#18 赤い鏃
それは太陽を背に落ちてくる。
重力に無理やり引かれているからではない。
自ら勢いをつけて、重力さえも利用して垂直降下していた。
ユウタの視覚に映るのは、音速をはるかに超えて真っ直ぐ怪獣に落ちていく真紅の鏃。
鏃は怪獣の頭頂部に突き刺さる寸前、先端から青い光弾を機関砲の連射のように放つ。
青い弾丸は一発も外れることなく怪獣の頭部に直撃し、明るく青い閃光が何個も生まれた。
鏃は激突する寸前、怪獣の額を擦るように掠めて飛び去っていく。
それは鏃のような赤い菱形の飛行機のようであった。
先端には青い弾丸を発射するための砲口が四つあり、後部からは青白いプラズマの炎を吹いている。
その赤い飛行機は、空を焼き尽くすような音を出しながら空気を切り裂いて飛び去る。
銀の怪獣は赤い飛行機の方を向くと、角から針のような赤い光線を撃つ。
赤い飛行機は光の速さで飛んでくる針を、まるで見えない足場を飛び跳ねるような機動で避けてビルの陰に隠れた。
角から針光線を放ち、ビルに穴を開けていく怪獣の後頭部に、複数の青い矢が当たり閃光に包まれた。
赤い戦闘機がいつのまにか怪獣の後ろに回り、先端から青い光弾を連射しているではないか。
怪獣も撃たれ続けているわけでなく、すぐさま向きを変えて角から針光線を出して反撃。
赤い飛行機は反転して回避。そのすぐ後ろの空間を針が灼いていく。
怪獣の頭部の装甲が熱せられた金属のように溶けている。
そんな自らの状態に気づいていないのか、怪獣は針光線を乱射していた。
戦いを見守っていたユウタはあることに気づく。
赤い飛行機がもう一機いた事に。
二機目の赤い飛行機が機体の後部から、放物線を描く八つの青い光線を放った。
八つの光線は全て怪獣の頭部に集中し青い爆炎と爆風が巻き起こる。
ユウタから四メートル程離れたところに、巨大なサイの角が落ちてきた。
正体は針光線を放っていた怪獣の一本角であった。
角を失った怪獣が初めて口を開けると、まるで痛みを表現するかのように咆哮する。
驚く事に口内も銀の装甲に覆われていて、喉からは何かを発射出来そうな砲口が覗いていた。
そんな怪獣に緑の光が降り注ぐ。
上空から現れた緑の光は道路を溶かしながら進み、怪獣の左肩から尻尾に回り、最後に右肩を通過した。
もし、ユウタが上空に飛べていたら、道路に逆U字状の傷が出来ていた事に気付いただろう。
怪獣の咆哮が止む。
同時に、肩から滑るように左腕が道路に落ちる。
断面はオレンジ色の光と熱を発していた。
間髪入れずに尻尾が真ん中から落ち、左腕と同様に肩を切られた右腕が落ちて倒れ、近くにあったビルに倒れこんだ。
両腕と尻尾を失った怪獣は、体の状態を気にする風もなく、攻撃してきた相手を探して首を動かす。
ある一点を見つめて止まった。
ユウタも釣られて、怪獣が見ている方向に首を向ける。
いた。空に浮かぶ濃い青色の剣だ。
まるで中世の騎士が持っていそうな長剣が腹を下にして空に浮いている。
切っ先を怪獣に向け、下から緑の光を四つ輝かせて滞空していた。
怪獣が長剣に向けて口を開く。
自分の体を傷つけた剣に、怨みをぶつけようとするかのように、喉の奥から破壊の光が漏れ出した。
口から光が解き放たれる直前、右の側頭部に長大な槍が突き刺さる。
槍は銀の装甲を易々と貫き、金属で作られた頭蓋骨に守られた人工知能に深く食い込んだ。
頭部の中心に達したところで槍の内部に仕込まれた炸薬が炸裂し、内部から膨れ上がって破裂する。
数十秒の間に尻尾、両腕、そして頭部を失った怪獣は弁慶の立ち往生のように、立ったまま機能を停止した。
ユウタは皮膚にトゲが刺さったような刺激を感じる。
そちらの方を見ると、遠く一キロは離れていそうな距離の線路の上に、大きな亀のような列車がいる。
五両編成の車両は全て黄土色に統一され、一際大きな中央の車両はまるで亀の甲羅のような形をしている。
上部から伸びる長い砲身が、怪獣の頭部の方向に向けられていた。
その砲口から放たれたことを裏付けるように、砲身に小さな雷が幾重にも纏わりついている。
ユウタはその兵器群を知っていた。
「超兵器……CEFの超兵器だ……」
黄土色の亀のような列車は、砲身を分解して二両目の車両に収納すと、姿を隠すように後進していく。
黒煙が漂う空を見ると、大きな青い剣が九〇度左に方向転換して飛び去る。
菱形の赤い飛行機が親鳥についていく小鳥のように青い剣に随伴した。
そのうちの一機がこっちに戻ってくる。
操縦席だろうか、機体中央の丸いポッドのようなものを下に向けて、ユウタの頭上を通り過ぎた。
気のせいかもしれないが、その時、飛行機から誰かに見られているような気がした。
まるで心配されているような、そんな眼差しを向けられた気がする。
気のせい……だよね。
ユウタの頭上を通り過ぎた赤い飛行機は、二機と合流すると、三機揃ってCEF本部の方へ。
いつのまにか黄土色の列車の姿も何処にもなかった。




