#9 父の行方
GN銀河から地球に戻ってくると、アンヌが太陽系で一番遠い氷惑星を指し示す。
「あなたが生まれた直後。海王星付近で動くエネルギー反応を捉えたの」
海王星付近を通過するのは、GN銀河を壊滅させた、黒いスライムのような物体ギャラクツクスだった。
「なんか小さくなってない?」
ユウタの言う通り、GN銀河全体に恩恵を与えていた太陽をも吸収した筈だが、海王星よりも小さくなりまるでヒルのような細長い体をしていた。
「恐らく吸収したエネルギーを消費して、あの大きさまで縮んだのよ」
黒いヒル状のスライムは苦しげに身をよじりながら、太陽系の中で唯一光を発する恒星に向かっているようだ。
「地球からでも太陽に向かっていることが分かったわ。けれども、地球の科学力では何もできなかった。だから……」
ギャラクツクスと太陽の間の空間が裂け、中から銀色の金属生命体が現れた。
「スティール・オブ・ジャスティス? まさか父さんは、たった一人であいつに立ち向かったの⁈」
「ええ。お父さんはみんなを、あなたの未来を守る為に単身戦いを挑んだの」
地球の衛星軌道上にある人工衛星が海王星付近で輝く光を捉える。
それはまるで超新星爆発のように強い輝きで、目が眩んだように、カメラの映像がホワイトアウトしてしまった。
映像が回復したとき、宇宙は何事もなかったかのように静寂に包まれていた。
ユウタは決戦が行われていたはずの海王星を指差す。
「あいつは⁈ 父さんはどうなったの?」
アンヌは顔を伏せて首を振る。
「分からないわ。ギャラクツクスもお父さんも姿を消してしまった。地球で観測できたのは、強力なエネルギーが発生し、その反応が消えたときには、どちらの姿も消えてしまっていたの」
その時のことを思い出してしまったのか、アンヌが目尻を拭う。
だからユウタは『父さんは死んだの?』とは聞けなかった。
これ以上アンヌの心の傷を広げたくなかったから。
「母さん」
気づくとユウタはアンヌを抱きしめていた。
「……ユウタ?」
なぜそんな行為をしたかはユウタ自身もよく分かっていない。
ただアンヌの苦しみを少しでも和らげたい。その一心で抱きしめていたのだ。
最初驚いたような表情をしていたアンヌだが、ユウタの優しさに気づいて受け入れてくれたように表情に笑顔が戻る。
「ありがとね」
ユウタの優しさのおかげだろうか、アンヌの涙もいつのまにか収まっていた。
小鳥のさえずりが聞こえて、気づくとユウタとアンヌの意識は病室に戻っていた。
同時に母親を抱きしめていたことも……。
「ごめん母さん!」
ユウタは、バネが仕掛けられたように素早く離れる。
「えっと、今の行為はその母さんが悲しんでたから、少しでもなんとかしたくて、別にそれ以外に変な気持ちとかじゃなくて、あー何言ってんだ僕は……」
ユウタは自分の頭をポカポカ殴って、言い訳を考えてみるが何も思いつかなかった。
そんな壊れた人形みたいな動きをするユウタを見て、アンヌは口に手を当てて微笑む。
「そんな恥ずかしがらなくてもいいの。ありがとうね。いい子に育ってくれてお母さん嬉しいわ」
動きを止めたユウタの顔がみるみる内に、さくらんぼになっていく。
「か、母さん! 僕は高校生だから! 子供扱いしないでよ〜」
腕組みして精一杯の虚勢をはるが、内心は褒められてまんざらでもない子供なユウタであった。
同時にある決意を固める。
僕が父さんの後を継いでヒーローになればいいんだ。そうすれば母さんも誰も悲しまないで済む!




