第43話 アルバイトの相談
ようやく物語が進むかのように見えます。
「お父さん、お母さん、私ね、せっかく回復魔法を覚えたんだから、回復魔法を役立てたいと思うの」
私は夕ごはんの時に切り出した。
先週から1週間たった。
魔法を覚えた今でも魔力操作の訓練は毎日してる。1年続けてるのでもう日課だ。
1年前は魔力を動かすのもやっとだったのに、今は考え事したり遊んだりしてるときでもできる。
口笛を吹くような気軽さだ。
でも、せっかく覚えた回復魔法を使う機会は今のところ全くない。
誰も怪我をしないことはいいことだけど。
そんなわけで、私は話を切り出してみた。
「よし、今度怪我したら部隊のやつに治してもらわず、帰ってきてフランに治してもらおう」
「お父さんは王都を守るお仕事してるんでしょ? みんなが怪我したお父さん見たら何かあったのかと不安になっちゃうんだから、ちゃんと治して帰ってこないとダメだよ」
お父さんそういうのは良くないと思うよ?
謎の決意をしそうになったのでこういうフラグはしっかり折っておかないといけない。お父さんの安全第一。
「マリア~、フランが正論言ってくるよ~。俺もフランに回復魔法かけてもらいたいよ~」
「よしよし、ケイン。でもおバカなこと言ってないでフランの言う通り怪我してもちゃんと治して帰ってくるのよ? 私もケインが怪我した姿を見たくないわ」
「そうだな。ちゃんと治して帰ってくる」
「そもそも、ケインはわざとでもない限り怪我なんてそうそうしないじゃないの」
「ばれたか」
お父さんは普段キリッとしてかっこいいんだけど、時々おバカな感じでお母さんに甘える。
イケメンも相まってギャップ萌えである。
なんか可愛い。
お母さんは軽く流してるけど、ホントは抱きつきたくてうずうずしてるんだろうな。
「それにしても、どうして急に回復魔法を役立てたいなんて思ったのかしら?」
「別に急じゃないよ? ギルドで冒険者のみんなを見てると私と同い年くらいでもお仕事してる子もいるし、それなら私も回復魔法のお仕事ならできるかなって思ってたの」
5歳の誕生日、日中であれば一人で外出してもいいと許可が降りた。
なので早く王都を散策とか観光したいけど、前世の法治国家であった日本ならいざ知らず、この世界で王都と言えども5歳児が一人でうろつくにはさすがにちょっと怖い。
それにお母さんからはなるべく目の届く範囲にいてほしいと言われてる。
だからある計画を立てたのだ。
「偉いわね、フラン。で、本当のところはどうなのかしら? 何をしたいからお仕事したいの?」
さすがお母さん。ばれてるか。
「えへへ、実はね、まだ一人でお出かけするのはちょっと怖いから、お仕事してお金を稼いで、そのお金で冒険者のみんなに街案内してもらおうかなって」
「街案内やお出かけなら私も一緒に付き合うわよ?」
お母さんと一緒にお出かけすることはいつものことだけど、何かの用事のついでというのがほとんど。
王都の散策や観光だけを目的としたお出かけが一時のことならおねだりするけど、今後、何度も何度もする予定だ。
「うん、私もお母さんと一緒にお出かけしたい。でもいつもは難しいでしょ? だから私は私ができることで何とかできないかなーって思ったの。冒険者のみんなとなら私も安心だし、お父さんもお母さんも安心でしょ?」
少なくともこの世界のこの国には労働基準法なんてものは存在してない。
マジで子どもが働いているのだ。
それに冒険者ギルドで見渡してる限り、前世の子どもと比べると驚くほど精神年齢が高いように見える。
だから私が稼ぎたいって言っても、ぎりぎりセーフだと思う。
「なるほど、色々と考えてのことなのね。あなたは本当に賢いわ。自慢の娘よ」
「んふふーん」
お母さんは微笑みながら褒めてくれる。
前世の仕事ではちゃんとやっても褒められるなんてほとんどなかった。
でも今はちょっとしたことでもしっかり褒めてくれるので嬉しい。
例え子どもだからだとしてもだ。
「ケイン、フランがこう言ってるんだし私は賛成よ。自分でやりたいことを見つけて、どうすればいいのかしっかり考えていてとても素晴らしいことだと思うわ」
「そうだな、いい経験になるだろう。俺も賛成だ。仕事の場所は冒険者ギルドならちょうどいいんじゃないのか?」
「そうね、ギルドなら例え私が席を外してる間に不埒な輩が来たとしても皆がいるから安心だわ」
「えっと、じゃあいいんだよね?」
「ケインも賛成してくれたし、もちろんいいわ。あ、でもやるのはギルマスにも許可をとってからよ。ギルド内で勝手に商売しちゃいけないしね。さっそく明日はギルマスに許可をもらいましょう。フランも一緒についてきてね」
「うん、分かった!」
世界旅行が人生の目標だが、まずはその前に今住んでる王都の散策や観光が初めの一歩だ。
計画が進みそうで私は上機嫌だ。
夕ごはんがいつも以上に美味しい。
ニコニコ嬉しそうに食べる私を見たのか、お父さんもお母さんも微笑んでる。
子どもに仕事の許可をする親がいるのかという疑問はありますが、そこはそういうのが当たり前な異世界であり、なによりフィクションだから成り立っているのです。
現代ではダメ絶対です。
次回更新は11/28(火) 22:00の予定です。




