第11話 獣人の服の弱点と朝のひと時
獣人の服って普人と比べて必要な布地や加工が多くなるから若干値段が高めだと思います。
翌朝、私は普通に目を覚ました。特に眠れなかったことはない。私は日中庭で遊び疲れたのか昨夜は電池切れのようにすとんと眠れた。一度寝るとなかなか起きないのかもしれない。
両親の寝室は離れてるといっても、高性能なネコミミに今まで寝室から何か聞こえたことはないから、防音の仕掛けがあるのかもしれない。さすがに幼児の教育に配慮しているのかな?
何にせよ、翌日の様子で何があったのかは分かっちゃうし、翌日の様子は何度も見慣れてるからいいとして、直接聞こえないのはありがたい。
昨日は庭で遊んだ後、部屋に籠るしかなかったけど、やることがないのでひたすら掃除をしてた。
私の私室はもう土足厳禁だ。元日本人としてなるべくなら家の中を土足で過ごしたくない。
靴は部屋の入り口に置いてある。と言っても、室内用のサンダルしかないけど。
なお、外出用の靴はエントランスの下駄箱だ。
お決まりの伸びをしてからベッドから出る。今日はお母さんの職場に一緒に行く日だ。
私は白と水色のシンプルなワンピースに着替えて部屋を出る。
獣人の幼児用ワンピースはしっぽの辺りから裾まで切れ込みがある。
つまり、後ろからは何もしなくてもドロワーズという名の下着がチラ見するのである。
さらに、しっぽ用の切れ込みが長い獣人の下着が後ろから見えるということは、すき間から中身も見えちゃう場合があると言うことでもある。
がっでむ。
普人族の服を着て、しっぽで裾が捲れ上がり、下着が丸見えになるよりかはマシだけど、マジで気を付けないといけない。
ちなみに、お母さんのワンピースは切れ込みの下にもう一枚布地があった。
鎧戸っぽい二重構造だ。
二枚目の布地の上にしっぽが来るようにすれば、よっぽどなことが無ければ下着が見えることは無さそう。現にお母さんのは見えたことはない。
ここから導き出される結論は、幼児なら下着くらい見えても別にいいでしょ、誰も気にしないでしょ、買い替えサイクルが短いんだから安くするためにも凝った作りはいらないでしょ、という文化だということだろう。
確かに普通の幼児なら下着が見えても羞恥心は無いからいい。
現に私ももう開き直って別にいいやと普段は過ごしてる。
でもふとした際に中身が大人な私には精神ダメージが大きくのしかかる。主に黒歴史を更新する的な意味で。
いくつになれば私の服もこの二重構造になるのかな……。つらたん……。
遠くからカタカタと食器を準備する音やパタパタと足音が聞こえる。
リビングに入るとちょうど朝食を並べ終えたお母さんと、椅子に座っているお父さんがいた。
「おはよう、お父さん、お母さん」
「おはよう、フラン。朝ごはんできてるわ。顔と手を洗ってきなさい」
お母さんは朝の挨拶にハグしてくれた。
「はーい」
お母さんはとてもつやつやしてる。
「……おはよう、フラン」
お父さんもハグしてくれた。
たぶん夜勤からさらに徹夜が続いたせいか、よく見なくても目の下の隈がひどい。
でも、ちょっと元気がないけど、とても穏やかな顔だ。
この世界は日の出とともに活動し、夜になると早く寝る早寝早起きな生活が一般的だ。
電気がないので蛍光灯や白熱灯、LEDの照明器具なんてものはない。ろうそくやランプを使う。
猫獣人なおかげか夜目は利くので、夜の灯りはろうそくやランプで十分だ。
お父さんは見えてはいるが、私たちほどじゃなさそうな感じだけど。
ろうそくやランプもただじゃない。用事がなければ早々に就寝だ。
もっとも、昨夜はだいぶ長い時間使っただろうけど。
お母さんの職業は冒険者ギルドの受付嬢だ。
冒険者は朝早くから活動するのが普通なので、職員はそれに合わせて早くいかなければならない。
そんなわけで我が家の朝はとても早い。
時計がないので感覚になるが、ほんのり明るくなった頃なので、この春の季節で4時~5時起きだと思う。
朝の1の鐘前だ。
1の鐘は多分6時だと思う。2の鐘は9時、3の鐘は12時、4の鐘は15時、5の鐘は18時と体感では3時間おきかな。21時に相当する6の鐘は無い。その時間はみんな寝てるし、鳴らされると迷惑だから当然だ。
あと、1日は24時間ぐらいだと思う。もしかしたら異世界人になって時間感覚が変わり、24時間とは違うかもしれないけど。
惑星の大きさや自転速度とかどうなってるのとか、謎は尽きないけど前世の時間感覚に合わせても不都合ないから気にしない。以降は脳内補完して時間を割り当てて呼ぼうと思う。
5の鐘前には夕食を終え、夜にやることは無いので就寝はかなり早い。体感では遅くても20時前には寝る。だから朝に起きられないことは今のところない。
私は桶に水を入れ、顔と手を洗う。
洗面所はあるが、台所の野菜洗い場でも良いのだ。たぶん横着じゃない。
洗面所は私の部屋とは反対方向なので面倒くさいとか思ってない。
「もうそろそろ、ちゃんと洗面所で洗ってきなさいね」
「はーい」
心を読んでないよね?
顔を洗い終わったので踏み台で椅子に登り、椅子の上にある小箱に座る。
座高が足りないためだ。
「それじゃあ、お祈りをして食べよう」
「「「日々の糧をお与えくださりありがとうございます。いただきます」」」
朝ごはんはいつもの黒パンとカリッと焼けたベーコン、目玉焼き、野菜スープだ。
お昼ごはんまで時間が長いのでしっかり食べないと持たない。
ベーコンが多目なのが嬉しい。
そう言えば獣人だからか分からないけど、肉類はとても好きになった。脂っこくても関係なく食べれる。
獣人は胃が強いのか3歳児でも胃もたれした経験はない。
前世の私は脂身を食べようものなら胃もたれしたからありがたい。
使う食器類は基本的に木製だ。陶器の食器もあるけど我が家ではあまり使われない。
木製食器は漆でツルツルに仕上がってると言うことはなく、きれいに磨いてはあるけど素材そのものに見える。木製が手頃なのかもしれない。
それとも、私が落として割るのを回避してるとか?
そういえば、何となく自我が戻る前に叱られた記憶が……一番ありえそうだ。
両親のフォークやスプーンは金属製。ステンレスなんて錆びにくい便利な金属はまだないのか、お母さんは洗った後や食前に必ず磨く。
一方、私のは角が丸まった木製だ。
これはあれか、私のは幼児向けか。
ハーッハッハ、舐められたものよ!
銀髪のネコミミたるこの私が、角が丸まったフォークやスプーンで満足するとでも思っているのくぁ!
……ちょっとした脳内小芝居で抗議してみたけど、3歳児が幼児向けは嫌だって駄々こねてるだけにしか見えない。
うん。実に痛々しい。でも大丈夫。脳内子芝居だから黒歴史は増えてないはずだ。セーフ。
「フラン、今日はお仕事行く日だから朝ごはん食べたら準備しておきなさいね」
「うん、分かってるよ。もう服はバッチリだよ」
「よし、偉いわね」
お母さんは私の頭を撫でた後、半分寝ながら食べてるお父さんに向き直った。
「ケイン、昨日は疲れてるところありがとう。今日はゆっくり休んでね。お昼ごはんは用意しておいたから、ちゃんと食べてね」
「……ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ」
獣人の体力すごいしね。
お父さん、お疲れ様です。
異世界の幼児向けの食器は、噛みついても大丈夫なように木製が一般的だと思います。
次回更新は10/6 22:00の予定です。




