#20 「ぼくの邪魔するな!」
吹き飛ばされたユウタは瓦礫とガラスの破片を退かしながら、外に出る。
見ると、シュウゴは頭痛でもするのか、頭を抑えて片膝をついている。
強く瞼を閉じ、歯が割れそうなほど食いしばっているところから見て、かなり苦しんでいる様子だ。
ユウタが近づいていくと、何か小さな声で誰にいうわけでもなく呟いていた。
一つの身体に大人と子供、二人の人格がいるような口調で口を動かし続ける。
「私の夢は宇宙に行く事、ぼくの夢は宇宙に行くこと。私の夢は世界の源を奪う事。ぼくの夢はヴェルトオヴァールを奪う事――」
服から覗く手や首に、沢山のオレンジ色のミミズが蠢いている。
ソレはシュウゴの全身を支配するかのように身体全体に広がっていた。
首から顔にかけてミミズが上っていく間も、シュウゴは呟き続ける。
「私の夢は宇宙、違ヴェルトオヴァールを違う。宇宙に行く……違う! ぼくに与えられた命令はヴェルトオヴァールを奪うことだ」
全身にオレンジ色のミミズ達が行き渡ったと同時に、シュウゴは立ち上がった。
同時に頭部全体が、ホームベースによく似たプロテクターから出てきたヘルメットのようなもので覆われる。
形だけ見ると、まるでトカゲの頭のようだ。
掌からは先程ユウタを投げ飛ばしたエネルギーウィップが伸びてきた。
トカゲのヘルメットで顔を隠したシュウゴは、下を向いたまま歩き続け、気づかなかったのか、崩れて落ちていた瓦礫にぶつかる。
「ぼくの邪魔するな!」
瓦礫を叱責しながら両手のウィップを振り回すと、コンクリートの瓦礫が細かく分断された。
道を開けるとそのまま進み続け、目に付いたもの全てに八つ当たりするように、ウィップで切断していく。
それは、瓦礫も車も街灯も街路樹も等しく、まるで積み木を崩す子供のように、邪魔だと思ったものを破壊していた。
「止めてください!」
ユウタは後ろからシュウゴを羽交い締めにする。
止めなければならなかった。
何故ならシュウゴの向かう先には、アンヌやフワリが入院している病院があったからだ。
ホシニャンや、助けた父子も向かっている筈だ。
そんな所に、こんな凶器を振り回す人間を向かわせるわけにはいかない。
「離せ!」
「離しません。落ち着いてください」
シュウゴは右手のウィップを掌に収めると、羽交い締めを解こうとユウタの左腕を掴み力任せに剥がそうとする。
ユウタは離されまいと力を込めて抵抗する。
シュウゴの右手がユウタの左腕から離れた。
諦めた?
ユウタがそう思った直後、突然視界が黒く覆われると同時に、万力に締め付けられるような痛みに襲われる。
シュウゴが右手で、ユウタの顔面を鷲掴みにしたのだ。
そのまま力任せに引き剥がされ道路に叩きつけられてしまう。
ユウタは倒れたまま、足をつかもうと下から手を伸ばすが、あるものを見て動きを止めてしまう。
見下ろしていたシュウゴの顔は、トカゲの口にあたる部分の赤いシールドに覆われていた。
ヘルメット自体に瞳のようなものがないので感情が読めない。
気付いた時には、シュウゴの右踵でユウタは踏みつけられてしまった。
「ガハッ!」
シュウゴの右踵から陶器が割れたような乾いた音が響く。
ユウタが激痛でもがく間に、シュウゴは先に進み出す。
痛みに耐えながら立ち上がると、両手をだらりと下げ、手に持つウィップを引きずりながら歩くシュウゴの後を追う。
ユウタは気づいていなかったが、踏みつけられた胸部に小さな亀裂が広がっていた。




