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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第2話 《新生 最弱で最強のヒーロー 後編》 〜限界改造獣メカメカキョウボラス ムベホスアーマー 登場〜
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#25 「……アメイジング」

  ユウタとシュウゴのところに二台の車両がやって来る。


  先頭は空気抵抗の少なそうなシルバーボディのSUV。


  その後ろの車両は艶消しされた黒いボディで、見るからに頑丈そうな六輪のトラックだ。


先頭のSUVのドアには、特徴的なエンブレムが描かれている。


右手で盾を構え、左手に地球を抱く騎士のエンブレムだ。


それはCEFの車両シルバーハウンドであった。


 ユウタが見守る中、二台の車は数メートル手前で停車。


  黒いトラックはユウタにお尻を向けて止まった。


  トラックから降りてきたのは二体のヒュー(O)(F)(-)(6)(0)だ。


 シルバーハウンドからも一人が降りてくる。


  頭部は、SF映画に出て来る宇宙人みたいな円筒形のヘルメットに覆われていて、そこだけ見ると性別がわからない。


  しかし、張り付くような薄手のボディスーツに包まれた身体つきから推測はできる。


  細い腕に膨らんだ胸、括れた腰に柔らかそうな太もも。明らかに女性であった。


  女性は背後に立つOF-60に命令を出した。


「彼を連行して」


「「了解しました」」


  同時に返事したヒューマノイド二体は、屋根に食い込んだシュウゴを簡単に引き抜く。


 シュウゴは痛みに呻くような声を出しながらも、文句も言わずに為すがまま、トラックに乗せられていった。


  後部のドアが閉まると、ヘルメットで素顔を隠した女性が、腕時計のようなものを操作しながら、ユウタの方を向く。


  顔が見えないけれど、その美しい身体つきからきっと美人なんだろうなと思った途端恥ずかしくて視線が定まらない。


  「……大丈夫そうね。協力に感謝するわ」


  日本刀のように鋭い声音ながらも、どこか親しみの込められていたその声を、ユウタは聞いたことがあるような気がした。


  仄かな甘い香りを感じながら、ユウタは指で頰を掻きながら尋ねる。


「あっ、昨日、僕とフワリ姉を助けてくれようとしてくれた方ですか?」


  ユウタが思い出したのは、爆風から守ってくれたシルバーハウンドに乗っていた女性だ。


  確かシルバーバックに殴り飛ばされて車ごとビルにぶつかったはず。


「あら、あの時もその姿だったかしら? ユウタ君」


「いえ、変身してない……あっ、違いますよ! 僕ユウタなんて知らないですよ!」


  ユウタは両手を振らながら慌てて否定。


「いいの、隠さないで。周辺一キロに人の姿はない事は確認してるから」


  女性が首に触れると、ヘルメットが首元に収納され素顔が解放された。


  お団子のようなシニヨンに纏めた艶のある紫の髪。そしてアメジストの瞳。


  ユウタもよく知るお隣さんであった。


「サ、サヤトさん⁈ CEFに所属してたの?」


「何驚いてるの? 私は防衛軍の人間って言わなかったかしら?」


「フワリ姉からは、危険の少ないオペレーター業務だって聞いてましたけど」


「そのことを話すと少し長くなるから、また今度にしましょう。今は彼を護送するのが最優先」


「あっはい。でも逮捕するなら警察の仕事じゃ?」


「今日みたいな事件の犯罪者は私達(CEF)の管轄なの」


  サヤトは、シルバーハウンドの運転席のドアを開け乗り込む直前、何かを思い出したようだ。


「そうそう。早く病院に行ってあげて。フワリが目を覚ましたみたいだから」


「本当ですか⁈」


  サヤトは頷く。


「ええ。意識はハッキリしてるみたいだから。顔見せてあげて……でもその姿は驚かれるからやめておいた方がいいわ」


「はい。ありがとうございます。すぐに向かいます!」


  ユウタは背中の反重力(アンチグラビティ)推進機関(ブースター)から緑の粒子を放出しながらビルの間を駆け抜け、病院に一直線に向かう。


  そんな彼を見送りながら、サヤトは恥ずかしさを誤魔化すようにヘルメットを着用し、誰にともなく呟いた。


「……アメイジング」




 ユウタが空を飛ぶ姿を見ていたのはサヤトだけではなかった。


  辛うじて倒壊を免れたビルの屋上、転落防止の柵の上に一人の人間がいた。


近くの火災の煙で顔は確認できない。


  だが、黒煙でも輝きを隠せないオレンジ色の瞳で、射抜くようにユウタを睨むと、鋭い犬歯をむき出しにして唸る。


「あれがヒーロー? ダセーぜ」


  一方、瓦礫に下半身を潰された一体のOF-60もまたユウタの事を見上げていた。


  カメラアイの映像はある場所のモニターに映され全て記録されている。


  そのモニターを穴が空くほど見つめていたのは、血液を凝縮したような、美しくもどこか危うい二つの赤い瞳だった。




 病院の上空に到着したユウタは、どこに降りるべきか迷っていた。


  そんな時、三階のある窓からこちらを見ている人影を見つけた。


  ユウタはそちらに向かうが、勢い余ってぶつかりそうになってしまう。


  ストップストップ!


  頭の中で念じると、急ブレーキがかかり、窓の二メートル手前で止まった。


「危なー」


  目の前に右手が伸ばされる。


  それはアンヌの手であった。


「お帰りユウタ」


  アンヌの目の周りは真っ赤になっていたが、笑顔で出迎えてくれた。


「……ただいま母さん」


  ユウタは差し出された手を掴んで病室に戻るとそこで変身を解除した。


「フワリちゃん目覚めたそうよ。顔見せてあげて」


「うん」


「帰ったらたくさんお説教しますからね」


「う、うん」




 看護師が風のようにかけていく少年を見咎めて注意する。


「病院内で走らないでください」


  そんな注意もどこ吹く風。


  ユウタは早くフワリの笑顔を見たくて堪らなかった。


  フワリ姉のいる病室の前に着くと、深呼吸して息を整えてから部屋のスライドドアを開けると、最初に目に付いたのは大きなピンク色の瞳だ。


「ユーくん。おはよう」


  病室には、ベッドの上でこちらに柔らかな笑顔を向けて手を振るのは、桃色の病衣を着たピンクのショートボブの女性。


「フワリ姉」


  元気そうな幼馴染の姿を見て、ユウタは目を擦る。


  泣くのを堪えて、彼女の両手を思わず掴んでしまう。


「よかった! 元気そうで良かったよ〜」


「フワリのこと助けてくれたんだよね。ありがとう」


「僕の方こそ助けてくれてありがとう……フワリ姉?」


 見上げるとフワリは震え、何かを我慢しているように見える。


「もしかして具合悪いんじゃ、すぐ看護師さん呼ブッ!」


  ユウタの視界が真っ暗になり、直後顔面が柔らかくて温かい二つのお饅頭に包まれた。


 こ、これってー!


「ギュウ〜〜」


 フワリは、自ら持つ大きくて柔らかな二つのマシュマロの中にユウタを誘ったのだ。


「ユーくんパワーいっぱい貰っちゃおう。ギュウ〜〜」


  ユウタは息苦しさと、至福の感触で天にも昇るような気持ちを味わっていた。


「あらあら」


  遅れてやって来たアンヌは、頰に手を添えると、二人を微笑ましそうに見ていた。


  街は怨念のような黒煙に包まれている。だが、朝日はそれすらも浄化するように明るく輝いていた。

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