第35話 魔力を作るイメージ
魔力を作るにもイメージが大切だったりします。
翌日、私はお母さんと庭にいた。お母さんはやっぱりつやつやしてた。
お父さんは今日もお仕事だ。お母さんと私をハグして出勤していった。
「フラン、昨日は大人しくしてたわね?」
「もちろんだよ。魔力を作れないかいろいろ試してたけど、動き回ったりはしてないよ」
「ならいいわ。それで、試してたってことは魔力は作れたのかしら?」
「全然ダメ。あのぽかぽか暖かい感じにはなんなかった。どうやればいいのか全然分かんないよ」
「さすがに年齢を考えるとまだまだ難しいようね。昨日みたいに私の魔力をフランの魔臓に送って魔力を作るのをやってみる?」
「うん、お願い。あと、なんかコツはあるの?」
「ふふ、コツなんて言葉よく知ってるわね。そうねえ、左胸の奥にある心臓がとくんとくんするのが分かるわね? そのとくんとくんする感じを右胸の奥にも伝えるような感覚かしら?」
「う~ん……」
お母さんなりに難しい言葉を避けて分かりやすい言葉で伝えてくれるのは嬉しいけど、やっぱり分からないものは分からない。
「むぁー、よくわかんないよ~」
「慣れよ慣れ。じゃあ昨日みたいに魔力を送るわね」
結局、一日頑張ったけどできなかった。
「そんなにすねることはないわ、フラン」
「だって、お母さんに手伝ってもらって、ぽかぽか暖かいのは分かるのに、自分じゃ全然できないんだもん」
「本当ならもっと大きくなってからすることなんだから気にしなくていいのよ。むしろその年で自分の魔力を感じられるんだから十分すごいのよ?」
「そうなの?」
「そうなのよ」
誉められて嬉しいけど、私は前世が能力容姿共にThe平凡そのものな人間だったので、転生した今の外見が銀髪ネコミミの可愛いフランだったとしても中身は変わらず自分が特段優れてるとは思わない。
少なくともこの世界に生まれてからの4年よりも長い時間を平凡としてすごしてきたわけだし。
十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人って故事があるくらいなので、前世の知識と精神で今たまたまスタートダッシュできてるとしても、そのうち只の人になるんじゃないかな。
世の中上には上がいるもの、私は私のペースでやっていけばいい。
幸い私は好きなことや趣味のためならこつこつ努力できるし長続きしてきた自負はある。
そんなわけで、例え今日はうまくいかなくてもせっかく魔法の素質があるんならこつこつ努力は続けていこう。
1週間がたった。
冒険者ギルドにいるときはいつものように過ごしてたので、訓練は帰ってきてから夕ごはんまでの1~2時間程度と寝る前の少しの時間だけだ。
あともう一歩のところまでは来てるんだけど、できそうで全然できない。
そんなわけで、ついに昨日は途中で飽きてしまったため、訓練を中止して気分転換に前世で旅行したことを思い出していた。
旅行は電車でもいいが車でもいい。
車は運転する煩わしさはあるけど、たまには予定外のことも自由気ままに行き来できるのでそれはそれで楽しい。
ふと、車のエンジンがかかりづらくなった時のことを思い出した。
あ、なんか今の状態と似てるかも?
早速、キーを回してガソリンを燃焼、爆発させてエンジンがかかるようなイメージで魔力を作れないか試してみた。
キーを回す。
きゅきゅ……失敗。
キーを回す。魔素を送り込む。
きゅきゅきゅ……失敗。
キーを回す。心臓の鼓動に合わせて魔素を魔臓に送り出す。
きゅきゅきゅきゅ……ドゥルルん!
なんちって。
ぽわ……
なんか暖かい感じがする。
えっ?
うそっ!?
こんなんでいいの!?
私は自分の魔力を感じた。
ベッドに寝転がりながらできればいいなー的な軽いノリで適当なイメージと感覚でやったんだけど。
私は突然あっけなく魔力を作れてしまった。
翌日の土曜日、また庭でお母さんに訓練に付き合ってもらった。
「フラン、どう? 魔力を作れるようになったかしら?」
「作れるようになったよ!」
「そうよね、さすがに1週間じゃ……え? ホント?」
「うん。昨日の夜できるようになったよ」
「うそ、そ、そんなはずは……じゃあ魔力を作ってみてくれる?」
んふふん、お母さんが珍しくビックリしてる。しかもネコミミがピクピクして可愛い。
よーし、じゃあさっそく披露しよう!
むぁー!
「……ほ、ホントにフランの魔力を感じるわ……」
驚きのあまりあんぐり口を開けてるお母さんを初めて見た。
「どお? 魔力できてるよね?」
「きゃー! すごいわフラン! さすが私の娘よ!」
そう言うやいなやお母さんに抱きつかれた。私のことをほおずりしてくる。
こんなお母さん初めてだ。
めっちゃ可愛い。
普段はちょっと凛々しい感じとほんわかしてる感じなのに、こういう可愛い側面を見たら、男性なら絶対落ちると思う。
そのくらい可愛い。
「んふふん、でしょでしょ、すごいでしょー」
「ええ、すごいわ! 1ヶ月はかかると思ってたもの」
マジか。
この年でできるにはそんな大変なことだったのか。
お母さんは落ち着いたのか私をハグから解放して立ち上がった。
「じゃあいよいよ魔力感知のスキルレベルをあげる訓練よ。いいわね」
「うん!」
私はお母さんの新たな側面を見れてテンションアップだ。
「フランは魔力が有るか無いかまでは分かるけど、魔力量まではまだ分からないわよね?」
「うん、温かいのが魔力だってことしか分かんないよ」
「次は作る魔力量を大きくしたり小さくしたりして、魔力の量を感知できるようにするのよ」
「どうすれば魔力量って分かるかな?」
「う~ん、これも感覚だから説明が難しいわね。まずは魔力を多く作ることと、少なく作ることを繰り返してみるのよ。それが魔力量の大小を一番感じやすいはずよ。最初は私が大小を感知して教えてあげるから、その感覚を覚えるのよ」
「はーい」
この世界の魔法は個人の資質や感覚によるところが大きいんだね。
しかし、魔力についてWeb小説やラノベで読んだ内容が結構当てはまってる気がするけど、異世界から日本人に転生した人がいて広めたんじゃと思うくらいだ。
「あ、ちょっと待つのよ。一度魔力を作った後、魔力が魔素に戻るまで、ええと、フランの言葉で言うと暖かい感じが無くなるまで待ってから次をやるのよ。それと必ず約束してほしいのは、急に体が怠くなったり、目眩がしたり、疲れを感じたら、必ず中止して休憩するのよ?」
「うん、分かった。約束するね」
「それじゃあ開始!」
フランは魔臓を持ってるため、普通の獣人や普人たちとは魔力の作る感覚が違います。
なので魔法について、ケイン(父親)はマリアンナ(母親)に一任してます。
次回更新は11/12(日) 22:00の予定です。




