記憶
Ⅰ
地龍を倒して気を失った後、目を覚ましたのは翌日の朝だった。
身体のいたる部分が痛みを訴えるなか、寝かされていたテントの外に出る。すると、その時にはすでに全員が目覚めていた。良い香りのする朝食が用意されていて、出発の準備も整っている。朝食を食べたら直ぐにでも、サバイバルレースを再開できるようになっていた。
「シュウ! 目が覚めたのね。身体のほうは大丈夫?」
「あぁ、なんとかな。歩く分には支障はないよ」
多少、歩く速度が低下してしまうだろうが、森の中を進むくらいなら問題ない。流石に魔物との戦闘となると厳しいが、その辺はエリー達を頼るとしよう。なに、俺が戦力外になっても三人なら何とかなる。
それに一日二日経てば、俺の身体も本調子に戻るはずだ。
「しかし、よくあの時、俺達の居場所が分かったな。びっくりした」
「地龍の咆哮が地上にまで轟いていたし、何度もデカい振動が起こっていたからね。シュウくん達の居場所に大雑把な見当を付けること自体は簡単だったよ。あとは数打ちゃ当たる戦法さ」
「手当たり次第に地面を撃ち抜いて、シュウ達のいた地下空間を見付けたって訳よ」
「なるほど」
それで俺達は助かったってことか。
「そう言えば、リズはどうしてエリーとベッキーが来るって分かったんだ?」
「〝自分勝手な部屋〟は、指定範囲にある魔力の流れくらいなら探知できるのよ。だから、直前にオルケイネスさんの魔力を感じて、きっと間に合うと思ってね」
「そうか、奥が深いな。魔法ってのも」
会話もそこそこに朝食を平らげて、俺達は目的地である霊峰レギス山の麓を目指した。
草木を掻き分け、雑木を躱し、落ち葉を踏みしめる。道中、何度も魔物に襲われたが、そのたびに撃退および殲滅を成し遂げた。そうして定められたルートを狂いなく辿り、いくつかの昼と夜を繰り返し。俺達はやっとの思いで霊峰レギス山の麓にたどり着く。
「はい、第四班の到着を確認しましたよ。お疲れ様でした」
麓で待っていたニッキー先生の言葉により、気の抜けた俺達は一気に座り込んだ。
「やっと……やっと終わった」
「あー、疲れた。こんなに疲れたのは久しぶりだ」
心身共に疲労困憊だ。もうしばらく徒歩での移動はご遠慮願いたい。
あぁ、ベッドが恋しい。熱いシャワーも浴びたいところだ。身体の汚れを全部綺麗に洗い流して、昼間から惰眠を貪りたい気分になる。けれど、それはまだお預けだ。この後、また学園にまで戻らなくちゃあならない。
まぁ、その帰路は用意された馬車での移動となるのだけれど。アークインド学園も此処から更に徒歩で帰れなどと、鬼のようなことは言わないのだ。
「ねぇ、シュウ」
「んー? なんだ?」
「楽しかったわね。サバイバルレース」
楽しかった、か。
「そうだな、楽しかった。一度、死にかけたけれど。たぶん、一生涯このことは忘れない」
「私も忘れないと思う。大人になってもね」
背中合わせに座りあって、そんな言葉を交し合う。
きっと、こうして話したことも忘れないだろうな。
「なに二人で感傷に浸っているんだい? あたし達も仲間に入れておくれよ」
「そうね、エクイストさんだけズルいわ」
とは言え、今後も忘れられないような記憶が、ずっと脳に刻まれ続けるだろう。
この異世界に来てから、色んな人と知り合って、色んな奴と戦った。今日までも記憶も、今日からの記憶も、永遠に残り続ける。大人になっても、老人になっても、絶対に忘れない。
この武者修行の旅は、忘れないはずだ。




