#9 ヒーローが決して歯向かえない存在
「危なかったー」
悪いことはしていないが、逃れることに成功したガーディマンは近くのビルの屋上にいた。
(正義の味方がパトカーとぶつかって警察に捕まるなんて前代未聞だよ。ただでさえ世間の評判良くないのに……)
ガーディマンが人目を避けて、夜に練習しているのには訳がある。
シルバーバックを用いて事件を起こしたハンプクシュウゴを止めてから、ユウタが変身した白銀の生命体の事が報道されるようになった。
けれどその評価は決して芳しくない。
世間からは「もっと早く敵を倒せ」「むしろ街を破壊した張本人では?」とか言われたり。
ネットの海で漂う言葉は「ダサい」「カッコ悪い」「ヒーローなんて時代遅れ」と悪口の三連コンボ。
(僕はそんな誹謗中傷に負けないぞ)
心の中で反論してはいるが、SNSを見なくなって一週間経っている。
テレビでニュースが流れると、自然と席を立ってしまうようになった。
(ヒーローって難しいなぁ)
そろそろ帰ろうと思い、時間を確認するためオーパスの液晶を視界に表示する。
そこでやっと思い出した。
(あっ、メール来てたんだっけ)
指を動かしてメールを見ると、差出人不明で知らないアドレスだ。
迷惑メールの類だろうと、ため息つきながら削除しようとしたが、タイトルを見て人差し指の動きが止まる。
(あれ。サヤトさん。何で?)
自分のアドレスは知らせていない。
だからサヤトのアドレスも知らなかったのだが、
頭の中に疑問という針が引っかかったままメールの内容を確かめてみる。
どこか硬質な文面でこう書かれていた。
件名は『サヤトです』
『 夜遅くにごめんなさい。緊急の用件があってメールしました。
貴方の手に入れた力のことで話しておきたいことがあります。
明日の午前十一時に怪獣守戦博物館に来てください。
万が一都合が悪ければ返信をお願いします。
後、アドレスは妹から聞きました』
明日は――もう零時を廻っているので今日だが――土曜日。
学校は休みで特に予定はない。
(僕の手に入れた力、ガーディマンの事だよね)
緊急の用件といっても思い当たることはなかったが、断る理由もないので行くことにした。
(十一時か、もう零時過ぎたし帰ろうかな)
ユウタはビルの下を恐る恐る見る。
高所恐怖症――先ほど落っこちた理由の一つである――のせいで目も絡みそうだが、我慢して見下ろすと付近にパトカーの姿はない。
( 特に問題にならなかったみたい。じゃあ帰ろう)
ユウタは再びアンチグラビティブースターを起動させてビルを離れ、自分の住むマンションへ向かう。
自分の家のベランダに無事到着し変身を解除。
(ただいま)
心の中でそう言いながら窓を開けようとすると、
(あれ? 何で?)
開かない。出る時に鍵を閉めた覚えはない。
何度も力を込めても開かない。
窓と格闘している音が聞こえたのか、リビングの電気が点灯した。
そこで全てを察する。
(ああ、やばいよぅ)
ユウタは窓から手を離し一歩離れる。
中から鍵が開く音がして、ゆっくりと封印が解かれるように窓が開いていく。
「あらユウタお帰り」
開けたのは撫子色のパジャマを着たアンヌだ。
いつもの凛とした優しさ溢れる声が怒りに燃えているようであった。
「た、ただいま」
「色々お話ししたい事があるけど、ここじゃちょっと寒いわね。早く入りなさい」
「……はい」
室内に入ったユウタはアンヌがベランダの窓を閉めながら謝る。
「ごめんなさい」
「素直でよろしい。でもお話はします。座りなさい。後、明日はご飯抜きですからね」
聞いた途端、ユウタの頭に漬物石が落ちてきたような衝撃に襲われる。
その衝撃を頭に乗せたまま、アンヌのお説教を聞くことしかできないユウタであった。




