第32話 魔力を感じよう
いよいよ魔法習得に向けた訓練開始です。
「じゃあ今日は魔力感知のさわりからね。魔力を感じるところからスタートよ。ちょっといいかしら」
そう言うとお母さんは私の右胸に手を当てた。
「今から魔力を流すわね。魔力がどんなものか感じるのよ。最初は違和感、えっと、変な感じがすごくすると思うけど、我慢するのよ」
「うん、分かった」
「じゃあいくわね」
少しすると暖かな何かが胸の辺りを押すような感覚がした。
確かに違和感がする。
さっき体感した回復魔法のように染み込むような感覚とは大違いだ。
謎の圧迫感というか、説明が難しい。
「どう? 何か感じるかしら?」
「うん、なんか変な感じがするし、押されてるような感じもするよ」
「魔素なら自然に体に取り込まれるけど、魔力は親子でもそう簡単に他人の体には入らないのよ。魔力抵抗って言って簡単に言うと魔法に対する防御力ね」
へー、何もしなくても体は自己防衛するのね。
「これからゆっくりとフランの魔臓に魔力を送るわね。そうするとフランの魔臓が活性化して魔素と魔力を作り出すわ。そうすればいつもと違う感覚がするはず。その感覚が自分の魔力を感知した感覚よ。私の魔力を受け入れるようにしてね」
「どうやれば受け入れられるの?」
「こればかりは感覚でしかないから、なんとなくでいいわ。ゆっくりやるから焦らなくて大丈夫よ」
とりあえず、体の力を緩めて圧迫感を受け入れようとする。
すると胸に感じている圧迫感のような感覚が少しずつ私の中に入ってきた。まるで押し広げられるような感覚だ。
思わず反射的にきゅっと体が強張り、圧迫感が進まなくなる。
「フラン、もう少しよ。もうちょっと頑張ってね」
「う、うん」
再び体の力を緩める。
少しして圧迫感が私の中をさらに進んでくると、異物感も感じてきた。
じわりじわりと少しずつ暖かいけど違和感と異物感のする何かが私の中を進んでくる。
そしてついに圧迫感は右胸の奥に達した。
ちょうど心臓とは反対側の位置だと思う。
「フラン、大丈夫? 気分が悪くなったらすぐに中止するから必ず言いなさいね」
「なんか押されてる感じがするけど大丈夫だよ。続けて」
「分かったわ。じゃあいくわよ」
圧迫感が少し強くなったと思うと、心臓とは反対側の位置がだんだんと暖かくなってきた。
「今フランの魔臓に魔力を少しずつ送っているけど大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。なんか右の胸の辺りがぽかぽか暖かくなってきた気がする」
「そう、その感覚が魔力が作られてる感覚よ。よく覚えておくのよ。それじゃあ今日はここでおしまい」
そう言うと右胸に入り込んでた圧迫感は体の外に飛び出るような感じですぐになくなった。お風呂に沈めてた水風船が飛び出てくようなイメージかな?
まだ右胸の奥に少し暖かな感覚が続いてる。自分の魔力が残ってる感じだ。
「お母さん、体の中にある魔力って魔法とかに使わなくてもいいの?」
「使わなくても大丈夫よ。放っておけば勝手に魔素に戻って魔臓に蓄えられるわ。もし魔素を蓄えきれずに余ったとしても勝手に体の外に出てくから害は無いのよ」
魔臓とかいう臓器も謎だけど、魔素とかいう魔法の素になる謎物質はいったい何だろう。
お母さんは大気中から体内に取り込むとか、余ったら体から出てくとか言ってるから気体なのかな?
魔臓は魔素を作ったり蓄えたりするってことは、魔素は体内に溶け込むの?
それに魔力は圧迫感と共に体に入ってきたけど体に傷なんて無い。
液体でも気体でも無さそうだし、違和感としてはっきりあるって感じたけど、魔力って一体なんだろう?
そもそも、魔素がどうやって魔力になって、その魔力がなんで魔法っていう現象になるの?
……
…………
うん、さっぱり分かんない。
きっと物理法則のように魔法則とかファンタジー的な法則があるんだろう。
前世の地球にない謎の法則や物質とかすごい不思議。
魔素とか魔力をちょっとでも理解できれば魔法関連のスキル向上に役立つと思ったんだけど、前世に全く無い概念だから見当すらつかないわ。
う~ん、考えても分からないものは分からないし、まあいいや。
そういうものがあるんだと思っておこう。
それにしても、ネコミミにしっぽにも驚いたけど、内臓まで前世と違うことに驚いた。
魔臓は心臓の反対側である右側にあるってことは間違いなく心臓並みに重要な臓器なんだろう。
まあ何はともあれ、考えても分からないことは置いといて、魔法が使えることが重要だ。
そのためにも魔力感知ってスキルを身に付けなきゃ。
あれ?
でもぽかぽか温かいっていうのが魔力の感覚だとするなら、既に自分の魔力は感知できたってことなんだけどそれじゃダメなの?
「お母さん、私もう自分に魔力があるって分かったけど、魔力感知って自分の魔力を感知するのと何がどう違うの?」
「魔力感知は、魔力の有り無しだけじゃなくって、魔力がどれくらいの強さとか、どこにあるのかが分かるとか、そういったことを感じるスキルなのよ。上達すれば相手の魔力もある程度感知できるようになるわ」
「へー、そーなんだ」
「ま、それはおいおいとして、フランはまず自分で魔力を作るところからね。もう数年すれば自然と魔力を作れるようになるけど、今のフランは4歳なんだし、自分で意識して頑張らないとできないはずよ」
「そうなんだ。んーと、魔力の感覚は分かったけど、どうすれば魔力を作れるの?」
「さっき私がフランの魔臓を活性化させ、魔力が作られた時の感覚は覚えてるわね? その感覚を自分でできるようにするしかないわ。私はきっかけを作れても、魔力を作るのはフラン自身だし、自分の感覚で何とかするしかないのよ。フランはまだ4歳だから難しいと思うし、ゆっくりでいいのよ」
「そっかあ。分かった。まずは目指せ魔力だね!」
「そうよ。でも無理しちゃダメよ」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
「こらっ、調子にのらないの」
「はぁーい。えへへっ」
「うふふっ」
軽くコツンとつつかれた頭をおさえると、自然とお互いクスクスと笑いあった。
帰りに大変な目に遭ったけど、お母さんに助けてもらって、今はこうして笑っていられて嬉しい。
魔素や魔力、魔法って不思議ですよね。
次回更新は11/7(火) 22:00の予定です。




