ねーちゃんは離せよ」
「お断りよ。そんなこと言ったら私の爪が触った方が早かったわ」
「こう言うのは年下の冒険者に譲るもんだぜ?」
「そんなルールはどこにもないわ。早い者勝ちよ」
「俺は王都で育った。だから王都は庭みたいなもんだ。ねーちゃんよりもいろんなところを知ってるぜ。だから諦めろよ」
「それは知ってるだけって言うのよ。同じ女性の私が女性の喜ぶ観光名所につれていってあげた方が絶対にいいわ」
「「「ぐぬぬぬぬ……!」」」
どうしてこうなったし。
私の依頼は割がいいって受付嬢であるお母さんが言うんだから間違いないと思うけど、揉めるほどなの?
え、これってもしかして「私の(依頼の)ために争わないで!」みたいなことを言えばいいの?
ごめんなさい、嘘です。心の中でも言ってみたかっただけです。だから黒歴史には載りません。
それとさりげなくサラさんの声まで混じってる件について。
「どうやらお互い引く気が無いみたいね」
「ああ、そうみたいだな」
「仕方ないわね。報酬は半分になるけど、ここは二人で依頼を受けるというのはどうかしら?」
「しょうがねえな、分かった。ただし、半分にするからには案内する場所もそれぞれ半分ずつだからな」
「妥当なところね。フランちゃんの時間を無駄にしないためにも効率のいいルートを決めるわよ」
「当然だろ。よし、受けに行くぞ」
とりあえず何とかなったみたいで良かった。
二人が頑張って案内してくれそうだ。
土曜日が楽しみだ。
年端も行かない幼女が果たしてお金を出してまで観光をするのかという疑問もあるけど、フランはお金を出してでも観光したいと思ってます。
もちろん、観光にお金を出すなんてフラン以外はいません。
次回更新は12/7(木) 22:00の予定です。




