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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第3話 《選択 ヒーローとして進むべき道 》 〜大口怪獣トカゲラ、海藻巨人怪獣ベルント、鎌鋏バガーブ、 スーデリア星人ピーピー登場〜
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#4 ベルント、手を伸ばす

 一九四五年。強い風の吹く春の午後。


  首都ベルリンに帰郷する為、鬱蒼とした森の中を、五人乗りの重戦車が進んでいる。


 幅広の履帯と転輪の間に泥がこびりつき、黄土色の車体に刻まれた無数の砲弾痕が痛々しい。


  戦車の名はティーガーといった。


  砲塔上にあるマンホールのような蓋が内側から開き、男が上半身を乗り出す。


  二十代後半ぐらいに見える男はティーガーの車長だ。


  実家が薬局を経営しており、薬剤師(アポテーカー)という渾名で呼ばれている。


  実は腹痛の部下に家の薬を渡しただけで、本人に薬剤の知識は全くないのだが。


  狭く息苦しい車内から解放されたアポテーカーは、風に飛ばされないように、左手で軍帽を押さえながら、貴重なチョコレートをひとかけら口に含む。


  敗退ばかりしていた彼等は、ここ数日チョコと水しか口にしていない。


  所属していた部隊は、猛吹雪のように押し寄せる敵の攻勢を止めることが出来ず、退却という文字の上から新たな退却という二文字を重ねるように逃げ続けていた。


  いつのまにか部隊は散り散りとなり、何とか合流した者だけでベルリンに撤退しているという有様だ。


  部隊内で一番位が高い少佐は、首都に温存してある兵力を使って勝利できると本気で信じていた。


  だが、アポテーカーを含め多くの兵は、勝てるとは思っていない。


  なら、何のために戦うのか、武器を捨てて投稿すればいいのではないか。


 何も知らなければ、そう思う人もいるだろう。


 しかし現実に、そんな優しさなど欠片も残っていなかった。


  勝利者は弱者を踏みにじることに快楽を覚える。


  アポテーカー達も同じことをしていたから、その事は痛いほどよく分かっていた。




  帽子を飛ばしかねないほどの風はいつの間にか止んでいる。


  水を一口含んで喉を潤しながら、勝利の美酒を味わったのはいつだったか思い出そうとする。


  しかし、出口が吹雪で凍りついてしまったように、一向に思い出せない。


  不意に戦車のエンジン音が聞こえた気がした。


  慌てて後ろを向き双眼鏡を覗く。


  何もいない。


  敵軍の戦車どころか、友軍の歩兵の姿もない。


  双眼鏡を下ろすと、食べていたチョコが戦車から滑り落ちていった。


  どうやら自分の乗る戦車のエンジン音を敵の戦車のものと聞き間違えていたようだ。


  疲労が蓄積しているのは分かっていても、安全に休めるところは日に日に少なくなっていく。


  生き延びて、散り散りになった部隊の一部と合流した時、まともな戦力は自分達以外いなかった。


  敵戦車に対抗できる大砲はもちろん、無事だった歩兵達も、まるで生きた死者のように覇気がない。


 そんな彼らを一瞬でも哀れと思ったのか、アポテーカーの口が自然と動き、自分の戦車で殿を務めることを皆に伝えた。


  殿、つまり撤退する部隊で一番最後。


  近づいてくる敵を早期に発見し、部隊が逃げ切るまで敵を足止めする。


  いわば捨て駒であった。


  アポテーカー含め乗員達は死ぬ気なんて全くない。


  が、逃げてきた兵の、敗北に敗北を重ね、生きることに絶望した顔を見て、居ても立っても居られなかったのだ。


  アポテーカー達五人は、戦争が始まった頃から共に戦ってきた、いわば腐れ縁だ。


  ある時は血も凍るような東部戦線。


 またある時は、灼熱が身体の水分を奪い去っていく西部戦線。


  そんな地獄のような戦場で、勝っても負けても五人は生還してきた。


  一時期は敵のスパイとあらぬ疑いをかけられた事もあったが、彼らは自らの実力を証明し、何年も最前線で戦ってきた。


  個人の実力もあるが、乗っている戦車も立派な功労者である。


  虎の名を冠した戦車は、その名の通り戦車界の食物連鎖でも上位に位置している。


  並みの砲撃を受け止め弾く城壁のような装甲。


  長砲身の戦車砲から放たれる一撃は、針の穴を通すほどの精度と、分厚い盾を易々と貫く鋭さを兼ね備えていた。


  そんな最強の虎にも欠点はある。


  厚い装甲を纏っているため足回りの負担が大きく、中々全速力で走れない。


  更に大食いですぐお腹を空かして動けなくなってしまう。


  そんな気分屋の戦車であった。


  アポテーカー達はそんな虎と三年近く行動を共にしている。


  しかし別れの時が迫っているのを誰もが感じていた。


  一度履帯がちぎれたため、交換用の履帯は既にない。


  その新しい履帯も、戦闘中に砲弾が掠めた所為で傷つき、いつ外れるかも分からなかった。


  主砲弾はたったの五発のみで燃料も心許ない。


  補給の見込みが立っておらず、このままでは首都に着く前に張子の虎になる事は明白であった。


  アポテーカーは叶わないと分かっていても、この鋼鉄の虎を敵に破壊されるくらいなら、自分の手で終わらせてあげたいと思っていた。


  それがせめてもの手向けだと。




 アポテーカーを乗せたティーガーが進む森の名前は、迷いの森という。


 名前の通り昼間でも薄暗く霧も立ち込める。


  もし道を外れれば、立ち並ぶ木立に呑み込まれて二度と帰ってこれないと云われている。


  もちろんそれは冗談で『迷いの森』という名前も、子供を怖がらせ遊ばせないための方便だった。


 そんな森を進むティーガーの内部では通信手が無線と格闘していた。


  先行している部隊と定期的に連絡を取り合っていたのだが、一時間前から返事が返ってこない。


  こちらから呼びかけても、向こうから聞こえてくるのは砂嵐のような雑音だけ。


  まさか襲撃を受けたのかとも思ったが、銃声や爆発音は聞こえない。


  ここはまだ敵に占領されてないはずなので、待ち伏せを受けたとは考えられなかった。


  けれど、本隊とは一向に連絡が取れない。


  無線の調子が悪いのか、原因は不明だが定期連絡を怠ると例の少佐が愚痴愚痴とうるさい。


  アポテーカーはティーガーの速度を少しだけ上げるよう操縦手に指示して、本体との合流を急ぐ。


  前日の雨でぬかるんだ土の道に轍を作りながら進むと、前方に濃い霧が現れた。


  本体との合流を優先するため霧の中に突入する。


  まるで綿のような感触の湿った霧の壁を突破すると、途端に辺りは真っ白になり、空はもちろん森の木々も見えなくなった。


  辛うじて戦車の周囲数メートルが確認できる程度だ。


  視界の悪さで事故を起こさないようにと指示を出す。


  アポテーカーは出来るだけ視界を確保するため、先ほどと同じく戦車のキューポラから上半身を出していた。


  すると前方に見覚えのある影を見つけた。

 

  兵を安全に運ぶ兵員輸送車だ。


  何故か霧の中で停車している。


  ガス欠なのかと近づくと異変に気づく。


  ()()()()()()()()


 後部に乗っていた歩兵の姿もなければ、運転席と助手席のドアも開いていて、そこにも人の姿はない。


  乗り捨てて他の車両に移ったのかもしれないと、見当をつけたアポテーカーは指示を出して先に進ませる。


  一向に味方の姿はない。


  突然ティーガーが急停止した。


  上半身を車外に出していたアポテーカーは、すんでのところで両手で身体を支える。


  何事かと操縦手に尋ねると、前方にヘルメットを見つけたと報告を受けた。


  アポテーカーも落ちているヘルメットを見つけた。


  泥で汚れてはいるが、それ以外にも鮮やかな赤が付着している。


  その赤黒い色は血液に似ていた。


  ティーガーはヘルメットを潰さないように気をつけながら前進。


  何台もの兵員輸送車を見つけるが、やはり誰もいない。


  輸送車の一台が横転している。


  近づいて観察したアポテーカーは首を傾げた。


  まるで衝突事故を起こしたように輸送車の側面がへこんでいる。


  この見通しの悪い霧のせいで事故を起こしたのだろうか。


  それにしては、ぶつかったはずの相手がいない。


  原因が分からず、さらに情報を得るために前進する。


  アポテーカーは気づかなかったが、そのへこみは()()()()()()()()()()()()()




  アポテーカーを乗せたティーガーが霧の中を進む。


  聞こえるのはエンジン音だけ。


  見つけるのは乗り捨てられた車両ばかり。


  進んでいくと、ティーガーの左履帯から何かに乗り上げたような衝撃が伝わってきた。


  アポテーカーは停止させると一度降車して、履帯が踏んだものを確かめる。


  潰れて砕けた銃だ。


  味方の歩兵が携行する小銃が落ちている。


  どうやら霧のせいで気づかずに潰してしまったらしい。


  だが何故こんなところに銃が落ちているのか、理由が不明だ。


  アポテーカーは他に何か手がかりがないかと辺りを見回すも視界はほぼ真っ白。


  その時、右足が何かを踏みつけた。


  一瞬ぬかるんだ土かと思ったが、足を動かすと広がった何かが一緒に動く。


  その場に屈み込む。


  泥まみれで穴だらけの軍服が落ちている。


  歩兵が着るものだ。


  あたりには装備を留めるベルトらしき、所々穴だらけの残骸もある。


  アポテーカーは軍服を右手に取ってすぐに落とした。


  泥で気づかなかったが、何か粘ついた液体が軍服に付着していた。


  嗅いでみると強い生臭さが鼻に襲い掛かってきた。


 アポテーカーは右手を洗うように泥の中に突っ込みかき回す。


  粘ついた液体は取れたが、泥の匂いに混じって微かな生臭さが残っている。


  戦車に戻ると、手拭いで手を拭きながら見たことを乗員に知らせる。


  落ちていた小銃、穴だらけの軍服、それに付着していた汚らしい粘液。


  エンジンの鼓動が聞こえる中で考えても、何が起きているのか見当もつかない。


  戻るか進むか悩むところであったが、戻っても敵が追ってきてる。


  なので進むことに決めた。それに進んでいれば仲間と合流できるかもしれないと、淡い期待を抱いていたから。




  穴だらけの軍服を見つけて数分経った頃、突然腹に響く鈍い音を捉えた。


  砲撃だろうか、規則的でありながら何度も鳴り響いている。


  やはり味方は敵と遭遇したのかもしれない。


  アポテーカーは援護する為、視界不良の中出来る限りの速度を出すように指示を出す。


  同時に砲手と装填手にも戦闘用意の命令を出した。


  車内が痛いほどの緊張感に包まれる中、ティーガーは友軍を助けるために突き進む。


  霧が少しだけ晴れて視界が開けてきた。


  前方から四角い体が滑るように向かってくる。


  ティーガーを停止させ、いつでも撃てる用意をさせた。


  前からやってきたのは通信機能が強化された味方の戦車であった。


  まるで、前方にいる敵から逃げるように後進している。


  敵の姿は見えないが、断続的な砲撃は今も続いている。


  不思議な事に爆発は見えない。


  状況を確かめようと、無線を飛ばすが、指揮戦車のアンテナが折れているのか返事は返ってこない。


  指揮戦車が引っ張られるように動きを止めた。


  どうやら泥に足を取られたらしい。


  幅の細い履帯が必死に泥をかきわけようともがくが、余計にぬかるみにはまっていく。


  アポテーカーは助けに行くための指示を出そうとした時、()()()()()()()


  指揮戦車の前方から、数十メートルはありそうな人の影が近づいてくる。


  動けない指揮戦車が影に向けて機銃を撃つ。


  その銃火に照らせて緑色の藻の塊のようなものが見えた。


  銃撃が止む。


  指揮戦車の木製の砲塔が、左右から指のようなものに掴まれていた。


  砲塔は簡単に潰れ、持ち上げられるように車体と分離してしまった。


  アポテーカー達は金縛りにあったように身体が動けない。唯一動くのは瞳だけ。


  潰れた砲塔の下から二本の足が逃れようと暴れている。


  その足に向かって伸びるのは、大きな右手。


  手の甲まで緑の藻ようなものが生え、太い五指は黒に近い緑色だ。


  人間の足より遥かに太い指――人差し指と親指だろうか――が砲塔からはみ出た足を掴み一気に引っ張りる。


  下から出てきたのは、部隊の指揮をとっていた少佐だった。


  左足を掴まれ、天地逆転した少佐は、声にならない叫びを上げ続け、拘束から逃れようとしている。


  努力の甲斐なく、少佐を掴んだ右手はゆっくりと動きある場所で止まった。


  霧の中に浮かぶ満月のような、人の顔の輪郭によく似ている。


  月の下半分が大きく開く。

 

  逆さ吊りの少佐は正体が分かっているのか、何度も許しの言葉を口に出して子供のように泣き喚いていた。


  首都に行けば勝てると言っていたあの根拠のない自信は見る影もない。


  少佐は遂に、慣れない手つきで腰のホルスターから拳銃を取り出すと、自分の口に押し込み引き金を引いてしまった。


  力が抜け、地面に向かって万歳するような格好で動かなくなってしまった少佐。


  巨大な影は大きく開いた半円状の穴の中に、力尽きた少佐を落とす。


  穴が閉じまるで咀嚼するように動く。


  霧が晴れ、その影の正体が判明する。


  全長は三十メートルくらいで、二本の手足を持った神話に出てきそうな巨人だった。


  全身は頭の先からつま先まで、緑色の干からびた海藻みたいなものがまとわりつき、皮膚らしきものは見えない。


  巨人は下顎から生えた二本の牙が目立つ口から、痰を吐くように何かを吐き出す。


  ティーガーの目の前に落ちたのは、少佐が着ていたと思われる()()()()()()軍服だった。


  巨人の、人間によく似た二つの(まなこ)がアポテーカーの方に動く。


  その黒目は、新しい食べ物を見つけた事を如実に語っていた。


  巨人が右手を開き、こっちに伸ばしてくる。


  ゆっくりとした動作に見えるが三十メートルの巨人の腕は予想外の速さで迫ってくる。


  逃げろ、とアポテーカーが指示を出す前に、主砲が火を噴く。


  巨人の右掌が爆炎に包まれた。


  アポテーカーは勝手に攻撃した砲手を射竦める前に、操縦手に後退を指示。


  傷ついた履帯を必死に回転させて、前を向いたままその場を離れる。


  海藻の巨人は、黒煙を上げる掌を消火するように息を吹きかけていた。


  しかしこちらが逃げていることに気づいたのか、その行為を中断し巨体を進ませてくるではないか。


  操縦手に後退し続けるように指示を出し、砲手には砲撃を指示。


  移動中の射撃など、普段なら弾の無駄遣い。


  だが目の前の標的の大きさからして外れるとは思えない。


  アポテーカーの見ている中、砲撃が開始された。


  左上に逸れた砲弾は巨人の右肩に直撃。


  海藻の巨人の身体が半回転した時、背中に四つの噴火口のような突起物が見えた。


  三発目の砲撃。


  胸部で爆発するが、体毛のような海藻に傷ひとつない。


 装填手が新たな砲弾を装填する間、砲手は足でスイッチを踏んで主砲隣の機銃で牽制する。


  手持ち無沙汰の無線手も車体の機銃で巨人の両脛を交互に撃つが、効果があるようには見えない。


  砲手の放った機銃の弾が巨人の頭に向かうも左手で防がれてしまった。


  四発目の砲弾が腹に当たる。


  海藻の巨人の身体がくの字にれるがそれだけだった。


  すぐさま態勢を立て直し追いかけてくる。


  銃弾は効かず、砲弾もたったの一発しか残っていない。


  全速力で後ろに下がっているが、ティーガーの後退速度は亀の歩みのようなもの。


  すぐに追いつかれてしまうだろう。


  アポテーカーが諦めに似た気持ちに覆い尽くされそうになった時、砲手が口を開く。


  巨人の海藻に覆われていない目は弱点ではないかと言うのだ。


  確かに奴にとって豆鉄砲みたいな銃弾が頭に近づいた時、左手で庇っていた。


  確実な証拠はないがアポテーカーは砲手の提案に賭ける。


  それに失敗した時は、残っている手榴弾を車内で起爆させる。


  奴に噛み砕かれ胃液で消化されるならと選んだ最後の手段だった。


  アポテーカーは巨人の気をひくため、照明弾を霧に包まれた上空に向かって放つ。


  小さな太陽のような強い橙色の光が、天に登っていく。


  海藻の巨人は足を止めると、まるで興味を示した子供のように照明弾に右手を伸ばす。


  狙いを正確にするため停車するティーガー。


  装填手が最後の砲弾を拳骨で押し込んで装填。


  人喰い巨人の右目に照準を合わせる砲手。


  発射準備が整った事を知ったアポテーカーは、喉が裂けても構わないほどの大声で命令を出す。


撃てー(フォイアー)!」


  鼓膜を破かんほどの轟音と共に鋼鉄の弾丸が螺旋を描きながら砲口から飛び出す。


  砲弾は狙い違わず、巨人の柔らかく黒い左の(まなこ)を貫いた。


  海藻の巨人は左目を抑えながら無茶苦茶に右手を振り回す。


  霧は完全に晴れ、代わりに飴をたっぷり含んだ綿のような雲が空を覆い尽くしている中


  アポテーカーは後退を指示する。


  しかし数メートル下がった時、硬いものが引きちぎれたような音がして突然停止。


  音のした方を見ると、左履帯が耐えきれずに千切れてしまっていた。


  左目を抑えたまま巨人が手を伸ばしてこっちに向かってくる。


  もう駄目だ。そう思った時、空から天の恵みが降ってきた。


  頰に当たったそれは冷たかった。


  一つ二つだったそれは次第に激しさを増していく。


  雨だ。


  空を覆う雨雲から決壊したような大雨が降り出したのだ。


  アポテーカーの眼前で恐ろしい踊りを披露している者がいる。


  海藻の巨人が、銃弾も砲弾も効かなかった巨人がまるで踊るようにもがき苦しんでいる。


  雨が、空から降る雨粒が巨人の干からびた海藻に当たり、まるで酸を浴びているように、音を立てて白煙を上げている。

 

  大雨を浴び続けた巨人は、それを止めるように右手を伸ばしたまま彫像のように固まり溶けていく。


  海藻のような体毛に黒い皮膚、そして筋肉と内臓が溶け、最後まで残っていた骨が跡形もなく溶けていった。


  巨人が消えて無くなったと同時に、嘘のように雨が止んで雨雲が退場し、次に登場したのは夜空に浮かぶ満月であった。


  幻かと思ったアポテーカー達は、巨人が消えた場所で月明かりに照らされた白い山を見つける。


  それは、巨人に喰われたであろう大量の人骨の山であった。




  犠牲になった仲間を埋葬し、長年連れ添ったティーガーと別れの挨拶を交わしたアポテーカー達は徒歩で首都に向かう。


  ベルリンに到着した時、彼らは歴史上最後の人類同士の戦争が終わった事を告げられた。


  軍を退役した彼は、実家の薬局を継いで名実共に薬剤師(アポテーカー)となったのだった。


  彼は一年に一回、辛い戦いを生き抜いた仲間達と集まって思い出話に花を咲かせながら、穏やかな余生を過ごしたという。

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