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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第3話 《選択 ヒーローとして進むべき道 》 〜大口怪獣トカゲラ、海藻巨人怪獣ベルント、鎌鋏バガーブ、 スーデリア星人ピーピー登場〜
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#7 ピックポケットショー

 その日の夜。春になったばかりなのに、熱帯夜を過ごしているように身体が熱い。


  夕飯を食べ終えたユウタはリビングのテーブルに両肘をついていた。


  う〜ん。まだ顔が熱いなー。


  夕方見たシーンがなかなか頭から離れず、柔らかそうな頰を撫でる。


  下校時に校門で見た光景がまだ頭に残っている。


  恋人、僕には縁のない言葉だなぁ。でも、もし恋人が出来たとしたら……。


  そこで出てきたのは幼馴染でいつも甘やかしてくれるフワリだ。


  ユウタは神の視点で自分とフワリが顔を近づけていくのを見ている。


(フワリ姉と……キ、キス……うわぁ〜)


  妄想しているだけなのに顔が熱くなっていく。


  不意にフワリの姉である照愛沙耶刀(ショウアイサヤト)の事を思い出す。


  同時に、今にもキスしようとしていたフワリから高校の制服を着たサヤトに変わった。


 それを見たユウタの心臓が破裂するような勢いで高鳴った。


(な、何で急にサヤトさんの事?)


  理由は自分でも分からない。取り敢えず妄想を打ち消そうと、自分の熱くなった頰を両手でマッサージするように摩る。


  キッチンから戻ってきたユウタの母、星空安好(ホシゾラアンヌ)がその様子を見て声を掛けてきた。


「どうしたの? 歯でも痛いの?」


  そういうアンヌの表情は『高校生になって虫歯?』とでも言いたそうだ。


「違うよ……」


(同級生がみんなの見てる前でキスしてたんだ)


 アンヌの凛とした優しさ溢れる声に問われても、流石に本当のことは言えない。


  だから適当にはぐらかす。


「あー、なんでもないよ」


「そう」


  アンヌは、それ以上何も聞かずに持ってきたホットココアをユウタの前に置く。


「ありがと」


「でも甘いものは虫歯に響くかしら?」


「虫歯じゃないって」


  一口飲むとホッと一息つくことができて、夕方見たことの衝撃が少しは和らいだ。


『あにぃ。テレビつけて。テレビ』


  テーブルに三毛猫のホシニャンが飛び乗ってくる。


「何か見たいのあるの?」


『うん。早く早く。始まっちゃうよ』


「あら? ホシニャン、テレビ見たいのかしら」


  ホシニャンはテレパシーで会話することができる猫なのだが、どうやら伝わるのはユウタだけらしい。


  アンヌには猫が鳴き声を上げているようにしか聞こえていないはずだ。


「そうみたい。母さんテレビつけてもいい?」


「いいわよ」


  リビングに据え付けられているテレビをつけ、ホシニャンが観たいチャンネルに合わせる。


  始まったのは外国で行われている何かのショーのようであった。


  多数の観客が半円状に囲んだステージの中央に、正装した一人の男性が立っている。


  ステージ上の男性は最前列の観客席に指を向ける。


  どうやら観客の人に手伝いを頼もうとしているらしい。


  派手な格好のセレブのカップルはどちらも余裕たっぷりな澄まし顔。


  隣には柔和な表情を貼り付けた白髪の老人。


 その隣にいる興奮気味な男の子と両親に向けられたところで指が止まる。


  親子三人が拍手に包まれてステージへ。


 緊張気味の両親に比べて、小学生くらいの男の子はすごく興奮している様子だ。


「マジックショーかな?」


  ユウタの質問に答えたのは、コーヒーを飲むアンヌだった。


「ちょっと違うわ。ステージに立ってる人はマジシャンだけどこれはピックポケットショー。先週スイスで行われていたのよ」


「あれ? 母さん知ってるの」


「ええ。先週生放送で見たわ。これは再放送ね」


「そうなんだ。じゃあホシニャンその生放送見たってこと?」


  ホシニャンはテレビに釘付けのまま答える。


『うん。ちょっとしか見れなかったけど、凄い事するんだよ。だからもう一度見たかったんだ』


「凄い事?」


  テレビに集中するから話しかけないでと言わんばかりに、ホシニャンはテレパシーを使わなくなってしまった。


  見ていると、男性マジシャンが今は全く使われなくなった紙幣を取り出す。


  十枚の紙幣を高級そうな腕時計を付けた父親に渡し、十枚あるか数えさせる。


  ちゃんと確認してからマジシャンに返すと、なんと九枚しかない。


 もう一度父親が数えてみるも、いつのまにか一枚消えてしまっていた。


  親子三人で一枚の紙幣を探していると、マジシャンが後ろに回って「ズボンのポケットを見てください」と言う。


  父親がポケットを探るも何も出てこない。母親はスカートなのでポケットがない。


  皆がまさかと思う中、男の子がズボンのポッケを探ると、なんと紙幣が出てきた。


「えっどうやって?」


  観客が拍手する中、マジシャンが拍手をやめさせ「これもお返ししましょう」と掌を見せた。


  見ると、彼の左手には腕時計が光を反射して光る。


  それは父親がつけていたはずの高級腕時計だった。

 

 再びステージは万感の拍手に包み込まれた。


 ピックポケットショーは大盛況のうちに終わり、ユウタも無意識に拍手してしまっていた。


  番組が終わると、ホシニャンが悔しそうなテレパシーを飛ばしてきた。


『うーどうやってるのかわからないー! ねえあにぃは分かった?」


「いや全然。母さんは?」


「お母さんも分からなかったわね」


  アンヌは飲み終わったコーヒーを片付けようと立ち上がりながら続ける。


「でもピックポケットショーで大切なのは『相手の注意力を逸らす』事らしいわよ」


「……注意力を逸らす」


  口に出してもピンと来ない。


「だから相手をよく観察すれば見破れるかもしれないわね」


「う〜ん。ホシニャン分かる……」


  ホシニャンの方を見ると座り込んだままメトロノームのように首を左右に動かしていた。


 トラックを見破ろうと考えているらしいが答えは出ないらしい。


「二人とも、夜遅いからもう寝なさい」


  キッチンで洗い物するアンヌの声に、二人とも考えるのを終わらせて同時に返事する。


「『はーい』」


  思考するよりも眠気が勝っていた。


『おやすみあにぃ』


「おやすみホシニャン」


  ユウタは飲み終えたカップをアンヌに手渡す。


「ユウタ。明日お休みだからって夜更かししたら駄目よ」


「宿題やってすぐ寝るよ」


「夜更かししてるの見つけたら、()()()()だからね」


「はーい。おやすみ母さん」


「はい。お休みなさい」


  ユウタは自分の部屋に戻ると、電気をつけたままベッドに寝転がって瞼を閉じる。


  三〇分後。ユウタは瞼を開ける。


  キッチンの方から物音がしなくなったのを確認して起き上がり、部屋のドアに近づいた。

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