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ネコミミ娘に転生したので楽しく気ままに生きたい  作者: 星川 咲季
■第1章 異世界の日常編(3歳)
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第12話 今の私が生きる私の世界

フランが精神的に成長する日です。

 もきゅもきゅと朝ごはんを食べ終える。


 私が食べ終えると、お母さんは食器を洗い、お父さんは寝室に行った。


 さて、それじゃあ私もお母さんの職場に行く準備を始めよう。

 と言っても、既に服はちゃんとしてるので、残る私の準備はお手洗いを済ませることだ。

 幼児な体はお手洗いが近くあまり我慢ができない。

 不測の事態が発生すると、私の黒歴史に新たな一ページが加えられることになるので、絶対に行っておく必要がある。


 私はお花摘みを終え自室で少々身だしなみを整えてエントランスに行くと、お母さんは既に出勤準備を整えていた。

 毎度思うけど、一体全体どうやったらそんな早くできるのか訳が分からないくらい早い。

 お化粧は無くても服装などの身だしなみは完璧に整っており、ゆるふわの三つ編みに結った長い髪は肩から前に流している。

 催眠術だとか超スピードだとか、そういった次元を越えてるような気がする。

 時を操る能力者と言われても、異世界だし納得しちゃうと思う。

 これなら「40秒で支度しな!」と言われても対応できるだろう。




 私は今日もお母さんの職場である冒険者ギルドに連れていかれる。記憶が朧気な頃から連れていかれており、もう習慣となっている。

 この世界には保育園や託児所はないのかな?

 まああっても正直預けられたくない。大人しくしてるから暇でもいいので連れていってほしい。そう思えるくらいお母さんと一緒にいたい。普通の幼児もこんな感覚なのだろうか。


 職場までは距離があるので今日もお母さんに背負ってもらっている。

 3歳児の足に合わせてたら時間がかかりすぎるからだ。

 決して短足なんかじゃない。


 記憶では一度自分も一緒に歩いて行きたいってお願いしたことがある。

 しかし、当然お母さんのペースに付いていけず、幼児な私の体力は当然持つはずがなく、だんだんと足が遅くなり、目的地にたどり着く前にギブアップだった。

 でも、獣人だからか身体能力が高く、3歳の私でも結構なハイペースを維持して歩けた、もとい走れたのは驚きだ。

 ちなみにお母さんの足はめっちゃ速い。

 特に急いでるわけでもないらしいが、とにかく速い。

 元冒険者は伊達じゃない。

 人が少ない早朝だからこの速度でも大丈夫だろうけど、人にぶつかったら人身事故にならないか心配だ。




 街中では露店販売する人も準備を始めてる。

 王都では普人族の人が大半だけど、私たちのようにケモミミやしっぽを持つ獣人だけでなく、エルフやドワーフ、少数ながら魔族や妖精など、いろんな種族の人がいる。

 ああ、本当に異世界なんだなぁって思う。


 この時間帯ではまばらだけど、行き交う人たちを眺めてても飽きない。

 前世で旅行したときは、日本国内でも地域ごとに文化やお土産が違って楽しかったし、国外だと買い物は値切る前提だったりチップが必要だったりと千差万別だった。

 この世界では種族まで違う。

 種族が違えば考え方や趣向、必要品も違うだろう。


 第二の人生は楽しく気ままに生きていきたいし、世界旅行に行くことが目標であり夢だ。

 この世界ではまだまだ子どもで知らないことだらけだけど、優しい家族に囲まれ、楽しく気ままに生き、この街並みを眺め、ちょっと暇だけど優しい時間が流れていく。


 これは私が望んでいることだ。

 私の知る世界はとても小さいけれど、今はこの世界で最初に決めた目標通りに生きている。

 私は満たされている。

 幸せだ。

 前世ではこんな瞬間はあったのだろうか。


 思い返せば前世の最後はひどい結末だった。

 だけど、それ以前は時間が合えば親友と共に楽しく旅行してた。

 一人でも旅行してた。

 その他はいたって平凡だけど、両親に愛されて育っていたと思う。


 そっか、考えたことはなかったけど、私は両親に愛されていたんだ。


 そして一度失った今だから分かる。

 私も両親を愛していたんだ。


 でも……


 もう会うことはできない。

 もう何も伝えることはできない。



 今の私はフランシェスカ。

 今のお父さんはケイン。

 今のお母さんはマリアンナ。


 満たされる気持ち、こみ上げてくるこの幸せな気持ちは、とても大切な気持ちだ。



 ならば言わなければならない。



 代わりというつもりは全くないけれど、前世の両親には伝えれなかったこの気持ちは、今伝えることのできる両親にはっきりと口に出して伝えなければならない。

 気持ちがぶれる前に、今すぐお母さんだけにでも伝えたい。




 「お母さん」


 「なあに?」


 お母さんは私の方に顔を向ける。




 「お母さん」


 「どうしたの?」


 お母さんは足を止める。




 「お母さん」


 「ここにいるわよ」


 私はお母さんの目を見る。




 「あのね、私ね……」


 「大丈夫よ、言ってごらんなさい」


 お母さんは地面に私を下ろし、慈愛に満ちた顔で私を見つめながら促してくれる。

 私は心に満ちた気持ちを口に出す。




 「私ね、今、すごく嬉しいの。すごく楽しいの」


 私は口に出すことで、どんどん心の声があふれていく。




 「大好きなお父さんとお母さんと一緒に暮らせてね、毎日がすっごく嬉しいの」


 私はあふれる気持ちを抑えない。




 「ちょっと暇な時があってもね、毎日がとっても楽しいの」


 私はこの大切な気持ちを……。




 「お母さん、私を生んでくれてありがとう。私を愛してくれてありがとう」


 一筋の雫が頬を伝う。




 「この気持ちって、幸せっていうんだよね」


 暖かい雫が再び頬を伝う。




 「私ね、今、とっても幸せ。お母さん、大好き、愛してる」


 私は目を細める。

 とめどなく涙を流しながら笑顔を向ける。




 「フラン、ありがとう。私もフランが大好きよ。愛してるわ」


 お母さんも目に涙を浮かべ、私を暖かく抱擁した。


 私は我慢できずに顔をうずめ、ギュッと服をつかむ。




 お母さんはすすり泣く私の背中を撫で、あやしてくれた。




 ここはもう異世界ではない。

 心の底では物語を読んだり映画を見るようで、どこか他人事だったのかもしれない。

 この世界は、もう、今の私が生きる私の世界だ。

 生きていきたい世界だ。






失ってから気づくこと、やれずに後悔したことは、生きていれば必ずあると思います。

フランもそう。

しかも一度死を経験したからこそ、後先考えず、最優先で伝えたくなったことで今回の唐突な行動をとってます。


次回更新は10/7 22:00の予定です。

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