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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第2話 《新生 最弱で最強のヒーロー 後編》 〜限界改造獣メカメカキョウボラス ムベホスアーマー 登場〜
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#11 地球を守るコウノトリ

 ユウタが『ヒーローにならない』と決めた同時刻。


  一人のスーツを着た壮年の男性が真っ暗な空間を歩いていた。


  短く刈り上げた灰色の髪と顎髭。


  右目には何かで切られたのか、縦に走る傷跡が目立つ。


  病院の階段で、ユウタとすれ違った男性だ。


  彼がいる室内は暗い為、どのくらいの広さかは分からない。


  だが男性は迷うことなく、見えない障害物を避けるように進むと、眼前の照明が点灯した。


  それは照明ではなく、一メートルほどの大きさのスクリーンだった。


  スーツの男性はその前で腕を組んだ。


  スクリーンが映し出したのは、何処か子供っぽい笑顔で、ほっぺに赤みがさした童顔の中年男性だ。


  防衛軍の軍服を着ているが、丸っと太っていて軍人とは程遠い印象だ。


  先に口を開いたのは、鋭い目つきでスクリーンを睨みつけるスーツを着た男性である。


「タケル。また太くなったんじゃないか? 軍服が破裂しそうに見えるが」


  タケルと呼ばれたスクリーンの中の男性は、目を細めたまま口元に笑みを称えて返事する。


『デスクワークが多いからね。ゲンブこそ筋トレしすぎじゃないかい? そのスーツは高いんだから破かないでくれよ』


「ふっ」


『フフッ』


  しばし沈黙してから、ほぼ二人同時に吹き出した。


  上官と部下であると同時に、二十年来の親友である二人の、いつものやりとりである。


『ゲンブ。いつも時間厳守の君が、一分も遅れるなんて珍しいじゃないか』


  ゲンブは腕を組んだまま答える。


「すまん。恩人に会いに行っていたら遅れてしまった」


  タケルの笑顔が、一瞬だけ真顔になってすぐ笑顔に戻る。


『……そうか。あの人に会ったんだね。君の事覚えていたかい?』


  ゲンブは小さく頷く。


「ああ。すぐに分かってくれたよ。逆に彼女は全く変わってなかった」


『驚く事じゃないよ。あの人は僕たちから見れば()()みたいな存在だからね』


「ああ……」


  ゲンブの表情は、まるで憧れの学校の先生を前にした小学生のようだった。


「どうしたタケル。いつもよりニヤニヤして」


  タケルは誤魔化すように両手をあげる。


『いやいや、なんでもないよ。それで何か話はできたのかい?』


「二十年前に私達を救ってくれたお礼を改めて言ってきた。彼女からは、息子のことをよろしく頼むと言われた」


『二人のご子息か、本当に来たらどうするんだい?』


「その時はその時だ。まだどうなるかは分からないしな……それよりも、早急に解決してほしい問題が一つある」


  時間を無駄に使いすぎたと思ったのか、ゲンブは話題を変えて本題に入る。


「我々の()()()の封印を一刻も早く解除してくれ」


  その表情は、玄武岩のように鋭さと厳しさに溢れ、先ほどの憧れの人を前にした小学生っぽさは、微塵も残っていなかった。


『やっぱり、その事か』


  タケルは予想していたかのように返事した。


「昨日の攻撃を見て分かっているはずだ。大規模な侵略が、あれで最後のはずはない。むしろ宣戦布告みたいなものだ」


『だろうね。上層部のお偉方も、そう推測してる』


「では――」


  結論を急ぐゲンブを止めるように、タケルはスクリーンに向けて右の掌を見せる。


『ゲンブ。少し落ち着こう』


「私は落ち着いている」


『僕からはそう見えないけどね……偉い方々は恐れているのさ。超兵器の力を』


「そんなことを言っている場合か? 今こそ超兵器の力が必要な筈だ」


  ゲンブは冷静さを装っていたが、口調の端々から怒りと焦りが滲み出しているようだった。


『軍は現用兵器で、異星人の兵器と互角に渡り合えると思っているのさ。これを見てくれ』


  タケルがスクリーンを指で操作すると新たな映像が表示された。


『これは地表から高度四〇〇キロの熱圏のリアルタイム映像だよ』


  大気圏の中で最も外側の層に、太陽の光を反射する金色の損傷したドームが浮かんでいる。


  ゲンブはそれが何かすぐ分かった。


「イレイド星人の巨大宇宙船だな」


『その通り。大きさは東京都がすっぽり入るほど。昨日のシルバーバックの破壊行動と同時に現れ、こちらの警告を無視して地球に降下開始。防衛宇宙軍はこれと交戦して機能停止まで追い込んだ』


  タケルの説明と同時に映像が流れる。


  宇宙軍に配備されている燕に似た無人迎撃機C-スワローの部隊が、装備した対艦プラズマミサイルを発射。


  イレイド星人の大型宇宙船に直撃し、金色の外殻を損傷させた。


『機能停止してから一二時間以上経過したけど、動きなし。けれど大気圏に引き寄せられないところを見ると、何かしらの動力が動いているみたいだね』


 無人調査機がイレイド星人の大型宇宙船に進入していく映像に切り替わった。


  そこに広がるのは、高層建築物や道路によく似た物が配置されている。


  まるで地球の都市のようだ。


「これは街か、奴らはこの宇宙船で生活しているのか?」


『そうだったみたいだね』


「だった?」


『映像を見てくれ』


  無人調査機が映し出すのは、破壊されたビルや大きな穴が空いた道路。そして重力が無くなり浮遊した瓦礫たち。


  まるで深海に沈んだ古代都市のような有様だった。


  ゲンブは都市に欠かせない存在がどこにも見当たらないことに気づく。


「イレイド星人の姿がないな」


『そう、ここに住んでいたであろう住民の姿がどこにもないんだ。遺体も生存者もね』


「どこかに避難しているとかではないのか?」


『ない。シェルターらしきものも見つけたけど人っ子一人いない。いつからこうなっているのかは不明』


  次に無人調査機が映し出したのは都市に半分以上埋没して固定された球状の物体だ。


「これは?」


『調査中。赤外線も通さないから中に何が入ってるか分からない。でも微かなエネルギー反応が滲み出してる。どうやら都市型宇宙船の機能を維持しているのはこの球体らしい。ただどこかで見たことあるような気がするんだよね』


 タケルの言葉にゲンブも肯定する。彼もまたこの球体をどこかで見たことあった。


「……早く破壊命令を出せ」


『何だって?』


「お前も見たことあるはずだ。あれは二十年前に地球に落ちてきたイレイド星人のコンテナだ」


『じゃあ中に怪獣――』


  そこまで言ったところで、無人調査機の映像が白一色になり、直後砂嵐のようなノイズしか映さなくなってしまった。


「タケル。何が起きた?」


『ちょっと待ってくれ……イレイド星人の大型宇宙船が自爆したらしい。更に地球に降下している大型の物体を感知』


「どこに落ちている?」


  スクリーンに降下予測ルートが表示される。


  それを見てゲンブはすぐどこに落ちてくるか気づく。


希望市(ここ)に落ちてくるぞ」


『狙いは世界の源(ヴェルトオヴァール)って事だね。すぐに迎撃部隊を送るよ』


「超兵器の封印を解除してくれ」


  タケルはまだ迷っているのか、肉付きの良い顎をさすったまま答えが返ってこない。


「お前も分かっているだろう。軍の通常兵器では無理だ。今こそ私達CEFが立ち上がる時なんだ」


  タケルは何も言わず、液晶を操作するように指を動かす。


  すると、何処からともなく無機質な女性の声がゲンブに話しかけてきた。


『ゲンブ。超兵器の封印が解除されました』


「何? タケル、いいのか?」


  スクリーンの中のタケルは、何事もなかったかのように笑顔だ。


『ちょっと手が滑っちゃったかな。何てね』


  四〇を過ぎているのに舌を出して笑う姿は子供そのものだった。


『ゲンブ。僕だって君達の力が必要なのは分かってる。言い訳はこちらで考えるから。思いっきり暴れてきなよ』


「……感謝するよ。先輩」


『後輩の頼みは断れないからね。さてと、ちゃんと世界を救ってくれよ。せっかく考えた言い訳が披露する場がなくなるのは困る』


  その言葉を最後にスクリーンが暗転した。


「任せろ……フリッカ。発進準備だ」


『エネルギーのフルチャージに時間が掛かります』


「最低限でいい。すぐ飛べるようにしろ。敵は待ってくれないぞ」


『MK-ビルディングとシールドの起動はどうしますか? 同時作業で効率が三〇パーセントに落ちてしまいますが』


「却下だ。超兵器の充電を最優先するんだ。今必要なのは、盾じゃない。矛だ」


『了解しました』


  部屋の天井の照明がつき、部屋の中央にある黄色の球体が輝きを放つ。


  同時に壁に据え付けられた多数のスクリーンが瞼を開けるように電源が入った。


  その中の一つに、地球を守る蒼き()()()()()の姿が映し出されるのだった。

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