第243話 私たちの、勝ちだよ
決着の時です。
悪魔が四方八方に向かい、乱戦となった。
もちろん、中には怪我によって戦えない人たちもたくさんいる。
それらの人たちを、シアの聖域と騎士が守りに入る。
数の有利はこちらにあるけど、悪魔一体一体の強さは力を分散させていても強大だ。
悪魔ごとで強さにムラがあるらしく、特に強力な個体に対してはミィさんやお父さん、お母さんみたいなエース級が抑えている。
他にはゴールドたち、ユリアーノ様たち、ウルフェン様たちなどなど、パーティ単位で対抗してる。
個々の強さで敵わなくても、それを覆す連携を見せるのが私たち人間の強さだ。
そんなわけで、戦場はほぼ拮抗している。
注意深く観察・分析してる私たちの前にも悪魔が立ちふさがった。
「我輩の計画を潰した責任は、貴様の血で償うといいのである」
「ふーん。で、その責任とやらをどうやって取らせるのかな? どうしたの? さっきみたいに飛びかかって来ないの?」
「そのような挑発は無駄である」
「あら、それは残念ですわね。守りを捨てて来られたほうが好都合でしたのに」
「反撃されてもアタシがちゃーんと防いであげるからね。あれれー? そういえばアタシみたいな小さな相手にもう何度も防がれてたっけぇ? ざんね~ん、ざーこ。ほらほら、言われたい放題だよ? 早くやられちゃいな、ざーこざーこ! ……うはっ! 煽るのたーのしーい! ゾクゾクしちゃうわ!」
「貴様のようなガキは念入りに分からせてやるのである!」
私の挑発なんて目じゃないくらいっていうか比べられないんだけど。
アイリの挑発はちゃんと効果があるようで、悪魔は青筋を立てている。
いや、ホントにひどいけど、倒すべき相手に全く同情はしない。
悪魔は既に後がない。
戦力が拮抗してる今の状況では、仮に防御を捨てて特攻しても消耗を早めるだけで効果が見込めない。
だから私達は不意を打たれないよう、不意を打たれてもリカバリーやカウンターができるよう立ち回る。
エリーとアイリの支援のお陰で私の魔力は僅かだけど回復しつつあるし、体力の方もまだ何とか維持はできてる。
一方、悪魔は大ダメージを避けるために守りに入ることが多く、その上明らかに傷の治りが遅くなっている。
切ったことが分からないくらいの再生力はもう既に無い。
さっきはジリ貧の一方だったけど、今は逆だ。
悪魔もそれが分かっているのか、段々と焦りが見えてくる。
「ふっ! てやぁっ!」
「グ、ガハッ!」
地面スレスレのダッシュ払いで足の腱を切り、即座に反転して背後から回し蹴りを放つ。悪魔は体勢を維持できず吹き飛ばされながら転がる。
「形勢逆転だね」
既に剣戟の音は聞こえない。
ちらりとあたりを見渡すと、みんな満身創痍で立つのがやっと。
しかし、自分たち以外はすっかり決着がついたようだ。
「クソっ! せっかく何年も、何十年もかけて場を整えてきたのに! ふざけるなである!!」
即座に立ち上がってはこない。
「それはこっちのセリフだよ」
「そうよ! よくも瘴気なんてものを撒いてくれたわね! おかげでひどい目にあったわ! というわけで、やられたらやり返す。倍返しよ!」
ようやく片膝をついて起き上がる悪魔に、アイリは怒りの言葉をぶつける。
「無様ですわね。分身で数を揃えたところで私たちのように心から信頼することは無い。分身した自分でさえ信用してないのですもの。だから、そこで膝をついているのですわ」
「瘴気は確かに満ちていた! なのになぜである! 人間とは格の違う悪魔である我輩が! あと少しで魔神になれた我輩がなぜ! 貴様らのような人間にッ! 餌でしかない脆弱な人間にィーッ!!」
「確かに私たち人間ひとりひとりは弱いのかもしれませんわ。ですが、だからこそ協力しあい、助け合いながら成長してゆくのです」
再生速度が目に見えて遅い。
「立ちなさい、三流。私たちとあなたとの格の違いとやらを見せてさしあげますわ!!」
「ほざけっ! この場に霧散している全ての瘴気を使ってでも貴様らを血の海に沈め、再び大地に滅びをもたらすのであるッ!」
「フラン! アイリ!」
「任せて!」
「了解よ!」
悪魔は立ち上がり、怒りのままに攻撃してくる。
だけど、その攻撃は大ぶりだ。
「エリザベス様! アイリーン様! フラン! 頑張ってー!!」
「行け、決着の時だ!!」
「負けんじゃねーぞ!!」
「君たちなら勝てる!!」
シアの、王子様の、マッシュ様の、マイケル様の応援が届く。
弱っているとはいえ破壊力や速さに衰えはほとんど無い。
でもその攻撃は雑だ。
「あと一息よ!!」
「やっちまえですわー!!」
「頑張って、です!!」
ユリアーノ様の、イザベラ様の、アーリィ様の想いが届く。
お母さんとの戦闘訓練の方が激しく予測困難なほど。
それと比べるのが烏滸がましいくらいだ。
「当たるんじゃねーぞ!!」
「必ず打ち勝てますわ!!」
ウルフェン様の、キャロちゃんの気合が届く。
全く脅威は感じない。
落ち着いて対処すればいいだけだ。
「勝て! そして生き残れ!!」
「あなたたちならできるわ!!」
「……仲間を、信じて……!!」
お父さん、お母さん、ミィさんの愛が届く。
纏わりつくようにすれば攻撃の回避は簡単だ。
その分、自分も牽制程度しかできないけど、注意を私に集中させればそれでいい。
「いけー!」「負けるなぁー!」「頑張って!」「やっちまえー!」「倒せるぞ!」「そうだ、いけるぞ!」「勝つんだぁー!」「俺たちの分まで!」「勝てる! 勝てるぞ!」「ファーレンハイト様! 我らの誇りを!」「ムーンライト殿、お願いします!」「子猫ちゃン、目にもの見せてやれぇー!」「生きて、勝利を掴み取るんだ!」
みんなの声援が、私たちに力を与えてくれる!
「カーッカッカッ! 良いのう良いのう! これじゃ! これこそが人の美しさじゃ! 滾るのう、滾るのう!!」
エリーかアイリが合わせてくれそうなタイミングを見計らう。
私は逆袈裟斬りと同時に大きく一歩下がり、そこにエリーが魔術『闇の霧』で悪魔の視界を封じる。
「ねこだましですわ!」
エリーのこれは、起点!
私は目を閉じて集中力を高めつつも残る魔力を振り絞る。
「小癪な真似を……グァッ!?」
『闇の霧』は簡単に振り払われたようだけど、その瞬間に合わせて光魔法の強烈な光で悪魔の目を焼いたことが魔力感知で手に取るように分かる。
「な、舐めるなァーーッ! デストロイナックルァーーッ!!」
悪魔は目を焼かれながらも、強引に技を放ってきた。
掠っただけでも即死しそうな破壊力が込められていることが分かる。
だけど私は回避する必要はない。
「オラァ、そんなザコ攻撃なんて! 今よフラン!!」
破れかぶれで放たれた技は、アイリが受け流し、体制を崩してくれるからだ。
私は目を見開き、魔法剣を発動する。
「『風の爪』!」
右の縦切りと左から右に払う十字切りを放ち、咄嗟に防御する悪魔の腕を断ち切る。
悪魔はまさかと驚愕を浮かべているが、まだだ!
「これで」
左腕の死角になるよう右で心臓を突き、さらに左で外に払う。
「最後だ!」
最高まで高めた魔力をダガーに纏わせる。
分子のように薄く鋭く、嵐のように力強く強大な風の刃を、五本の爪として一振りで放ち切り裂く必殺の奥義。
「『裂空爪』!!」
その魔力を対価に、世界に働きかける感覚がする。
更なる魔法剣が発動した。
残り魔力は少なく一瞬だろうけど、この一振りで十分。
両手で交差するようにダガーを振るい、
「私たちの、勝ちだよ」
悪魔の頸が飛ぶ。




