第10話 両親の馴れ初め
異世界ならハーフの種族は個体数が少なくてもいるべきだと思うんです。
「「「日々の糧をお与えくださりありがとうございます。いただきます」」」
パスタをもきゅもきゅ口に運ぶ。お母さんのトマトソースのパスタは絶品だ。
私とお父さんは一心不乱に食べていく。
でも、マナーは忘れない。ずるずるとすする音はたてないのだ。
むぁー、私の体はまるで水を吸い込む人間スポンジだ!
前世でやってた一人でひたすら食事をするドラマをまねて一度やってみたかった。似てるかどうかは気にしない。
結局私は1回、お父さんは3回おかわりした。
おかわりしたといっても、私の分はたかが知れてるけど。
食後、一息着いた際に私は丸くなったおなかをさすりながら、ふと気になったことを聞いてみた。
「そう言えば、お父さんとお母さんは種族が違うけど、違う種族で結婚する人って他にもいるの?」
「いることはいるが、そんなに多くはいないぞ。種族が違うと子どもができにくいって理由が大きいしな」
「へー。じゃあ、違う種族で生まれた子どもって、特徴が半分ずつになったりしないの? 私はお母さんと同じように見えるけど」
「基本的にはどちらかの種族で生まれるな。髪や目の色はどちらかの特徴を引き継ぐぞ。ただ……」
「そうねえ、私はちょっと変わった種族だからフランは私と同じ種族、髪や目も同じ色で生まれてきたのよ。その辺りはフランがもう少し大人になったら教えてあげるわね」
見た目はそんなに変わらなくても、種族が違うと子どもはできにくいんだね。
それと種族のハーフは、基本的には、っていうくらいだから、いることはいるのかな?
ハーフエルフとか、ダムピールとか?
時々読んでた小説ではハーフはよく差別の対象になったりしてたけど、この世界ではその辺は大丈夫なのかな?
とにかく、異世界の夢は広がりそうだ。
それにしても変わった種族ってなんだろう?
白猫族とかアルビノとか?
いや、私たちの髪は銀色だし、水色の碧眼だから色素が抜けてるのとは違うか。
銀と言えばフェンリルがいるけど、そもそもあれは狼だ。
猫の有名どころ言えばバステトかな? でもバステトは黒髪なイメージだ。
そもそもいくら珍しい種族っていっても王都で普通に暮らしてる種族が神話とかに出てきそうな種族なわけないし。
私もお母さんと同じ種族みたいだから気になるところだけど、いつか教えてくれるって言ってるし、う~ん、まあ今はいっか。
「ふーん、分かった。でも、子どもができにくいってことは、もしかして私って珍しいの?」
「そうよ、私の種族は特に子どもができにくいから、ケインとの間にあなたが生まれて本当に夢のようだわ」
「愛があればどんな障害も関係ないな、と言いたいところだけど、正直、俺たちは運がよかった。でもどうしてそんなこと気になったんだ?」
「なんとなく? お父さんとお母さんみたいに違う種族の家族って見たことないような気がして」
「そうか。俺たちの家があるこの場所やフランが普段見る範囲じゃそうかもな。まあ市場とかに行ってよく見ると意外といたりするもんだ。それに少ないとは言っても、パーティを組んでいた冒険者には種族関係なしに結婚するなんて話はよくあるぞ。俺とマリアがそうだしな」
え? 二人とも異世界定番の冒険者だったの?
しかもパーティ組んでたの?
「そうなの!? なにそれ! 出会いとか詳しく聞きたい!」
私、気になります!
「フランは小さくても女の子ね。そうね、私が冒険者だった頃、王都に行く商人の護衛のお仕事でケインと出会ったのよ。出発直前になって冒険者が追加で護衛についたって雇い主に聞いてね。私は依頼料が割り引かれると思って確認したら、ただ同然だから依頼料に変わりはないと言われて不思議に思ってたわ」
「ああ、あれな。ちょうど王都に行くようだったから、ついでに馬車に載せてほしくてな。友情価格ってやつで護衛をしたんだ。そうそう、出発時に合流した際、銀髪の獣人なんて初めて見たからとても印象的だったぞ。しかも可愛くて美人ときたもんだ。最初はどこかの貴族のご令嬢が冒険者の真似事をしてるのかと思ったくらいさ。マリアとの出会いはよく覚えている」
「ふふ、ケインったら。その後は王都を拠点として冒険者ギルドで見知った仲になったわね。そしてある時、たまたま王都に近い村に依頼で行ったとき、とある強力な魔物に襲われて絶体絶命のピンチだったのよ。でもその時にケインが現れて助けてもらってね、とても強くてかっこよくて、それでいて紳士でね、もう惚れちゃったの。その後は一緒にパーティを組むようになって、そのうち結婚したのよ」
なにそれお父さんどこのヒーローなの? 白馬の王子様なの?
かっこよすぎでしょ!
そりゃこんなイケメンが命がけで助けてくれたら惚れちゃうのも頷ける。
でも、お父さん程のイケメンに付き合ってる女性がいない、なんてあるのかな?
マンガでありそうなお互い手を出しちゃいけない同盟とかファンクラブとかそういうの?
そもそも、ソロで冒険者活動してたの?
う~ん、いろいろ気になるけど、まあこれも今はいいや。
「そう言えば、今更不思議に思ったんだけど、どうしてあの時あそこにいたの?」
「あー、実は俺、最初からマリアに一目惚れだったんだ。だから冒険者ギルドで何度も会ったし、あのときだって助けに入ったんだ。そもそもあの村近くにいたのは、ヤバい魔物が出るって噂が気になってたところに、あの村に行くマリアを見かけたって聞いてな。杞憂であっても調査の依頼を受けたって体裁なら問題ないし。で、とにかく心配で急いで来てみればマリアが単独で相手にしてるところにちょうど出くわしたってわけだ。さすがにこれには驚いた」
「え? そうなの? 私、一目惚れとかだったとか、心配だったから来ていたとか聞いてないわよ?」
「そりゃ気恥ずかしくて言わなかったんだよ。普通の冒険者はよっぽどの算段がなければ負ける可能性が高い魔物を相手に助けに入らないだろ? しかもあれは実際会ってみれば噂以上に相当ヤバいやつだった。だが、俺はどうしても助けたくて後先考えずに突撃してな。ま、結果としてマリアと共闘しお互い何とか生き残れたわけだ。その後は美人で可愛く魅力的な愛しいマリアと一緒になれたし、さらに可愛いフランまで生まれた。もう言うこと無しだ。俺の直感は正しかった。命を懸けて本当に良かったよ。はっはっは!」
イケメンは心もイケメンだ。
お母さんは熱を帯びた目をお父さんに向けハグしだした。もちろん口付けもセットで。
あ、しっぽをお父さんの腕に絡めてる。
「うふふ……ねえ、今日もいいかしら?」
「ああ、もちろん。明日は休みだしな」
うわ、暑い、暑すぎるよ!
見てるこっちが恥ずかしくなるよ!
こんな暑いところに居られるか!
「お話ありがとう! 私、ごはん食べたからお庭で遊んでくるね! ごちそうさま!!」
やはりこの手の話題を振るのは危険だった。
3歳児だからよく分からないと思ってるのかな?
……いや、関係ないかも。
その日、私は夕食以外は庭で遊ぶか自室にこもるかしかなかった。
なぜかフランの両親はこういう流れになる不思議です。
次回更新は10/5 22:00の予定です。




