#16 起きろハカセ
サヤトに連れられてユウタはハカセと呼ばれる人の元へ向かっていた。
どんな人か聞いてみると、何でもCEFの超兵器のみならず、ユグドラシルまでも設計開発したというとんでもない人物らしい。
ユウタは、一人だったら確実に迷うが、サヤトの後をついていけば大丈夫と判断し、考え事をしていた。
(えーとイワガネゲンブ隊長、名前の通り、巌のように落ち着いた玄武みたいな人)
CEFメンバーの顔と名前を一致させているため、先を歩くサヤトが歩調を合わせてくれていることに気づいていない。
(コンゴウアツシさんは、力持ちで優しそう。動物に例えるとゴリラかな?
カゲガクレハンゾウさんは見るからに身軽そうだから、忍者、じゃなくてNINJAだね)
フリッカは冷静な基地の頭脳。モリサキタケルは人懐っこいタヌキという感じに落ち着いた。
後は一人。
(ジキョウさんは何だろう。うーん)
初対面で睨まれたせいだろうか、あまりいいイメージは思いつかない。
(目力が凄いから……フクロウとか――)
それに意識を集中していたせいで、目の前で止まったサヤトに気づくのが遅れた。
「アテッ!」
急停止は間に合わず、顔は勢いよくサヤトの背中と激突し、反動で仰向けに倒れてしまう。
助けを求めるように伸ばした右手が掴まれる。
「大丈夫?」
サヤトが右手一本でユウタの身体を支えていた。
なんだか頼りない自分を痛感して顔が熱くなってくる。
「は、はい……」
立ち上がるのを確認してサヤトが手を離す。
指のしなやかさとひんやりとした掌の感触。
アツシの筋肉質な他と比較し、女性特有の柔らかさに、またまた顔が熱くなる。
「ユウタ君。着いたわよ」
呼ばれて自分の掌から視線を外す。
「ここがハカセの部屋ですか?」
(ハカセってどんな人? やっぱり白衣を着たおじいさんなのかな? 下駄履いてたりして)
「ええ」
着いたのを何処かで見ていたかのように、サヤトの腕時計が振動する。
「はい」
『サヤト。到着したようですね』
腕時計からフリッカの声。
「扉のロックは解除できた?」
『後五秒、四、三、二、一。ロック解除しました』
規則正しいカウントダウンが終わると、扉から電子音が聞こえる。
「ロックの解除を確認。今からハカセを起こしに行くわ」
『よろしくお願いします。ネットを遮断されているので内部の状況は不明。不測の事態に気をつけてください』
「了解」
今から危険地帯に行くような通信が終わった。
(ハカセって一体どんな人なの?)
ユウタは最初に考えていた印象を改める。
(危険な兵器とか作りまくって人体実験も辞さないマッドサイエンティストだったりして……)
一人で震えるユウタであった。
「ユウタ君。部屋に入ったら、何が起きてもいいように気を引き締めて」
そう告げると、サヤトは扉を開けて中に入っていく。
「待ってください」
後を追って部屋に足を踏み入れる。
部屋の電気はついておらず、廊下の照明が暗い室内に差し込まれる。
それでも部屋の様子がわかりづらい。
もう一歩中に入ると、少しずつ部屋の様子がわかってきた。
右側にはユウタの身長より大きな棚がある。
中に何か飾られているようだが、判別できない。
左側には正体不明のガラクタが山積みとなっている。
そして部屋の中央奥には壁に背中をくっつけた机があり、その上に無数の配線と基板がスクリーンと一体になった装置がある。
その前には、大きな椅子がこちらに背中を向けていた。
ハカセという人物は寝ているといっていたが、ベッドらしきものはない。
サヤトは左側のガラクタの方へ。
ユウタは部屋の奥にある机に向かうことにした。
机の上に乗った謎の機械が気になる。
近づいて見ると、真っ暗になったディスプレイとその手前に年代物のキーボード。
(これ、パソコンってやつだっけ……)
もっと近づいて見ようと、椅子の背もたれに手を掛けたところで、気づいた。
椅子に誰か座っている。
机の上の装置から椅子の方へ首を動かす。
座っているのは白衣のような服を着た人物だ。
男性か女性かは分からない。
手入れされてないボサボサした長い髪が見えるが、俯いていて後頭部しか見えない。
想像していたよりも小柄だが、この人がハカセかもしれない。
ユウタは肩を揺すってみる。
「あのーハカセさん? ハカセさんですか? 起きてください」
揺すられて首が上を向く。
見えたのは、肉が削ぎ取れ眼球がえぐれた髑髏だった。
「ウワッ!!!?!!!?」
声にならない叫びを上げたユウタは白眼になって固まってしまった。
それを見て、骸骨が子供のような笑い声をあげる。
「引っかかった、引っかかった……あれ? おいどうした? おーい。おいサヤト。こいつどうしちゃったんだよ?」
骸骨が心配そうに声をかけるが、全く反応せず、開いた口からは魂のようなものが浮上していた。
一部始終を見ていたサヤトは、イタズラを見て呆れた母親のように、俯いて顔を覆うことしかできなかった。




