第38話 サラさんの誕生日
今回は割と短めです。
夏と言えば受付嬢のサラさんの誕生日がある。
去年の冬、お母さんが誕生日プレゼントで渡した草花のネコミミイヤリング形の冠とネックレスをギルドに着けて行ったとき、サラさんに教えてもらっていた。
そんなわけで、お昼ごはんの時にサラさんが露骨にアピールしてきた。
「そう言えば来週の水曜日は誕生日なんだけど、この季節の草花ってどんなのがあるかしらね~」
資料室の司書であるミィさんはジト目でサラさんを見てる。
でも、それはそれで可愛いからサラさんに効果はない。
軽く流してプレゼントをどっきりで渡すのもいいかなと思ったけど、サラさんの性格的に毎日のようにアピールされそうだ。
お世話になってるしプレゼントするのはいい。
でも、草花の冠やネックレスってお貴族様にあげるようなものじゃないと思うんだけど大丈夫かちょっと心配だ。
まあサラさんなら大丈夫かな?
「朝早くに咲く朝顔っていう花があったよね。サラさんの誕生日プレゼントはそれを使って作るね」
「ありがとう、フランちゃん! あぁん、去年マリアンナさんが着けてたのを思い出すともう楽しみで仕方ないわ!」
「そ、そお? あんまり期待しないでね」
「大丈夫よ、フランちゃんからのプレゼントならなんでも嬉しいから」
鼻息が荒いけど、どうやら大丈夫そうだ。
この世界にも朝顔があった。
前世と世界そのものが違うのに同じものがあるって何度考えても不思議だ。
でも、さすがに花言葉までは違うと思うのでそこまでは特に意識はしてない。
この世界に花言葉があるかどうかも分かんないし。
まあそもそも朝顔の花言葉は知らないけど。
魔力操作の訓練はお母さんの言う通りにこの1週間毎日続けた。
すっかり日課になってしまった感じがする。
ただギルドでやる場合は魔力をゆっくり循環させたり、全身に均一に行き渡らせる程度にするよう言われた。
手足など魔力をあっちこっち移動させたりしてると、お母さんは魔力感知できちゃうので地味に気になるらしい。
目の前をチョロチョロするのと似たような感覚なのかな?
そうであれば確かに気になるか。
夏は草花がすくすく育つ。
秋冬と違う草花を探して選ぶのは案外楽しかった。
1週間がたった。
今日はサラさんの誕生日だ。
お昼ごはんの時にお祝いをした。
「サラ、誕生日おめでとう」「サンドラ、誕生日おめでとう」「サラさん、誕生日おめでとう!」
「みんな、ありがとう!」
お母さんやミィさんのプレゼントの後だと残念感が出てしまうので、最初から渡しちゃおう。
「はい、サラさん、プレゼントだよ」
「フランちゃん、ありがとう! とっても嬉しいわ!」
お貴族様に草花の冠とネックレスでホントに良いのかやっぱり不安だったけど、サラさんが喜んでくれて良かった。
「うふふふふ……これで私もマリアンナさんと同じフランちゃんグッズを……うへへ……あ、フランちゃんの匂いしないかな……」
匂いをかいだりドン引きな言動してるけど、とにかく喜んでもらえてなによりだ。
……この様子だと、私のプレゼントは最後の方が良かったのかもしれない。
ミィさんは目のハイライトが消えた進化したジト目をしながらプレゼント渡してる。
ちなみにお母さんは特に気にせず渡してた。これもこれですごい。いや、スルーした方がいいのは分かるけどさ。
翌日、いつものようにギルドに来たらサラさんは元気がなかった。
「サラ、おはよう」
「サラさん、おはよう。元気無いけどどうしたの?」
「あ、マリアンナさん、フランちゃん、おはよう。せっかくフランちゃんからもらった冠とネックレスがね、こんなになっちゃって……」
見ると朝顔を始めとして草花が全体的に萎びていた。夏だし仕方ないんじゃないかな。
「サラさん、仕方ないよ。もうダメになってきてるもん。早めに捨てちゃってね?」
「これを捨てるなんてとんでもない! 捨てるくらいなら食べる!」
ちょっと待って。
どうしてその選択肢になるの?
どうつっこんでいいのか分かんないよ。
「食べたらおなか壊しちゃうし、腐って嫌な臭いがサラさんについたら私は嫌だよ。ね?」
「う゛う゛……」
「じゃあ捨てるんじゃなくて肥料にしてあげてね。サラさんの家の草花が元気に育ったら嬉しいな」
「そ、それなら……でも……う゛う゛……」
こんなのでそんなに惜しんでくれるのは嬉しいんだけど、嫌な臭いがついたサラさんに抱きつかれたくない。
猫獣人だからか嗅覚が敏感になったし、臭いが出る前に何とかしてほしい。
サラがいつの間にかコミカル担当になってる気がします。
次回更新は11/18(土) 22:00の予定です。




