#14 岩が根を張ったように落ち着いている
「さっきの人、なんで怒ってたんだろう」
次のエレベーターが来るのを待つ間、ユウタは無意識にポツリと呟いていた。
それを聞いてサヤトがすかさずフォローする。
「気にする事ないわ」
少し気持ちが晴れたが、それでも何故態度が豹変したのかが気になってしまう。
「来たわ。さあ乗って」
新しいエレベーターにユウタは俯いたまま乗り込む。
ドアが閉まっても、ユウタは睨まれた原因が分からないままだった。
しばらく経って、ドアが閉まってから全く動いてないことに気づいたユウタは顔を上げる。
メートル表示のパネルは見る見るうちに下降していた。
それでも動いているような振動は何も感じられない。
ユウタが驚いた顔を見て気づいたのか、サヤトが説明する。
「この施設はマグネティックエレベーターを採用しているの。つまり磁石の力ね」
説明によると、磁石の反発と引き合う力を使う事で、従来と比べて振動もせず、素早くかつ安全に目的の階へ行けるらしい。
ネックはコストだそうだ。
ドア上のパネルが、マイナス百メートルを表示すると同時に到着を告げるベルの音が鳴る。
ドアが開いた。見えたのは先ほど通ってきたのと全く同じ通路。
サヤトが先立って歩き、ユウタは後をついていく。
白い通路に四角い照明。サヤトは淀みなく左に右にと折れていく。
慣れない者が通れば確実に迷うだろう。
だがユウタを案内するサヤトは、何の目印に頼る事なく歩む。
早足のサヤトに置いていかれないように、ユウタは小走りだった。
サヤトが足を止めたのは大きな両開きの扉の前。
取っ手のようなものは見当たらず、近づくと反応する自動ドアだ。
「ここが司令室よ」
サヤトが扉に近づくと、左右から引かれるように滑らかに扉が開いた。
高さ三メートル程の扉の厚さは三十センチはありそうで、もしこじ開けることになったらとても大変そうだなぁとユウタは思う。
入ると正面の壁に巨大なスクリーンに目を奪われがちだが、それ以上に特徴的なものが聳え立っている。
部屋の中央に百五〇センチ程の白い円柱が立っていて、その柱の上にバスケットボール程の大きさの黄色い光を放つ球体があるのだ。
サヤトがその球体の後ろに立つ男性に声を掛ける。
「隊長。ユウタ君を連れてきました」
こちらを振り向いた男性は、歳は四〇歳くらいだが衰えは感じさせない。
身長は百八〇を超えていそうだ。
短く刈り込んだ灰色の髪と繋がった顎髭、スーツの上から盛り上がった筋肉の幅広い体躯はまるで巌のよう。
「ご苦労、ショウアイ君」
サヤトの事を苗字で呼んだ男性は、鋭い目つきの赤鉄鉱の瞳をユウタに向ける。
男性の右目に走る縦一文字の傷跡を見て、ユウタの緊張が高まる。
「緊張することはない」
「は、はいっ」
と言われても、なかなか緊張が収まるものでもない。
そんなユウタに変わってサヤトが口を開く。
「ほかの人達は?」
壮年の男性は、どんな時でも動じなそうな低い声を出す。
「今こっちに向かっているところだ。先に自己紹介しておこう」
男性は腕を組み直し背筋を伸ばす。
「私の名は岩根玄武。この隊の隊長を任されている」
ゲンブの名前を聞いたユウタはこう思う。
(まるで岩が根を張ったように落ち着いてる)
「僕はホシゾラユウタです。よろしくお願いします」
「よろしくホシゾラ君」
どうやらゲンブは歳に関係なく誰にでも君付けするようだ。




