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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第3話 《選択 ヒーローとして進むべき道 》 〜大口怪獣トカゲラ、海藻巨人怪獣ベルント、鎌鋏バガーブ、 スーデリア星人ピーピー登場〜
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#6 こんな起こし方するのにモテる男

「……ユウタ」


  映画を思い出していたユウタは誰かに呼ばれる。


「ユウタ! おいユウタ!」


「わい!」


  驚きと肯定が合体したような返事をしてユウタは飛び起きた。


「ここは、教室?」


  そこは自分のクラスだ。椅子には誰も座っておらず、先生の姿もない。


「あれ? 授業は……」


「おい、ユウタ。こっち向け」


「ん?」


  寝惚け眼のユウタが、声が聞こえた右のほうを見ると、


 突風が顔を襲い、直後に黒い物に視界が覆われた。


 衝撃で目が醒める。


「起きたか?」


  ソウガが首を傾けて話しかけてきた。


「うん」


「そりゃ良かった」


  そう言ってから、ソウガはユウタの顔の前から、黒く厳ついブーツを履いた右足を退ける。


「『まだ目が覚めない』とかぬかしてたら、見事な十六文キックが炸裂してたぜ。オレの優しさに感謝するんだな」


  ユウタは冗談だと分かっているので、おどけた返事をする。


「ははー、感謝いたします」


「よしよし。ほら行くぜ」


  ソウガはスラックスのポケットに両手を入れたまま、ユウタを置いて教室の外へ出ようとする。


「行くって?」


  ソウガは扉を足で開けてから振り向く。


「次の教室に移動だろう。まだ寝ぼけてるのか? 本当にハイキック食らわすぞ!」


  ユウタの意識が完全に覚醒。脳内の時間割から次の授業を思い出した。


「そうだった! 今行く!」


  ユウタは、一度机を離れてから、タブレットを取るのを忘れて取りに戻ってつまづく。


 何とか身体を支えてタブレットを取ると、急いで教室を出た。


  廊下の先にいたソウガが「あと二分しかないぞ」と言い残して階段を上っていく。

 

  ユウタが教室に着いた時すでに先生がいたが、チャイムが鳴る前に席に着けたので事無きを得た。




  退屈なくらい何事もなく授業は終わり、ユウタはソウガと共に学校を出て校庭を横切る。


 二人は、昇降口で合流したフワリと三人並んで歩いていた。


  ソウガを中心に左手側にフワリ、右手側にユウタ。


  それが三人のいつもの立ち位置であった。


  最初に口を開いたのは、ユウタを指差したソウガだ。


「フワリ。こいつ今日授業中寝てたんだぜ」


「あっ、フワリ姉に言わないでよー」


 ソウガ越しにフワリがユウタの方を覗く。


「ユーくん。授業中居眠りしちゃったの?」


「だって、あったかくて気持ちいいし、それに先生の話し方ゆっくりで眠くなってくるんだもん」


  フワリは顎に指を添えて上を向く。


「ああ。歴史の……。あの先生の授業は眠くなっちゃうよね。フワリも何度か眠くなることあるよ」


「フワリ姉も?」


(やっぱり眠くなっちゃうよね)


  ユウタは味方を得たと思ったが、


「でもユーくん。授業中に寝ちゃダメだよ」


「は〜い」


「そうだぜユウタ。いくらつまんないからって授業中に寝るなよ」


(ソウガ君も寝てたじゃん。いびきかいてさ)


 反撃しようとする前に、ソウガが校門の方に視線を注ぐ。


「おっ、もう待ってるな」


  ソウガの知り合いがいるようで、ユウタとフワリも校門の方を見る。


  そこにいたのは顔を伏せたまま立つ美しい女性だ。


  腰まで届く黒髪は夕日を反射して艶めき、赤いフレームの眼鏡は、見るものに知的な雰囲気を与える。


  すらりとした長身を包むのは、他校の制服であった。


  ユウタよりも一つか二つ先輩だろうか、落ち着いた物腰の女性は、こちらに気づいたのか顔を上げる。


  黒い瞳が潤み頰が真っ赤に染まっていく。


 正しく恋する乙女であった。


(もしかして僕のこと見てる……?)


  そんなユウタの自惚れは一瞬にして瓦解する。


「じゃあな二人とも」


  手ぶらのソウガは二人を置いて歩き出した。


  向かうのは校門で待つ美少女の方。


「実はこの前彼女に告白されてね。今日デートなんだ」


  ソウガは前を見たまま、ユウタ達に手を振ると、一人で校門へ行ってしまった。


  やってきたソウガに気づいた女性は、恥ずかしそうに顔を何度か上下させると、不意打ち気味にソウガにキス。


「あぁっ!」


  予想もしなかった行為を見てしまいユウタもフワリも、校庭にいた生徒たちも顔を真っ赤にしてしまう。


  近くを通りがかったスーツケースを引く白髪の老人が、柔和な表情をくずさぬまま二人を見ながら通り過ぎる。


  そんな中、ソウガだけが慣れているのか冷静で、しばらく校門に二人だけの甘い時間が過ぎていた。


  女性の方が名残惜しそうに口を離すと、謝罪しているのか、何かを言っているように口が動いている。


  ソウガは「気にするなよ」とでも言いたげに首を振ると、何事もなかったように女性の先頭に立って歩いて行ってしまった。


「なんかすごいの見ちゃったね」

 

  フワリから返事がない。


 彼女のを方を見ると、頬を膨らませている。


「フワリ姉。怒ってるの?」


「ううん。フワリは怒ってないよ。なんでソーくんが知らない女の人とキスしてるの見て怒らなきゃいけないの」


  フワリの無意識に湧き上がる迫力に押されてしまう。


「帰ろうユーくん」


「う、うん」


  一緒に帰ったが、フワリはずっと頬を膨らませている。


  ユウタには怒っているようにしか見えなかったが、理由が皆目分からなかった。

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