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13 夜祭りの儀式 1

 遠くで雷鳴が響いた――。

 キラリと光る稲妻が山の輪郭を一瞬浮かび上がらせ、湿気を含んだ生ぬるい風が全身を叩くように吹き抜けていく。

 今にも雨が降り出しそうな夜の道を、茜は歩いていた。

 儀式用の、まるで昔の死装束のような純白の着物を着せられた茜の先を行くのは、黒装束を纏った上総かずさと、男子禁制だという儀式の席まで茜を案内する、やはり黒装束姿の『お付き』の中年女性が二人。足下を照らす明かりは、お付きの持つ、今にも消え入りそうなロウソクの頼りない炎だけだった。

 茜の後ろには、敬悟がぴったりと寄り添うように歩いて行く。黒のジーンズに青い半袖シャツという敬悟の普段着姿が、茜の緊張を幾分和らげていた。

「こ、こんな天気で、外でお祭りをやるの?」

 得体の知れない『夜祭りの儀式』とやらに不安いっぱいの茜は、何とか気持ちを引き立たせようと、どうでも良いような話題を振った。

「祭りと言っても、一般の祭りめいたことをやる訳ではないですし、茜様の行かれる儀式の席上は、洞窟の中ですから、例え嵐になっても心配いりませんよ」

 笑いを含んだ声で、上総が答える。

 何気なく振った質問の答えに、茜はぎょっとなった。

「ど、洞窟ぅ!? 洞窟の中に入るの?」

 まるで死に装束のような着物を着て、ロウソクの明かり一本で真っ暗な洞窟に入って、どんな儀式をやるって言うんだろう?

 茜は、背筋を嫌な汗が流れるのを感じた。

「儀式って、昔の元服みたいな物だって言ったよね? 具体的にどんな事をするの?」

「何も難しい事はありません。成人した直系の者が代々続けてきた、形式的なものです。それに、中におられるのは茜様の父君です。『みそぎ』の為に籠もっていらしたが、やっと親子の対面が出来るのです。ゆっくり積もる話でもなさったら良いのですよ」

 ――何がそんなに可笑しいのよ?

 笑いを含んだ上総の答えに、茜はむっとする。

 答えの内容にではなく、明らかに揶揄やゆするような響きが込められていたことに。

 無言のまましばらく歩くと、見覚えのある場所に出た。海岸縁の切り立った崖の一角がぽかりと口を開けている。その入り口には、赤い鳥居。激しい海風になぶられて、しめ縄が激しく揺れている。

 そこにある何の変哲もない洞窟だ。だが、その変哲の無さが余計に不気味さを増長させている。低い海鳴りが響き渡る中、明かりの無いその場所を更に黒々とした闇が覆い隠していた。

 ――あの場所だ。

 十八年前、赤鬼シャッキが母・明日香を連れて入ったあの洞窟。

 確か、あの時も『儀式』という言葉を聞いた気がした。

 同じ物なのだろうか?

 嫌な予感を覚えて茜は、眉を寄せた。 

「さあ、ここからは男子禁制です。どうぞお付きの者に付いて行って下さい」

「う、うん……」

 上総に促された茜は、後ろにいる敬悟を振り返った。

 敬悟は何も言わず、ただゆっくり頷いた。

『行って来い』そう、励ますように。

 これは誰に代わって貰うことも出来ない、茜自信が解決しなくてはならない問題だった。

 木部一族を束ねる惣領、その父に会って、茜の生き方を認めて貰わなくてはならない。でなければ、決して、元の生活には戻れないだろう。

「行って来るよ」

 意を決して、茜は歩き出した。




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