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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第2話 《新生 最弱で最強のヒーロー 後編》 〜限界改造獣メカメカキョウボラス ムベホスアーマー 登場〜
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#12 宇宙からの敵

 ユウタとアンヌは、突然起きた衝撃と爆風の正体を確認するため、病室の窓から希望(のぞみ)市の方を見る。


  街は灰色の大きな煙の膜に覆われているようだった。


 直後に緊急事態を告げるサイレンが響き渡り、無機質な音声が街だけでなく、病院内にも聞こえてくる。


『宇宙から正体不明の物体が落下しました。大変危険ですので付近の市民の皆さんは、直ぐに最寄りのシェルターへ避難してください。繰り返します……』


「母さんこれって……」


「ええ。宇宙から敵が来たのよ」


  病室の窓からの景色だけでは、高層ビル群が邪魔して、何が起きているのか分かりづらい。


  ユウタは病室に備え付けのテレビを付けた。


  どの局も全て緊急ニュースを伝えているが、何が起きているのか把握してる局はないようだ。


  チャンネルを変えていくと、街を上空から見下ろす映像が映る。


  どうやら報道局のヘリが偶然いたようだ。


 カメラが捉えているのは、土埃が晴れた希望(のぞみ)市だ。

 

  巨大な白い卵のようなものが落ちていて、道路に大きくめり込んでいる。


  その衝撃を受けて、周辺のビルがボーリングのピンのように傾き、悲鳴をあげるように唸りながら倒れていく。


  ヘリに乗っているリポーターが、元気でハツラツとした声に緊張の色をにじませつつ、現場の状況を伝えていく。


『リポーターの速報快(ソクホウカイ)です! 私は交通事故の取材に来ていたのですが、突然空から巨大な丸い物体が降ってきました!』


  ヘリは一定の距離を保って旋回しながら、テレビを見ているであろう多くの視聴者に向けて、街の様子を伝えていく。


  ヘリのメインローターの騒音に負けない声のボリュームで、リポーターの緊張感に包まれた報告が続けられる。


『アレが一体なんなのか正体は不明です。大きさは数十、もしかしたら百メートルを超えているかもしれません』


  カメラが巨大な落下物に向けてズームする。


『空から降ってきたので隕石の可能性もありますが、表面はツルツルして、日光を反射していて、まるで誰かが作ったような印象を受けます!』


  空からの映像では分かりにくいが、周りに人の姿は見えない。


『現場付近には人の姿は見受けられません。ここからでは無事に避難したかどうかは分かりません』


  辺りは様々な瓦礫で埋め尽くされている。もしかしたら生き埋めになっている人がいるかもしれない。


『巨大な落下物に動きはなく、それが却って不気味です』


「ユウタ」


  その後もリポートが続けられるが、ユウタはアンヌに呼ばれて意識をそちらに向けた。


「何、母さん?」


 アンヌは『大丈夫?』と言いたげな視線をユウタに向ける。


「そんなに拳を握りしめたら、血が出ちゃうわ」


  言われて始めて気づく。


  左の掌を開くと、爪が食い込んだ跡がクッキリと残っていた。


「ごめん。何でもない……」


「防衛軍の部隊が来るわ。彼らに任せて、私達は避難しましょう。ね?」


「うん。僕、車椅子借りてくるよ」


  病室の外に向かおうとするが、その間も落下物に関するリポートが続けられていた。


『人です! マンションに逃げ遅れた人の姿が見えます。こちらに向けて手を振っているようです。ですが私達では助ける術がなく……』


  スライドドアの取っ手に手を掛けたまま停止する。


「ユウタ――」


「母さん!」


  ユウタはアンヌの優しさの糸を自ら断ち切った。


「母さんを悲しませたくないよ。けど僕は、僕は避難できない」


  スライドドアから左手を離し、胸の前で強く握りしめ、 テレビに映る惨劇に視線を向けた。


「僕には父さんと同じ力があるんだよね? あそこで助けを求めている人達を助けられるんだよね?」


  アンヌは認めたくないのか、俯いてしまう。


  けれど、その仕草はユウタの質問に対する答えでもあった。


「ごめんなさい母さん。教えて、どうやって変身したらいいの?」


  アンヌは顔を伏せたまま答えてくれない。


  その間も街の被害が次々と伝えられていた。


「昨日の巨人みたいな姿には、どうやって変身したらいいのかな?」


  アンヌは、顔を伏せたまま質問に答える。


  その声音は冷たく『裏切り者』と罵られているようで、ユウタの心をキツく締め付けた。


「あなたの携帯端末(オーパス)。昨日と変わってるでしょ」


  ポケットにしまったオーパスを取り出す。


「うん。なんか金属みたいなのが付いてる。それにすごく軽くなったような」


「それはナノメタル。ユウタの力は、そのオーパスに宿ったのよ」


「これが? でもなんでコレに」


「昨日、お父さんのズィルバアイを使って変身したのよね」


「多分」


  昨日のツギハギだらけの記憶を、何とか繋ぎ合わせて思い出していく。


  確か、左手に持った父さんの眼鏡が突然光ったはず。


  ユウタが捻れたズィルバアイを思い出す。


「あなたが変身した時に、収められていた全てのエネルギーがオーパスに宿ったんだわ」


「僕のオーパスに力が」


  オーパスの変化の理由がわかって納得したが、依然として自分が変身する方法がわからない。


 さっき見つけた見慣れないアプリのことを思い出した。

 

「このアプリがいつの間にか入ってた」


 ユウタはメタリクイップのアプリを起動させて見せる。


  アンヌは見てくれないかと思ったが、その画面を見てくれた。


  けれど目を合わせてはくれない。


「昨日までは入ってなくて、今日初めて見つけたんだ」


「きっと変身する為のアプリよ……キーワードを入れてみたら変身できるかもしれないわ」


  アンヌの声音は相変わらず冷たい。


「うん……その、キーワードが分からないんだ」


  ユウタはアンヌの頭頂部に話しかけ続けた。


「分からないわね。自分で設定したはずよ。覚えてない?」


「う、うん」


 あの時、何か言ったような気がするけど、なんだったかなー。


  思い出そうとしても、アンヌの声音に萎縮してしまって上手く思考できない。


  ユウタはオーパスを見たまま、記憶をひねり出すように額に右拳を押し付けてねじってみる。


  か、そんな事をしても思い出せるはずもなかった。


「ねえ、父さんと母さんはどうやって変身するか聞いてもいい?」


 もしかしたら何かのヒントになるかもしれない。


 そう思ってアンヌに尋ねてみたのだ。


「お父さんはが、いつもズィルバアイをかけていたの覚えてる?」


  アンヌは窓の外を見たまま質問してきた。


  ユウタはほとんど覚えていなかったので「写真で見た事ある」と答えることにした。


「そのズィルバアイを外すと変身できるのよ」


「えっ、寝る時とかどうするの」


「変身するって決意した時にズィルバアイを外すと変身できるの。外しただけじゃ変身しないわ」


「そ、そうだよね。じゃあ母さんは?」


「お母さんはね……」


  アンヌは左手の薬指にはめられたエメラルドの指輪をそっと口元に近づける。


「『みんなを護る力を』そう語りかけて変身するのよ」


  指輪に語りかけるアンヌは、まるで女神のような神々しさに溢れていた。


「二人とも違うんだね」


 聞いてはみたが、やはりキーワードのヒントにはなりそうになかった。


 もう一度昨日のことを思い出そうと、意識を集中させる。


  あの時、何か言ったのは覚えているんだけど……。


「思い出した?」


「いや、思い出せそうだけど思い出せないんだ。何か出口で引っかかってるみたい」


  相変わらず冷たい口調だが、記憶を思い出すヒントをくれる。


「そう……きっと適当な言葉ではないはずよ。昨日、あんな大変な時に口に出したのだから。自分を奮い立たせるような言葉じゃないかしら?」


「奮い立たせる? 例えば……」


「そこは自分で考えなさい」


  つい頼ろうとしたが、窘められてしまった。


「……はい」


  う〜ん。なんて言ったんだろう? 『もっと頑張れ』とか? それとも『負けるな! 立つんだ!』とかじゃないしなぁ。


  言葉を考えてみても、鍵穴に合わない鍵を差し込んでいるようでしっくり来ない。


「そういえば……」


  ユウタが悩んでいるとアンヌが目線を合わせてくれないまま口を開く。


「お父さんの口癖、恐怖に打ち勝つ時や勇気を奮い立たせる時にいつもこう言っていたわ『立ち止まるな。一歩踏み出せ』って」


 それを聞いてユウタの頭の中で鍵が開く音が聞こえたような気がした。


  自然と持っているオーパスに囁いてしまう。


  父の口癖を。


「立ち止まるな……一歩踏み出せ」


  正解だと言わんばかりに、オーパスが眩い光を放つ。


  ユウタは咄嗟に右腕で目を守った。

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