第40話 5歳の誕生日プレゼントは回復魔法の使い方
いよいよフランが回復魔法を覚えます。
今日は私の誕生日だ。
誕生日プレゼントは魔法を教えてもらう約束をしていた。
私は例のごとく朝からテンションが有頂天で落ち着かない。
この世界では1ヶ月の日数が常に4週間ちょうどなので、何年たっても私の誕生日は土曜日だ。
土曜日はお母さんのお仕事がお休みなので、朝ごはんを終えたらさっそくプレゼントとして魔法を教えてもらうようせかした。
1の鐘が鳴った後にお庭に集合だ。
私たちの種族は大きくなったら自然に魔法が使えるようになるらしいので、わざわざプレゼントで教えてもらうということは、1回分のプレゼントが無いと同じわけだ。
しかし、そんなことはどうでもいい。
とにかく今は魔法が使えるようになるんだということが楽しみでしょうがない。
「んふふーん」
「あらあら、ご機嫌ね」
おっと、声が出てたようだ。
「じゃあ約束通り魔法を教えるわね」
「わー、待ってました!」
「魔力感知や魔力操作の訓練でもうなんとなく分かってると思うけど、魔法の発動にはイメージが大事なのよ。イメージがあやふやだと効果が薄かったり、魔力がたくさん必要になるわ。逆に言えば、イメージが乏しくても魔力量にものを言わせて発動させることもできるけどね」
「イメージってことは、どんなことでもできるの?」
「理論上はできるとは思うけど、現実的に無理なものは無理よ」
「だよね。お弁当出てこーいって魔法でお弁当が出てきたら誰も苦労しないもんね」
「うふふ、可愛い例えね。フランの言うとおりよ。水やお湯、火のように単純なものなら魔法で作りだせるけど、さすがに食料までは無理。そこまで魔法は万能ではないわね」
やっぱりダメなものはダメか。
前世のお菓子とか魔法で作れないかなってちょっと期待したんだけどね。
「さて、今日教える魔法は回復魔法よ。前にフランには見せたわね」
回復魔法ならどこにいっても役立ちそうなので非常に有用だ。
医療技術が低いこの世界では、旅行中に怪我してもすぐに回復できれば感染症のリスクが減るだろうし、怪我が治るまで足止めされることも無いだろう。
「どーやるの! 教えて! 教えて!」
お母さんは左手を右手の肘に組み、右手の人差し指を頬に当てて少し考えるしぐさをしながら口を開いた。
「そうね、どういったら分かりやすいかしら。回復魔法は魔力を手に集中して、世界に働きかけるのよ。私は怪我を治したいってね」
い、意味が分かんない。
どうしよう、お母さんが電波なことを言い出した。
「え? なにそれ? 世界に働きかけるってどういうこと? お母さん、大丈夫? 疲れてない?」
思わず心配したらお母さんのネコミミがへにょんとした。
あれ、落ち込んじゃった?
「フランの気遣いが地味にくるわね……。えっと、世界に働きかけるって言うのはね、望む結果や意志をイメージして魔力を放出すると、それが現象となるのよ。世界が魔力を対価に現象となるよう働きかけるように見えるからね。うーん、とにかく、魔法が発動したって感覚がするのよ」
「ふぇー、そうだったんだ」
一瞬、お母さんが中二病を発症させたのかと思っちゃったよ。
「それにしても、魔法を使うのに詠唱とか言わなくていいって便利だね」
「そうね。魔法はイメージと必要な魔力量があれば言葉を抜きで即座に発動できるのが利点ね。もっとも、望む結果をイメージしやすくするために魔法名を自分でつけてもいいのよ。例えば回復魔法は「ヒール」って言葉とかね。後は冒険者でパーティを組んだとき、自分がどんな魔法が使えるのか説明しやすいって言うのもあるわね」
確かに「ヒール」って言えば回復魔法ってイメージが沸くのでよさそうだ。
「そうそう、詠唱が必要なのは魔術ね」
「魔術? 魔法じゃなくて?」
「そう、魔術」
んん?
今まで同じだと思ってたけど違かったの?
「魔術って魔法と何が違うの?」
「魔術はイメージはいらず、少ない魔力量で詠唱さえできれば発動できるものよ。魔法と比べて必要魔力量が少ないから大半の普人族は魔術を使うわね。ちなみに獣人でも多少の素養があれば十分使えるのよ。術っていうくらいだから体系だってあるし、個人の感覚に左右される魔法よりも習得が容易だから今は魔術が主流ね。ただ、魔法と比べると魔術1つ1つに詠唱を覚える必要があるし、即時発動ができなかったり、いくら魔力を込めても効果が一定までしかいかないし、応用が利かないっていう弱点もあるわね」
「それぞれに良し悪しがあるんだね」
「その通りよ。魔術にも興味がわいたかしら?」
「ううん、せっかく魔法が使えるようになるんなら魔術はいいや。詠唱を覚えるの大変そうだし」
魔術の方が習得自体は簡単らしいけど、詠唱とか中二病っぽくてなんか恥ずかしいからノーサンキューだ。
まあそのうち暇だったら学んでみてもいいかもしれない。
「じゃあ回復魔法の実践よ」
そういうと、お母さんはおもむろにナイフを鞘から抜き出し、自身の親指を触れるように押し当てて少し切った。
すぐに赤い血がうっすらと出てくる。
「お、お母さん! 何やってるの!?」
「実際に怪我を治さないと効果が分からないからこうするのよ。さあ、試してごらんなさい」
「えっと、えっと……」
「落ち着いて、フラン。包丁で指を切ったのと大差ないわ。魔力を込めて、怪我を治すイメージをして、魔力を放出するのよ」
「う、うん。やってみる」
とりあえずいつものように魔力を手に集めて、いや、お母さんの言う通りイメージしながら魔力を込めて放出するのが良さそうだ。
私は傷が塞がるイメージで魔力を放った。
純粋に魔力を放出するときとは違う光が出た。
この光は覚えてる。
去年お母さんが使った回復魔法と同じ光だ。
そして魔力が現象に変換されると言うことが分かった。
不思議な感覚だ。
自分の中にある魔力を消費して現象に変換されるっていうのが、世界に働きかけるっていう表現が分かる気がした。
この感覚は確かに魔法が発動したって感じがする。
「すごいわ、フラン。初めてで成功なんて」
見ると先程の傷は塞がり、かさぶたになってた。
一発で何とか成功して良かった。
私はほっと胸をなでおろした。
回復魔法ができたか実践するとなると大変ですよね。
次回更新は11/22(水) 22:00の予定です。




