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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第2話 《新生 最弱で最強のヒーロー 後編》 〜限界改造獣メカメカキョウボラス ムベホスアーマー 登場〜
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#15 地べたに座り込むシュウゴ

 宇宙からイレイド星人の置き土産が落下する少し前。


  一日が始まって五時間経ったが、まだ日は昇りきっておらず、街全体が夜と朝の境目に包まれていた頃。


  希望(のぞみ)市の路地裏。たとえ日が差しても薄暗いであろうそこに、反復讐伍(ハンプクシュウゴ)は地べたに座り込み、身を潜めていた。


  上から羽織ったシワだらけの白衣、ホワイトのYシャツに紺のスラックス更には革靴まで、煙突に入り込んだかの様に煤まみれで、黒く汚れている。


  接着剤で固定されているかの様に右手で握り締めているのは、万年筆によく似たビームガンだ。


  約二〇年前に落ちた残骸から自作したこの銃を使って、既に何人もの命を奪っていた。


  シュウゴは見上げる。


  オールバックに固めていた黒髪はいつのまにか柔らかくなって垂れ、目にかかっていた。


  ビルとビルの隙間から、だんだんと明るくなろうとする薄暗い空を見る。


  太陽の光でだいぶ隠れてしまったが、まだいくつかのは星が見える。


  その煌めく星を見ながら、シュウゴは昔のことを思い出していた。




 物心ついた時には、人類は既に地上から地下へ逃げのび、両親の姿も知らない。


 預けられた児童養護施設では、両親は病死したと聞かされたが、顔も声も覚えていないシュウゴにとって、全くどうでもいい話だった。


 シュウゴは他の同年代の子より頭が良く、教師からは受けが良かった。


  そのせいで周りからは孤立したが、人嫌いな彼には、その事もどうでもよかった。

 

  シュウゴを癒すものは愛情でも友情でもない。


  偶然ゴミ捨て場で見つけたものだ。


  それは絵が描かれた数枚の紙。


  誰が捨てたかもわからない紙くずに書かれた絵に、シュウゴはどうしようもなく惹かれた。


  まるで恋をしてしまったかのように。


  ある紙には、漆黒の空間を背景に描かれた青と緑の宝玉。


  またある紙には、内から光を放ち、強い生命力を感じさせる赤き宝玉。


  一番目を引いたのが、黒い背景に描かれた白い光を放つ小さな数え切れないほどの宝石たちだ。


  汚れて読みにくくなってしまった絵と文字を、古代文字を解読する考古学者の様に、文字通り血眼になって読んだ。


  そして知った。宇宙という無限に広がる美しい空間のことを。


  彼はその目で、いや全身で宇宙を感じたいと願う様になる。


  けど現実に頭上に広がっているのは、天然の岩盤を利用して作られた天井だった。


  数百メートル上にある重苦しく息苦しい天井(そら)は、いつもシュウゴを苦しめていた。


  こんな狭苦しい空間から、早く抜け出さなきゃ。


  まだ十歳になったばかりのシュウゴはそう考えていた。




  地球の環境が回復した時、シュウゴは二〇歳になっていた。


  狭苦しい地下から地上に出た彼が真っ先にしたことは、夜空を見上げることだった。


  濃紺の空に大小の宝石が煌めいている。


  手を伸ばせば届きそうな宝石達に、もっと近づきたいと強く強く願う。


  ふと目に留まったのは軍の入隊を促すチラシだった。


  すぐさま防衛軍に入隊したシュウゴは宇宙軍配属を志願する。


  しかしそれは叶わない。


  宇宙軍では、知能だけでなく人一倍頑強な肉体が求められた。


  優れた頭脳を持っていても、肉体は平均以下だった彼の願いは聞き届けられない。


  諦めずに何度も上官に頼んだものの、受け入れられず、シュウゴは宇宙にできる限り近い空軍の整備士になっていた。


  それから一年後。人類にとっては不幸だが、彼にとっては天からの贈り物が降ってくる。


  彼の基地近くにイレイド星人の金色の円盤が墜落したのだ。


  それは空軍のF-15が撃墜した数少ない機体の一つだった。


  殆どの円盤は、スティール・オブ・ジャスティスによって原形をとどめないほど破壊されてしまったがコレは違う。


  地面に墜落した時に潰れて半分ほどの大きさになっていたが、十分に調査できるものだった。


  整備士としての腕を認められていたシュウゴは調査班の一人として選ばれ、未知の技術で作られた円盤を嬉々として解剖していく。


  そこで偶然発見したのは、光線発射装置の一部と、通信機と思われる小さな部品だった。


  シュウゴは誰にも見つからない内にそれを自室に持ち帰る。


  光線発射装置を改良して、自衛用のビームガンを作り、SDカードほどの大きさの通信機を自分の携帯端末(オーパス)に組み込んだ。


  これを使えば、もしかしたら宇宙にいる生命体とコンタクトを取れるかもしれない。


  そんな、子供の空想みたいな思いを実践した彼のオーパスに、本当に異星人からメッセージが届く。


  顔も知らない異星人に向けて、シュウゴは自分の胸の内を全てぶちまける。


  帰ってきたのは交換条件だった。


  異星人は地球にある世界の源(ヴェルトオヴァール)を欲していて、その手伝いをしろという。


  見返りは宇宙に連れて行ってもらうこと。


  もちろんヴェルトオヴァールが奪われれば地球が滅びてしまうのも知った。


  知った上で、自分が生まれた星に全くと言っていいほど未練のないシュウゴは、一も二もなく引き受けた。



 

 異星人から地球への侵攻が伝えられた時、四〇歳になったシュウゴは陸軍の新兵器開発班に所属していた。


  報せが届いた時、仕事中の彼は人目も憚らず大笑いした。


  周りの同僚の視線を一身に受けるのも御構い無しに、彼は笑い続けた。


  やっと宇宙に行ける。


  そう思えば、人から変な目で見られようと気にはならない。


  遅かれ早かれ、自分以外の人間はこの世からいなくなるのだがら。


  シュウゴはシルバーバックを起動させる直前、開発班の同僚全員に向けてビームガンの引き金を引いた。


  こうして願いは成就されるはずだった。


  防衛軍の兵器を研究し尽くしていたので、シルバーバックの装甲は予想通りミサイルもレールガンも弾き返す。


 封印された核兵器か、それこそヒーローであるスティール・オブ・ジャスティスでなければ止められない。


  しかし、どちらもここに来ることはない。そう思っていた彼の前に立ちふさがったのは、二つの障害だった。


  一つは撫子色の金属生命体。等身大でありながらシルバーバックを吹き飛ばし、冷却パイプを切断していく。


  巫山戯るな!


  シュウゴは、その百七〇センチにも満たない、どこか女性的な金属生命体を何度もシルバーバックに殴らせた。


  邪魔しやがって。お前みたいな奴が私の、私の夢を邪魔するな!!


  とどめを刺そうとした時に、二つ目の障害が現れた。


  それは全長七〇メートルの緑の巨人。


  巨人の戦闘能力は凄まじかった。


 シルバーバックの右腕を引き千切り、装甲を殴り潰し、両手から放たれた光線によって、シュウゴの半身とも言うべきシルバーバックは力尽きた。


  同時に異星人の侵攻も失敗に終わったことがわかり、その場にうずくまる。


 これで終わりか? 二〇年以上暖めてきた私の夢がここで潰えるのか?


  シュウゴの耳に複数のサイレンが聞こえてくる。


 立ち上がると、近づいてくるサイレンとは反対方向に逃げ出した。


  捕まってたまるか! まだ、まだ私の夢を握りつぶされてたまるかぁぁぁ!!




  シュウゴの意識は懐の振動によって呼び戻される。


  懐から取り出したのはオーパスだった。それが着信を知らせて震えていた。


  誰だ?


  相手を確かめた途端、シュウゴの心臓が破裂しそうなほど高鳴る。


  震える指で操作し電話に出た。それは彼が待ち望んでいた相手だった。


「はい……はい。そうです。私は無事です。追っ手を巻いて逃げています」


  相手の言葉は、シュウゴを喜ばすに十分な力を持っていた。


「次の作戦? 次の作戦があるんですね⁈ はい、はい勿論私も協力します!」


  シュウゴの全身に力が蘇っていくようだった。


「コンテナが降下してくるんですね。それと私用にムベホスアーマーまで……ありがとうございます。はい。次こそは必ず成功させてみせます。その時は私との約束を……はい! ありがとうございます!」


 通話を終えた シュウゴは額に手を添えると、歯をむき出しにして笑う。


  その笑い声はとても大きく、路地裏から表通りにまで聞こえるほどだった。


「すいません警察ですが。ちょっとよろしいですか?」


  スイッチが切れたように笑うのをやめたシュウゴが声がした方を向くと、二人組の制服警官が立っていた。


  どうやら、路地裏の笑い声を不審に思ってこちらに来たようだ。


「こんなところで何してるんですか?」


  二人の警官は質問しながらも、シュウゴの薄汚れた様子を見て、どこか警戒したような視線を送る。


「身分を証明できるものはありますか……貴方、もしかして」


  一人の警官がシュウゴの顔を見て何か気づいたようだ。


「ハンプクシュウゴか?」


  二人の警官の右手が、ゆっくりと腰のホルスターにしまわれている拳銃に伸びていく。


  声を掛けられてもシュウゴは答えず、ずっと見上げている。


  その空はいつのまにか朝焼けになり、星は見えなくなっていた。


  だが、たった一つだけ輝く星がある。それは次第に大きくなっていく。


  シュウゴは正体を知って、警官の目の前であるにもかかわらず、口を三日月のようにして笑みを作る。


  その表情に何かを感じたのか、二人の警官も朝焼けの空を見上げた。


  唯一輝く星がどんどん大きくなっている。


  それは流れ星となって希望(のぞみ)市に落ちた。


  灰色の煙が街を、二人の警官とシュウゴに襲いかかる。


  それでもシュウゴは棒立ちのまま笑っていた。


  煙が晴れた時、街に巨大な卵が落下し大きなクレーターを作っていた。


  様々な叫び声が聞こえる中、シュウゴの目の前には宙に浮かぶモノがある。


  その形は浮遊した銅色のホームベースのようで、左右に一つずつと下部に二つ、手足がすっぽりと入れる大きさのパイプが取り付けられている。


  ホームベースはシュウゴの真上まで来ると、パイプを分離させてから大きく口を開けるように開閉し、身体を挟み込む。


  次に両手両足にパイプが装着され、胴体のホームベースから伸びたオレンジのチューブで繋がれる。


  最後に、もう一本のオレンジのチューブが脊椎に差し込まれた。


  全身の神経とアーマーが文字通りに繋がり、一体化する感覚を味わう。


  シュウゴは、生まれて初めて感じたことのない力が溢れてくるのを感じていた。


  朝焼けに照らされて、うつぶせに倒れている二人の警官をそのままにして、人間離れした跳躍で近くの十階建てのビルの屋上へ登った。


  屋上から見える傷ひとつない美しく白い卵の殻を見て、シュウゴは子供のようにはしゃぐ。


「やった。やったぞ。まだ私は見捨てられてないんだ。今度こそ。宇宙に行くことができるんだ! さあ、目覚めろメカメカキョウボラス!!!」


  シュウゴの声に応えるように卵の殻に、目に見えないほど小さなヒビが入り、次第に大きくなっていく。

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