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ネコミミ娘に転生したので楽しく気ままに生きたい  作者: 星川 咲季
■第1章 異世界の日常編(3歳)
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第22話 今の私が帰る場所

フランは今朝(第13話)母親とした約束を果たします。


 私たちは資料室を後にした。

 途中、他の職員さんたちに声をかけ、冒険者ギルドの裏口から帰りの途に就く。


 勤務時間は1の鐘(6時頃)から4の鐘(15時頃)の朝組と、2の鐘(9時頃)から5の鐘(18時頃)の昼組、3の鐘(12時頃)から日没以降の夜中(多分21時頃)の夜組の3つで分かれている。

 お母さんは子持ちということもあり朝組だ。前世じゃ昼組の時間帯が普通なのだが、この世界は早寝早起きが基本なためこっちが楽だと思う。


 中には夜行性の種族もいるため5の鐘(18時頃)から1の鐘(6時頃)の夜勤もあるらしいが、みんな寝静まる時間帯なので同じような夜行性の種族の冒険者以外は来ないそうだ。

 担当はたいてい二人~三人程度の人数で回せるくらい暇らしい。

 そもそも夜は通用口以外、外壁門を閉じるらしいため、魔物討伐も満足にできないし。

 ちなみに私は猫獣人だけど夜行性と言うわけではない。



 帰りも行きと同じように背負ってもらっている。

 いつも通り私はほとんど眠っていて特に会話らしい会話は無い。穏やかな時間が過ぎていく。

 前世は大人だった私が今更甘えられるのかと思ったけど、今は3歳児。多少の気恥ずかしさはあるけど、体が欲してるのか割りと素直に甘えてしまう。

 正直、もうこれでいいやと思ってる。



 気付くと帰りがけに行きつけのパン屋さんによっていた。

 ライ麦パンのような酸味のある香りが私の鼻をくすぐる。

 他に惣菜パンか何か無いかと思うかもしれないが、売ってるのは黒パンオンリーだ。

 前世で食べてた白パンも売ってない。


 そういえば、パン屋さんでお金と数字の確認をしようと思ったんだっけ。

 数字は分かりやすかったから覚えてる。縦と斜めの棒の組み合わせで字を表現してた。

 そうそう、数の数えはちゃんと10進法だ。時計みたいに12進法じゃなくて良かった。まあ両手で指の数が10本なら自然とそうなるよね。


 「6つください」


 「6G(ゴールド)です」


 お母さんが店員さんに言った数は1日分の量だ。私が半分、お母さんが1つ、お父さんが1つと半分。これで1食分だ。

 私もお母さんもお昼は冒険者ギルドで食べるし、お父さんも職場に食堂があるので、朝晩の合計6つが必要な計算だ。

 黒パンは日持ちするけど、量が多いと当然かさばるし、出来立ての方が美味しいので大体毎日買っている。

 ちなみに、この国の言葉には「個」とか「人」とか「本」とかいう単位を示す言葉はない。私が脳内補完しているだけである。この辺は英語っぽくていい。

 でも、お金にはしっかりG(ゴールド)という単位はある。

 基準は分かんないけど、大体英語と同じ感覚で単位がある方が圧倒的に少ない。


 お母さんは鉄貨6枚を渡していた。

 黒パン1つで1G(ゴールド)、1G(ゴールド)で鉄貨1枚ってことは、鉄貨1枚=100円くらいのレートかな?

 黒パンだけしか比較してないから実際のところは分かんないけど、大体あってれば良しとしよう。

 そもそも前世と同じものがこの世界で同じだけの価値があるか分かんないし。


 買い終えたお母さんは大きな風呂敷で黒パンを包み、いつも通り私がその風呂敷を背負う。

 黒パンは密度があり見た目以上にずっしりしてるので普人族の幼児じゃ6つは大変かもしれないが、私は獣人だからか3歳児でも黒パン6つ程度なら背負ってもまったく問題ない。

 その私をお母さんはさっきと変わらずひょいと背負う。

 うん、獣人すげえ。




 家の敷地につくと私はお母さんの背中から降り、黒パンを包んだ風呂敷をお母さんに預け、玄関まで一緒に歩いていく。


 歩きながらお母さんとの約束を思い出す。


 「「ただいま」」


 家に帰ってきた。

 今朝お母さんに伝えた感謝の気持ちをお父さんにも伝えよう。

 改めて言うのも気恥ずかしくてちょっとためらっちゃうけど、こう言うのはなあなあで済まさなず、しっかりと伝えるべきだ。

 お母さんの方に振り向くと、静かにニッコリと微笑み頷いてくれた。

 何も言わなくても分かったうえで笑顔で後押ししてくれる。

 正直すごい。

 どうしてこうも私のことを分かってくれるんだろう。

 私にもいつか子どもができたら分かるようになるのだろうか。

 私のことを理解してくれてるんだ思うと愛情を感じる。


 そう、愛情だ。


 それはお父さんも同じように私を愛してくれている。

 気恥ずかしさでためらっている場合じゃなかった。

 一刻も早く伝えたい。

 伝えなきゃ。


 リビングからお父さんが飲み物を飲んでいるような音が聞こえる。

 気づくと私はリビングに向かって走っていた。


 「お父さん」


 リビングにはコーヒーを啜りながらソファーでくつろいでるお父さんがいた。

 頬にちょっと黒ずんだ油がついている。装備を磨いていたのだろう。


 「お父さん!」


 「おかえり、フラン」


 私はこらえきれずお父さんに飛びつく。


 「おいおい、飲み物を飲んでるんだ。気をつけてくれよ」


 お父さんは苦笑いしながらカップをテーブルに置き、私をハグしてくれる。


 「それで、どうしたんだ、フラン」


 「あのね、私ね、今朝、お母さんにも言ったんだけどね」


 大きな手で慈しむように私を撫でてくれる。


 「大丈夫、ゆっくりでいい。落ち着け」


 「……うん」


 お父さんは手を離すと微笑みかけてくれる。

 微笑みは私の心を満たしてくれる。



 「私ね、毎日が不思議なことがいっぱいですごく楽しいの」


 だんだんと目がにじんでくるのが分かる。



 「大好きなお父さんとお母さんと一緒に暮らせてね、毎日がすっごく嬉しいの」


 暖かな雫が目からこぼれるのが分かる。



 「お父さんがギュッとしてくれてね、暖かい気持ちになるの」


 私を愛してくれているんだと分かる。



 「私ね、今、とっても幸せ。お父さん、大好き、愛してる」


 私は涙で顔をくしゃくしゃにしながら笑顔を向け、お父さんにまた抱き着いた。

 お父さんが私をそっと包み込んでくれる。


 「ありがとう、フラン。俺もだ。俺もフランが大好きだ。愛してるぞ」


 「ケイン、今朝、私も同じようにフランから言われたわ。愛してるって。私はね、フランがこんなにも私たちを愛してくれてるって思ってくれていること、それを言ってくれたことがとても嬉しい。とても誇らしい。大切な、本当に大切な、私たちの宝……」


 お母さんが涙声で私を後ろから包み込む。


 「ああ、そうだ。俺たちの宝だ。ありがとう、ありがとう……!」




 暖かく穏やかで優しい気持ちが私の心を満たしていく。


 私は本当の意味で、この世界の、この両親の子どもであるフランシェスカになれた。







大切な思いほど相手に伝えることは難しくなると思います。

少しでもその思いや勇気が伝われば幸いです。


PV10000記念として10/22日(日)まで毎日更新します。

次回更新は10/21(土) 22:00の予定です。

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