第220話 火炎の竜巻
大半の冒険者たちは昨夜の装備のままのため、すぐに出発できた。
程なくして外壁にたどり着くと、私はすぐに声をあげて門番のおじさんを呼び出した。
「おじさん! 応援呼んできたよ!」
宿舎の中からおじさんが飛び出してくる。
「フランちゃん! 良かった! 戻ってきてくれたんだね! まだどうしても起きないやつがいるんだ。気付け薬なら一発だったんだがもう使い切っちまったんだ。ったく、どうなってんだ。すまないが俺の時みたいに寝てるやつを起こせないか?」
「うん。大丈夫。睡眠の状態異常みたいだから起きなかったんだよ。でも私の魔法なら起こせるよ」
「そうだったのか。どうりで起きないわけだ。案内するから頼んだ」
「もちろん! あ、起こした人への説明は任せちゃっていい?」
「おうよ。遠慮なくどんどん起こしてくれ!」
「まかせて!」
私は目覚ましの霧吹きスプレー魔法で寝てる人を問答無用で次々起こしていった。
仮眠室にいた人、テーブルに突っ伏した人、廊下の壁に寄りかかってた人、外壁の上で横たわってた人。
この様子から、睡眠の状態異常は耐えがたい眠気な上に簡単には起きれない危険なものだと分かる。
前世で胃カメラやったときに静脈麻酔を使ってもらったけど、きっとあんな感じで耐えようと思う間もなく意識が落ちたんだと思う。
数人、目覚まし霧吹きの魔法でも起きなかった人がいた。
仕方ないのでその人たちにはもっと強力な効果になるよう、レモンの香りの代わりにわさびのつーんとする感じにして試したら一撃だった。
飛び起きた人のあまりの反応に門番のおじさんがどんな効果なのか聞いてきた。
口で説明するより体感した方が早いよね。うん。
だから「こんなのだよ」って吹き掛けてあげたら、おじさんは床を転げ回ってしまい、そのあとめっちゃ怒られた。
やってほしそうなフリだと思ったのに。
むぁーん。
とにかく、これで私の第一任務は完了だ。
あとはおじさんがどんどん起きた兵士たちに説明していく。
彼らは最初なぜ起きれなかったのか信じられないと言った様子だったけど、周りのただならぬ雰囲気や、なにより魔物の大群暴走の第二波が迫っているってことが分かると顔を青くしながらも真剣な表情に変わっていった。
兵士たちは槍や弓矢等の武器、それにポーションやマジックポーション等の回復薬を準備していく。
昨夜の第一波で使っていたものをそのまま使う形だ。
私はトロイメライさんに状況報告したあと、外壁の上にいる冒険者たちにも補給物資は兵士たちが用意していることを伝えていく。
そして最後に外壁の上で外を見ているミィさんにも伝えた。
「――というわけでマジックポーションがあるからね」
「……わかった……」
いつも通り半分まぶたが閉じて眠そうな表情だ。
一見するとぼーっとしてるように見えるけど、緊張してる様が分かる。
「ミィさん、調子はどお?」
「……問題ない。これから戦闘準備に入る……」
それもそのはず。
魔物の一群が目前まで迫っていたからだ。
私も遠距離攻撃の手段はある。
『風の爪』っていう不可視の飛ぶ斬撃だ。
初見殺しであり文字通りの必殺技だけど、『風の爪』はそんなに射程が長くはない。
そもそも『風の爪』は戦闘で使う規模の技であって、大規模な戦術レベルの規模じゃないし。
種族柄、魔素保有量は飛び抜けてるけど戦術レベル級の魔法なんて試したことないし、そもそもできるか怪しい。
明確なイメージができなきゃ暴発する可能性があるので怖くてできないからだよ。
イメージした威力にならずに魔力を無駄にするだけならまだしも、自分の失敗で味方が壊滅すると思ったらできないでしょ?
だけど衛生兵なら私でもしっかりできる。
小さな頃から回復魔法を使ってきてるから問題ないもんね。
怪我人が出ても獣人の私なら機動力を活かして即座に駆けつけ回復できるから戦線維持もしやすいんじゃないかな。
そう思ってトロイメライさんは私に頼んだと思う。
そうじゃないと、あっという間に外壁を壊されちゃうかもしんないし。
ミィさんは腰にかけている薄いバッグの留め具を外し、魔導本を取り出した。
「……『インデックス』起動……」
魔導書が浮かび上がり、ぱらぱらとページが捲れていく。
もう何度も見ている光景だけど、ホントにすごくカッコいい。
魔術を発動するには詠唱が必要だけど、ミィさんは唱える必要がない。魔法で魔導書を媒体に詠唱を瞬時に完了させ魔術を発動するからだ。
魔術の消費魔力量の省エネ、威力や範囲などの一定性、詠唱破棄による安定性と速射性。魔法と魔術のハイブリッドよるいいとこ取りだと言っていた。
「……よく見ておいて……」
「うん」
ミィさんは私が魔法を使えるし桁違いに保有魔素量が多いこと、魔術にはあんまり興味がないことはよく知っている。
にもかかわらずあえて言ってくれたってことは何かあるのかも。
どんな魔術だろう?
と思い、じっくりミィさんを見ていると、彼女は口を開いた。
「……火炎の竜巻……」
思わずしっぽがぶわっとなるような凄まじい光景が広がった。




