#10 ヒーローになるのは反対
ユウタは、恥ずかしさで、体温の上がった身体を何とか落ち着かせ、姿勢を正して自分の決意を口に出す。
「母さん。僕は父さんの後を継いでヒーローになればいいんだよね」
頼れるところを強調するために、自分の胸の前に左拳を持っていく。
アンヌは息子の決意を聞いた途端に、劇薬でも飲んだかのような苦しそうな顔をして、弱々しく首を左右に振った。
「違うの?」
ユウタは自分の出自を知って『この世界を守るヒーローになる』と決意したのに、水を差されてしまった。
「座って」
アンヌに促されて、ベッドの傍にあるイスに腰掛ける。
「ユウタの中にある力はとても強いもの。それこそ無闇に使えば沢山の人が傷つくほど強い力よ」
病室の空気が一変する。
柔らかな朝日が差し込んでいるのに、まるで冷たい金属に包み込まれてしまったようだ。
「自分の力だから、どう使うかは自分で決めて……と、言いたいところだけど、お母さんは出来れば使って欲しくない」
「どうして? この力を使えば僕が、みんなを守れるよ。それに力を間違ったことになんて使わないよ」
もうアンヌやフワリが傷つかなくて済む。そのためならば、この力を正しいことに使える自信があった。
「確かに、その力は正しいことに使えるけど、同時にあなたを不幸にするかもしれない。ううん確実に悲劇に見舞われるわ」
「そんな事――」
アンヌはユウタの言葉を途中で遮る。
「そんな事あるの。お父さんだって沢山辛い体験をしてきたの。ヒーローは万能ではないのよ」
言葉の重さに、ユウタは反論できなくなってしまった。
「だから、あなた一人に重荷を押し付けたくない。世界を、ううん誰かを守るという事は、とてつもない重荷を背負うことになるのよ。そして一度背負ったら最後、死ぬまで下ろせないわ」
でも、ガーディマンはどんな強敵でも立ち向かっていったよ。
「僕は……」
「大丈夫って言いたいの? テレビのヒーローみたいにハッピーエンドになるとは限らないのよ」
まるで心の中を読まれてしまったように、全て言われてしまい、ユウタは縮こまるように頭を下げた。
アンヌはユウタの両肩に手を置くと、泣いているような笑顔を見せる。
「お母さんはね。ユウタに戦って欲しくない。いつもの弱虫で恥ずかしがり屋のユウタでいい。背伸びなんてしなくていいの」
アンヌの言葉を聞いている内に『自分はヒーローにならなくてもいい』段々とそう思うようになっていく。
「でも、また怪獣とか現れたら……」
「大丈夫よ。そういう時のために防衛軍が組織されているの」
遂に、最後の抵抗も上手く丸め込まれてしまった。
「それに、お母さんは、あなたをお父さんと同じ目に遭わせたくない」
その一言がトドメとなった。
「……分かった。母さん。僕はヒーローに、ならない。母さんが悲しむ顔見たくないから」
「……ありがとうユウタ」
二人はお互いの思いを理解していた筈。なのに、どこか納得出来ないのか。
不快感の漂う沈黙が二人を覆っていた。
そんな沈黙を破ったのは、突然轟いた爆音と振動であった。




