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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第3話 《選択 ヒーローとして進むべき道 》 〜大口怪獣トカゲラ、海藻巨人怪獣ベルント、鎌鋏バガーブ、 スーデリア星人ピーピー登場〜
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#19 ヒーローは運動音痴

 ハカセは自室で机の上のディスプレイと向き合っていた。


 それは彼が地球で見つけた使()()()()()()()()から自作したパソコンであった。


 二〇七〇年現在、パソコンを使う人は皆無。


 九割の人がスマートフォン型の携帯端末(オーパス)やタブレットを使う中、ハカセはこだわりを持って自作パソコンを使っている。


 基盤も配線もむき出しでいかにも手作り感満載だ。


 だが、ハカセの技術とPCの性能が合わされば、軍の最重要機密を気付かれる事なく懐に収めることも出来る。


  今は必要ではないので、やらないが……。


 ハカセはキーボードのテンキー――これまた絶滅危惧種――をリズミカルに叩きながらユウタの身体のデータを入力していく。


「体重四十五、平均的っと。身長は百五十五……オレさまの方が少しだけ高いな」


  いつもの癖で独り言を呟きながら作業していると、画面の上右隅に小さな映像が現れる。


 それは自分の部屋に来客を告げるものだった。


  キーボードを操作して部屋のロックを解除。


「トレーニングルームにいたんじゃないのか?」


  サヤトは無言で部屋に入ってくると、ハカセの後ろに立つ。


「ちょっと部屋に戻っていたの。このまま戻るより、ここの方が近いから」


  そう言うサヤトの視線は、ハカセではなくディスプレイに注がれていた。


「あっそう」


  ハカセも特に気にする事なくキーボードをタイピング。


「ユウタ君は?」


「今は体力テスト。昼飯食べた後だけど、採血も血圧も異常なし。身長体重も平均値。けれど」


  ハカセは両手の指を忙しなく動かしながら、目元を隠す前髪越しにディスプレイを見ていた。


 画面の中では身体検査を終えたユウタが、アシタに応援される中、百メートル走を走っていた。


 フォームはめちゃくちゃで速く走れるはずもなく、


 タイムは平均を大きく下回るものだった。


 その後のランニングマシンを使った三キロ走は途中棄権。


 腕立ても腹筋も十回できればいい方という有様であった。


「訂正。平均的だが運動音痴っと」


  ハカセがパソコンにデータを入力し終える。


「ここだけ見ると、アイツが()()()()だなんて信じられないな。注射器は通るし、採取した血液も何の変化も見られない」

 

 慣れない腹筋をして、お腹の痛みに悶えるユウタを見て、信じられないといった口調でサヤトに話を振る。


「ええ。でも彼は本物の()()()()なの」


 サヤトの声には一片の迷いも感じられなかった。


「じゃあユウタとしての検査は終わった。次は」


  ハカセの言葉をサヤトが継ぐ。


「ガーディマンの身体測定ね」


 ハカセはキーボードを操作し、トレーニングルームのスピーカーと繋ぐ。


「おいユウタ聞こえるか?」


  床に大の字になったユウタが途切れ途切れに返事する。


『き、聞こえて、ます』


「お疲れー。一時間休憩したら次は変身して身体測定だから」


『はい』


  ハカセはスピーカーの接続を切って次はアシタに話しかける。


「アシタ。一時間後に再開するから。ユウタを休ませてやってくれ」


  アシタから「分かりました」の返事を聞くと、タイマーをセットし椅子に座ったままパソコンから離れる。


「さてと、オレは自分の趣味をするが、サヤトはどうするんだ?」


「私はここにいるわ」


「お好きにどうぞ」


 ハカセが自分の作業に没頭する間、サヤトは更衣室で座ってドリンクを飲むユウタに、見守るような眼差しを向けていた。




 一時間後。


 タイマーが鳴ってハカセはパソコンの前に戻ってくる。


  その間ずっとサヤトはパソコンの前にいた。


「ユウタは休めたか?」


  だから画面を見る前にサヤトに確認。


「ええ。もう疲れも取れたみたい」


 サヤトはどこか嬉しそう。


「じゃあ再開するか」


  ハカセはスピーカーを繋ぐ。


「ユウタ。準備はいいか」


『はい』


  画面の中のユウタに疲れた様子は見られない。


  無理をしているわけではなさそうだ。


「じゃあ変身してくれ」


  返事をしたユウタは少し恥ずかしそうに……ポケットを探る。


『あっ! 更衣室のロッカー!』


  慌てて更衣室に取りに向かう。


「あいつ、大丈夫かよ」


  忘れ物を取りに行くユウタを見たサヤトの口元が僅かに三日月の形になった。


  少し経ってからユウタが走って戻ってくる。


『ありました』


  ユウタは左手に持った携帯端末(オーパス)辺りに向ける。


 どうやらトレーニングルームに巧妙に設置されたカメラに見せているようだ。


「確認した」


『じゃあ変身、します』


  人に見られながら変身する事に少し恥じらいを見せながら、ユウタは変身のキーワードを口にする。


『『立ち止まるな。一歩踏み出せ』』


  ディスプレイが翡翠の閃光に包まれ、ハカセとサヤトが一瞬瞼を閉じる。


  瞼を開けるとユウタの姿はなく、十字のゴーグルが特徴的な白銀(しろがね)の金属生命体が立っていた。


「こいつが……」


  サヤトが頷く。


「ええ。ガーディマンよ」


  ガーディマンへ変身したユウタに、もう一度身体測定をさせる。


  まずは身長と体重から。


「身長、百七〇! チェッ、ズッリィ」


  舌打ちしながら、パソコンにデータを入力。


「体重は変わらねえのか、どういう理屈なんだ? そういえば重力操る機関があるんだっけ」


 全身を纏うナノメタルスキンのせいで、血圧は測れず、採血のための注射器も通らないので、そこは断念した。


「変身した時の血液が調べられればなぁ。拘束してレーザーで穴開けて……」


  背後のサヤトから殺気を感じて慌てて弁明。


「何て、冗談はさておき、次は」


  身体測定は終えたので次は体力測定。


  まずは腹筋から始めたのだが、目を疑うような光景が繰り広げられる。


  三十秒で何回できるかというものだったが、変身前は十回もできなかった。


  なのに、スタートした途端、ガーディマンはまるで早送りのように上半身を起こし続けていた。


  同じく腕立ても、先程とは別人のように回数をこなす。


「腹筋九十回、腕立ては百回……人間離れ、というか超人だな」


  三キロ走の平均は約十六分、変身前のユウタは途中棄権。


 けれどガーディマンのタイムは、なんと五分を切っていた。


 公式記録ならば日本新記録である。


  疲れた様子もなく、最後の百メートル走が行われる。


「ユウタ全速力で頼むぞ」


『はい』


『スタート』


 アシタの声と同時にユウタは全力でダッシュ。


  カメラの画像が切り替わる前に、何かが激突する音がパソコンのスピーカーから聞こえてきた。


『た、大変ですぅ』


「なんだ今の、おいアシタ一体何が起きたんだ」


  ハカセは百メートル走のゴールを映すカメラに切り替える。


 映し出されたのは、潰れたカエルのように手足を広げて壁にめり込むガーディマンの姿だった。


『ユウタさん。大丈夫ですか。と、取れない。ハカセ。ユウタさんがめり込んじゃって取れないですぅ』




『ご迷惑おかけしました。あの修理費とかは』


  壁を破壊してしまったガーディマンは怒られた子犬のように小さくなっていた。


「そんな事、気にしなくていいわ」


 サヤトが慰めている間、ハカセは新たなプログラムを製作していた。


  壁にめり込んだ後、近くにいたOF-60三体とアシタによってなんとか抜け出せた。


 百メートルの計測は早すぎて計測不能。


  分かった事は全てにおいて人間を超えているという事だけだ。


 それでも、ハカセにとって大分収穫であった。


  ハカセはそのデータを元に、鼻歌まじりにキーボードを操っている。


「これくらいかな……よし完成」


  ハカセは作業を終えてガーディマンに話しかける。


「おい、いつまでも落ち込むな。その姿だと余計みっともねえぞ」


  ガーディマンが背筋を伸ばす。


『あの、もう終わりですか?』


「次で最後だ」


 キーボードをタイピングして、最後にエンターキーを押す。


 するとトレーニングルーム中央の床が開き、一体のOF-60が現れた。

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