第199話 選択肢
王国が滅びる?
前世を含めて国が滅びるなんて歴史の教科書くらいでしか聞いたことないので現実味がない。
でも、大変な事態だということのはミィさんの表情を見れば分かる。
「……あなたたちには取るべき選択肢が二つある……戦うか、逃げるか……」
「何と戦うのですか? そもそも戦って勝てるのですか?」
ユリアーノ様の友人が青い顔をしてミィさんに尋ねる。
「……戦う相手は魔物。学校の生徒でもおおむね勝てる……」
「それなら」
ミィさんはしっかりと見据えて口を開く。
「……中には生徒では手に負えない魔物も出てくる……」
「……」
彼女は口をつぐんでしまった。
おおむねってことは、やっぱりそういうことだよね……。
「では、逃げ切ることはできるのですか? そもそもどこに逃げるのですか?」
もう一人の友人も口を開く。
「……国外。あなたたち個人なら可能……」
「個人? ああ、確かに個人になりますね」
え? どゆこと?
家族みんなで避難じゃなくて?
「国家の危機を前に領主を始めとする貴族が国外へ逃げ出すということは貴族としての責務を放棄することよ。血を絶やさないことも大事な責務と言えるけども」
ユリアーノ様は私に得意気な顔で話す。
いやまあ確かになんでだろって思ったけど、今そこは重要じゃない。
「私は、エリーとアイリを置いていけない。それにお父さんとお母さんはきっと逃げないと思うの」
お父さんは隊長でアダマンタイトの冒険者だし、お母さんは冒険者ギルド職員で元ミスリルの冒険者。
きっとなんて言ったけど、二人とも立場のある人だしすごく強いし、逃げる姿が想像できない。
「怖いことや危ないことは嫌だけど、大好きな両親と親友が死ぬかもしれないのに私だけ逃げるなんてもっと嫌。私は、戦う」
前世の私だったら何もできず、できない理由をつけてきっと逃げてた。
でも、今の私には戦う力がある。
「……瘴気が満たされ続けると魔物の大群暴走が起きる。それでも、戦う? 正直、私はフランを連れて行きたい……」
ミィさんは私の目をじっと見て口を開いた。
彼女が本気で私を心配してくれていることは分かる。
「あなた、死ぬ可能性が高いわよ。それでも?」
ユリアーノ様が問いかけてくる。
「私はこれでもシルバー。プロの冒険者だよ。そんな簡単にはやられないよ」
回復魔法のアルバイトと長年の冒険者活動の実績もあって今の私はシルバー。プロの冒険者だ。
一流でありベテランなゴールドまではいかないけど、冒険者として十分やっていけるレベルなんだよ。
それに年齢の割に結構強い自負はある。
シルバーなら実力者だと言うことは冒険者じゃなくてもみんなある程度は分かっているはずだ。
「そう、覚悟があるならいいわ」
「覚悟があるなんて言えないよ。だけど私は何もせずに両親と親友を見捨てて逃げたらきっと一生後悔する。私は楽しく気ままに生きたいけど、そんなのは、全然楽しくないよ。このままお別れなんて納得できない」
お父さんからは何があっても生き延びろって教わった。
だけど、私は楽しく気ままに生きるという願いを、目標を曲げたくない。それは中身が普通な私の、ちっぽけな意地だ。
世の中不条理なことがたくさんあるとは思うけど、できることがあるうちは、諦めちゃダメよね。
「私のちっぽけな手でできることは少ないかも知れないけど、私はハッピーエンドじゃないと嫌なの。だからミィさん。お願い、教えて。どうすればエリーとアイリを、みんなを助けられるの?」
「私からもお願いします」
シアが私の手を握りながら後押ししてくれる。
「…………」
ミィさんはなにも言わず、じっと私の目を見た。
吸い込まれそうになるような紫の瞳を見つめ返す。
しばらくして根負けしたのか、ミィさんはため息をつくと、ユリアーノ様たちに視線を向けた。
「……ユリアーノたちは……?」
「愚問ですわ、ミスティ先生。勝機があるから私たちはここに集ったのです」
「……分かった。それでは作戦の概要を説明する……」




