#22 みんなとテレパシー出来ればいいのに
メカメカキョウボラスが弁慶の立ち往生状態になった直後の事。
う〜〜ん困ったな〜。
一匹の三毛猫が、交通量ゼロの交差点の真ん中で前足を立たせ、お尻を地面につけて座ってる。
ホシニャンだ。
額にある、見える人にしか見えない星の形のクリスタルが特徴的なホシニャンは、交差点の真ん中で、しきりに首を動かしていた。
困った。道がわからなくなっちゃったよ〜。
ユウタに助けられた後、指定された病院に向かっていた。
そこまでは順調だったのだが、爆発音が気になって後ろを見たら目が釘付けになってしまったのだ。
カイジュウの首が吹っ飛んだ!
ホシニャンはヒーロー好きのユウタの影響で怪獣という単語を知っていた。
見届けてから病院に向かおうとしたのだが……。
あれ? どっちに行けばいいんだっけ? あれあれ?
爆発に気を取られて、方角を見失ってしまったのだ。
あにぃが言ってた、ミナミってどっち?
目視で探そうとしたが、周りのビルの背が高すぎて、病院の病の字も見えない。
完全に目的地を見失ってしまっていた。
どこへ行けばいいかわからず、四方が見える交差点の真ん中で正しい道を探す。
あっち、いやこっちに行ってみよ――。
見当をつけて一歩踏み出そうとした時、ホシニャンの鋭い聴覚が人間の叫びを捉える。
今の、悲鳴?
声は甲高く、子供のように聞こえた。
ホシニャンは気になって、悲鳴が聞こえた方へ走り出す。
悲鳴の主が道路の真ん中にいた。
二人の大小の人間が尻餅をつき、ホシニャンに背中を向けている。
大きな人間が小さな人間を守るように抱きしめていた。
ホシニャンは知らなかったが、ユウタに助けられたあの父子だった。
あの二人どうしたんだろう?
父子の視線の先に何があるのかと、近づきながら視線をそちらに向ける。
な、何あれ?
こちらに向かって二足歩行のトカゲが歩いて来る。
頭、胴体、手足が鈍い光を反射するブロンズ色で、両手から伸びたオレンジ色の尻尾を引きずって歩いていた。
垂れた尻尾が道路を擦るたびに、煙が上がり溶けていくではないか。
このままじゃ二人が危ない。
ホシニャンは彼らの前に立つと、二足歩行のトカゲに向けて牙を見せた。
「フゥー、シャアァァァッ!」
立てた尻尾を膨らませ『ボクに触れたらケガするよ』と言わんばかりに全身の毛を逆立てる。
トカゲの動きが止まった。
ホシニャンは威嚇しながら、父子に向けて訴える。
早く逃げて!
そう伝えているつもりでも、父子にはこう聞こえていた。
「ニャアニャア!」
二人には通じていないようで、お互い顔を見合わせて動こうとしない。
あ〜もう、みんなとテレパシー出来ればいいのに。
「あぶない!」
ホシニャンの耳が、男の子の警告と空気を切り裂いて迫る音を同時に捉え、反射的に体が動いた。
トカゲが振るったオレンジ色の尻尾が、さっきまで立っていた道路を抉り取る。
直撃は免れたが、脇腹に熱湯の数倍の熱さを感じ、足が痺れたように動けなくなり着地に失敗してしまう。
顔を上げると無表情なトカゲに見下ろされていた。
ホシニャンは宝物を隠すように尻尾を丸め、ヒゲを後ろに引いて抵抗しない意思を伝える。
そんなホシニャンを見ても、無表情なトカゲは無慈悲な動作で両手の尻尾を同時に振り上げた。
やだ、やめて。あにぃ助けて……。
振るわれたオレンジ色の尻尾がホシニャンに到達する前に、二足歩行のトカゲが横に吹き飛んだ。
見上げると、白銀を纏った人がこちらに背中を見せていた。




