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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第2話 《新生 最弱で最強のヒーロー 後編》 〜限界改造獣メカメカキョウボラス ムベホスアーマー 登場〜
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#17 太陽の中に何かいる?

 ホシニャンと共にその場を離れようとしたユウタの耳がある音を捉える。


  それは何かを叩く音と、子供が泣いている声のように聞こえた。


「ホシニャン、歩ける?」


『どうしたの?』


  ユウタの腕の中でホシニャンが見上げてくる。


「ごめん。助けに行ってくる」


『……分かった』


  それだけで通じたのか、ホシニャンは自ら飛び降りて、前脚から着地。


「あの大きな病院が見える?」


  ユウタは南にある、自分が入院していた病院を指差す。


「怪獣は来ないはずだから、あそこに避難するんだ。母さんもいるから安心だよ」


『うん。あにぃも早く来てよ』


「うん。先に行ってて」


  ホシニャンは名残惜しそうに何度か振り返りながら、病院の方へ走り出していった。


  ユウタは、それを見送ってから音の聞こえた方へ駆け出した。




  音の出所は、自分の家の向かいにある五階建てのマンションだった。


  道路からジャンプし、部屋のベランダに着地する。


  そこにいたのは二人。


 必死に窓を叩く三〇代くらいのスウェット姿の男性。


  ヒーロー『ジャンボマン』――巨大化しすぎて成層圏に達してしまう――が描かれたパジャマを着た、まだ十歳にも満たなそうな男の子だ。


  窓の外に現れた灰色の金属生命体を見た男の子は、ダイヤの原石のような円らな瞳を輝かせながら叫ぶ。


「ガーディマンだー!」


  ユウタは両手を振りながら否定する。


「違う違う! 僕はガーディマンじゃないよ。あっジャンボマン。かっこいいよね……えっと、早く避難してください」


「それが電子ロックが故障したみたいで、全ての鍵が開かないんだ」


「あの、窓を壊していいなら僕に任せてください」


  父親は間髪入れずに頷く。


「この子が助かるなら家なんてどうでもいい。頼む助けてくれ」


「じゃあ離れて」


  父親は息子を抱きかかえて少し離れる。


  その間も男の子は、穴が空くほどユウタの事を見ていた。


  窓ガラスを割ったら、さっきみたいに欠片が飛んで危ないよな。そうだ!


 ユウタは左右の窓枠を掴み、電子ロックで固定されていた窓を軽々と引っこ抜く。


  ダメージといえば、外した時、手に静電気のような痛みを感じたくらいだ。


  視線に気づくと、こっちを見ていた男の子と目があった。


「すごーい!まどかんたんに外しちゃった!」


「あはは。どうも……」


  ユウタは恥ずかしくなって、外した窓をゆっくりとした動作でベランダに立てかける。


  「じゃあ……」


  父子の方へ首を向けると、怪獣の地響きで窓が倒れガラスが割れてしまった。


  ユウタはそちらを一瞬見て、もう一度父子の方に視線を向ける。


「ああ、えーと……ガラス踏んじゃうと危ないから、気をつけてください……ごめんなさい」


  父親は『気にしないで』というように、ユウタを見たまま首を左右に振った。


「じゃあ僕に捕まってください」


「二人いっぺんに? それは無理だろ。先にこの子を……」


「いやだ! パパといっしょにいる!」


  抱きかかえられた男の子が、父親のスウェットを()()()と掴む。


「大丈夫だよ。二人一緒に助けるから。どっちも置いていかないよ」


  ユウタは男の子が分かるように言葉を噛み砕く。


「ほんとう? パパと離れ離れにならない?」


「離れ離れになったりしないよ。さあ外に出よう」


「うん!」


  「よーし。じゃあパパに掴まってて……ちょっと失礼します。息子さんの事を離さないでください」


「あ、ああ」


  ユウタは右手で父親の背中を支え、膝の下に左手を入れて持ち上げる。


 客観的に見たら、まるでお姫様抱っこのようになってしまった。


 男の子は喜んでいるようだが、父親とユウタは、何となく気まずい雰囲気だ。


「すぐ降りますから我慢してください。じゃあ行きます!」


  二人を抱えたまま走り、ベランダの柵を乗り越えて、そのまま道路へ落下。


  三階、七階と飛び降りていたユウタにとって、五階ぐらいの高さなんて何ともない。


  はずだったが……。


  やっぱり怖いぃぃっ!

 

  急速に迫る道路を見て、声が出そうになってしまった。


  けれど二人に恐怖を伝染させる訳にはいかない。


  開きそうになる口を意思の力で抑え込み、何とか声を出さずに道路に降り立つ。


  二人の様子を見ると、父親は目を回しているようだ。

 

  男の子の方はというと、光を受けて輝くダイヤのような瞳で灰色の金属生命体を見上げていた。


「立てますか?」


  ユウタは声をかけながら、子供を抱いた父親を下ろす。


「ああ、ありがとう。それにしても凄いな。五階から飛び降りたなんて信じられないよ」


「くろいガーディマン。助けてくれてありがとう」


「お礼なんて……さあ、ここは危険です。あの病院が見えますか? あそこまでは怪獣も――」


 ユウタは途中で喋るのを止める。


 何かが放たれた音を捉えたからだ。


 今さっき父子を助けたマンションの向こう側から聞こえてきた。


  同時にあの地響き、怪獣の足音もいつのまにか聞こえなくなっている。


「まずい! 二人とも伏せて――」


  間一髪。


  ユウタは、しゃがみ込んだ二人に覆いかぶさって自らを盾にする。


  ほぼ同時にマンションが赤熱して溶け、爆発するように溶けたコンクリートや鉄筋が、赤い水飴のように飛び散る。


  父子を守るユウタの背中にも、熱せられた水飴がかかり、背中を焼いていく。


「クッ、グウッ」


  痺れるような痛みを我慢するも、声は漏れてしまう。


  焼け焦げた臭いが鼻に付く。


  痛い思いはしたが、下にいる二人を守ることができた。


「大丈夫ですか?」


  父子は同時に頷く。


  男の子も涙目だが、怪我はないようだ。


「良かった。じゃあ早く逃げてください」


  ユウタは立ち上がると、溶けて崩れ落ちたビルの方に身体を向ける。


  父親が後ろからユウタに声を掛ける。


「背中から煙が出ているぞ」


  言われて初めて気づいた。


  自分の背中が焼けて白い煙を上げていたのだ。


  さっき溶けた破片が掛かったのだろうか。


  気づいた途端、背中に電気が走るような痛みが、陸に上がった魚の様にのたうち回った。


「……僕は大丈夫。ここで怪獣を足止めします。早く逃げてください」


  そんな会話をしている間に、あの地響きが再開された。


  一回目よりも二回目の方が振動が大きい。


  確実に近づいてきていた。


  三人の視界が同時に薄暗くなる。


「パパあれ!」


  男の子が上空を指差した。


  三人の視線が上を見る。


  そこには銀の怪獣が、太陽の光を遮りながらこっちに歩いてくるところだった。


  怪獣は前を見たままなので、足元にいる三人には気づく気配もない。


  それに見とれてしまったせいで、逃げるチャンスを失ってしまう。


  怪獣の大きな右脚が三人の頭上を塞いだ。


  脚の幅は約十メートルくらい。長さはそれ以上だ。


  三人はその中央にいた。


  間に合わない!


「伏せて!」


  ユウタは二人を逃すのは無理だと判断し、その場で両腕を天に向けて真っ直ぐ伸ばす。


  頭上から迫る怪獣の脚を受け止めようと試みる。


  僕なら受け止められる。だって僕はヒーローだから! きっと出来る!


  あと一メートルもすれば怪獣の右脚が両手に触れる。


  そんな時、ユウタの耳が空気を切り裂くような飛翔音を捉える。


  直後、連なるような速さで何かが発射される音が聞こえ、複数の爆発音が頭の遥か上で響いた。


  怪獣の右脚が止まり、そのまま後ろに下がる。


  銀の怪獣は一本角が生えた頭部の所々を青白く発光させながら、二歩三歩と後ろに後退する。


  ユウタは明るくなった頭上を見上げると、太陽と目が合った。


  眩しさを手で遮ると、指の隙間から覗く太陽に黒点があることに気づく。


  太陽の中に何かいる?

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