第215話 緊急クエスト
日の入りしたばかりと夜は始まったばかり。まだまだ夕ごはんの時間帯だ。
街中には外食をしている人が大勢おり、街中が蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。
それもそのはず。
警鐘だけでなく「魔物の大群がきているぞ!」という叫び声も聞こえてきた。
少なくとも私が生まれてからこういったことは起きたことがない。大騒ぎになるのは仕方ないことだ。
ただそれも私たちがギルドに到着する頃にはあたりは静まり、民家は固く戸締まりされ、息を潜めているような感じになっていた。
街中では衛兵や貴族の私兵と思わしき人たちが走り回っている。
あとは私達のような冒険者だ。
冒険者ギルドに着くと、夜にも関わらず大勢の冒険者がいた。
金髪イケメン青年に成長したライトくんや美人で赤髪な魔術師のルビーお姉さん、世紀末なパーティのリーダー達。
冒険者たちも瘴気の呪いにかかってる人は少なからずいるけど、体感的には街や学校と比べると少なく感じる。
また、症状も比較的軽い気がする。
戦ってる時に正気を失ったら死ぬ可能性が上がるし、死ななくても周りに危険が及ぶよね。
集団戦になるのは目に見えてるので、少なく感じる程度かつ症状が軽くて良かった。
逆に統率された騎士たちが瘴気の呪いで統率を失ったら、街の人達を守れる戦力になるのか心配になる。
お父さんは大丈夫かな……。
お父さんの部隊は元冒険者が多いって聞いてるから魔物相手に遅れを取ることは無いと思うけど、瘴気の呪いで判断力を失えば……。
心配してもどうしようもないけど、つい考えてしまう。
「フラン、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
シアに心配されてしまった。
顔に出てたみたい。
弱気になっちゃダメだよね。
ふんすと気合を入れ、ついでにネコミミをピコピコする。
シアの目線が頭にいくけど気にしない。
内心あれこれ考えてると、程なくギルマスが現れた。
「良かった。間に合った」
とにかく出遅れなくて良かった。
北側にある学校から中央広場を通って南側にある冒険者ギルドまで移動するので時間がかかるからだ。
魔物の大群暴走が発生したのであれば、ギルマスが何を言うのかだいたい分かる。
「みんな! よく来てくれた!」
すぐにギルド内は静まり、みんなの目線が彼に集まる。
「警鐘を聞いた上で今この場に集まってくれたということは何が起きているのか予想がついてる者もいるだろう」
ギルマスは冒険者たちを見回しながら語りかける。
「時間がないので単刀直入に言おう。魔物の大群暴走が発生した」
「なんだよ! 魔物の大群暴走なんて聞いてねえよ! ちょっとした魔物の集団とかそんなんじゃねーのかよ! 魔物の大群暴走に立ち向かうなんて死ぬに決まってるじゃねーか!」
ギルマスの言葉を聞き、顔を青くした冒険者が叫んだ。
魔物の大群暴走で国が滅びてしまう、なんてことが歴史のなかで何度も起きており、誰でも知ってるこの世界共通の大規模災害だ。
とにかく数が多いということはそれだけで脅威であり、さらに角ウサギなどの弱い魔物であっても一般人は武装しないと危険なレベル。
前世と比べてこの世界の人は信じられないくらい強くなるし、実際に強い人は多いけど、体力や魔力に限りはある。無限に戦い続けるなんてことはできない。
私は事前に魔物の大群暴走が起きる可能性が高いことを知っていたけど、どうやらそこまでだとは思わなかった人が多かった。
不安が広がりつつある。
「もちろん王都を死守しろなどとは言わない。冒険者は縛られない自由な職業であり死んでしまってはおしまいだ。だが、現実問題として今王都から出ても大群に飲み込まれるだけで逃げ切れない」
「そ、そんな……」
僅かな間、静まり返る。
「どうか君たちの大切な人を思い浮かべてほしい。親、兄弟、妻、夫、子ども、仲間、友人、恋人、片想いの人……何でもいい。従魔でもペットだっていい。魔物の大群暴走。これが何を意味するのかは分かっているはずだ。私たちが何もしなければ、その人たちは魔物によって殺されてしまうだろう」
「……」
みんなの姿が脳裏に思い浮かぶ。
「何もすべてを守る必要なんてない。そんなことはできやしない。自分にできることをして、守りたい人を守れればそれでいい」
そうだよね。
私は、エリーやアイリ、キャロちゃん、それに学校のみんなを守りたい。
自然と力が入。改めて、胸に火が灯る。
「そうしてみんな一人一人が守ることで、結果として国が守られる。サンライズ王国冒険者のギルドマスター権限のもと、緊急クエストを発令する。大切な人を守り、王都を守り、平和を取り戻すのだ! 生き延びることができれば、それだけでみなは、みなが英雄だ!」
────────!!
その瞬間、冒険者たちの気合いの声に包まれた。




