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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第2話 《新生 最弱で最強のヒーロー 後編》 〜限界改造獣メカメカキョウボラス ムベホスアーマー 登場〜
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#5 母に謝罪する

  サヤトがスライド式のドアを開けた。


「ありがとうサヤトちゃん」


  そんなやりとりが交わされている中、ユウタは部屋が見えない位置から動けない。


 不審に思ったのか、サヤトがユウタの方に顔を向け、扉を手で抑える。


「どうしたの? 早く入りなさい」


  ユウタは小さく頷き、ゆっくりとできる限り時間を稼ぐように遅く歩く。


 そんな事しても意味ないのは分かっているのに。


  床を見つめたまま病室に入った。


「ユウタ。無事だったのね」


 アンヌの感極まった様子の声を聞いて、ユウタはゆっくりと頭を上げる。


  もし母さんが、僕の知らない姿をしていたらどうしよう。


  そんな馬鹿な考えはすぐに霧散した。


  視界に映ったのは、いつものアンヌだったからだ。


 どこも何も変わっていない。


  病衣を着て、いつも結わえていた赤茶の髪を解き、少し疲れたような顔をしているが、防衛軍のイベントに行く前に「いってきます」を言い交わした母の姿そのものだった。


 ユウタは「母さん」と口に出しながら近づいていった。


  ベッドのそばで座り込むと、アンヌのエメラルドの指輪が嵌る左手を両手で包み込む。


 触れた手は、柔らかくて引っかかりもなく、ほんのりと温かい。


  「母さん……無事なんだね」


「ええ。足だってちゃんとあるわよ」


  アンヌが自分の足を動かしながらジョークを言った。


  ユウタの視界が滲む。両目から涙が噴水のように溢れ出した。


「良かった。母さん生きてて良かった。死んじゃったかと、アイツに殺されちゃったかと思って。

 助かったって聞いた時、嬉しかったけど、同時に、ひ、酷い姿だったらどうしようって考えちゃって。そんな母さんを嫌いになるのが怖くて怖くて……」


 ユウタは、掴んだアンヌの左手に縋るように、顔を寄せて泣き崩れる。


「ユウタ……」


  アンヌは、そんな心の内を明かした息子を突き放したりせず、ユウタが落ち着くまで、彼のふんわりとした黒髪を撫でていた。




 頭を撫でられ、少し落ち着きを取り戻したユウタが顔を上げると、優しい眼差しでこちらを見つめるアンヌと目が合った。


「落ち着いた?」


「う、うん…… ってごめん!」


「何赤くなってるの。変な子ねぇ」


「だ、だって……」


  高校生にもなって、母親の手を掴んで大泣きして慰められる。


  そんなの誰だって恥ずかしいものである。


「だって何かしら?」


  アンヌは、気づいているのか分からないが、笑顔でユウタに尋ねてきた。


「何でもないよ!」


  結局何も言えずに誤魔化すことしかできなかった。


 アンヌはそんなユウタを見て、自分の右頰に手を添えて「うふふ」と微笑む。


  ユウタは更に恥ずかしくなって、顔を背けるどころか身体ごと後ろを向いた。


 すると、いつの間にか病室のドアが閉まっていて、サヤトの姿も消えていた。


  アンヌがそのことに関して、笑うのをこらえながら教えてくれる。


「サヤトちゃんなら、さっき出て行ったわ。ユウタが『エンエ〜ン』って赤ちゃんみたいに泣いてた時にね」


  アンヌは、泣き真似のジェスチャーをしながら揶揄(からか)ってきた。


「ちょっと、僕はそんな風に泣いてないよ!」


「えー泣いてたわよ。お母さん。ユウタが赤ちゃんの頃を思い出しちゃったわ」


「絶対、そんな風に泣いたりしてないったら!」


  病室に明るい笑い声がこだましていた。




 ユウタは、健康、栄養重視だが、ちょっと味気なくて量の少ない朝ご飯をアンヌと一緒に食べていた。


「「ごちそうさまでした」」


  いつもは言わないけど、アンヌに釣られて、自然と声が出てしまう。


  お腹は全く膨れないが、だからと言って「お代わりください」と言う勇気もなかった。


  食器を片付けてもらい、再び二人きりになると、アンヌが口を開こうとする前に、ユウタが口を開く。


「そうだ! 母さんのことを心配してた子がいるんだ。今、呼ぶね」


「……ええ」


 ユウタは携帯端末(オーパス)を操作して相手を呼び出す。


「こっち見えてる? うん母さんは無事だよ。今変わるから」


 ユウタはテレビ電話のまま、アンヌに手渡した。


「はい母さん」


「あら、ホシニャン⁈」


  ユウタが呼び出した相手は、家で留守番しているホシニャンだった。


  アンヌの所に来る前に、カメラを起動しておいたのだ。


  カメラはいつも留守番しているホシニャンが寂しがらないように設置したものだった。


  ユウタからは見えないがホシニャンの鳴き声が聞こえてくる。


 アンヌには「ニャア〜ニャア〜」としか聞こえていないだろう。


  けれど、テレパシーで会話できるユウタにはなんて言っているか分かる。


『ママ。無事でよかったよぉ。急に飛び出して帰ってこないから。ボク本当に心配してたんだよぅ!』


「ありがとうホシニャン。心配してくれてたのね。お母さんもユウタも元気よ。すぐ家に帰るからね」


  アンヌは、ホシニャンが心配しているのが通じているように返事していた。





「……じゃあねホシニャン。お家でいい子にしてるのよ。はいユウタ」


  通話を終えたアンヌは、ユウタにオーパスを返す。


「ホシニャン元気そうで良かったわ。そうだ。美味しいキャットフード買って帰らないとね」


「食いしん坊だから、きっと喜ぶよ」


「そうね……」


  しばらく病室から音が消えた。


  その沈黙を破る為に、ユウタは持っていたものをアンヌに返す。


「そうだ。母さん。これ」


「これ、お父さんの……」


 ユウタが渡したのは、握りつぶしたように潰れて原形をとどめていない、父の形見のメガネ(ズィルバアイ)だった。


「ごめんなさい。預かっておいてそんなにしちゃって」


  アンヌは首を振りながら、潰れたズィルバアイを壊れ物のようにそっと両手で包み込み、胸に抱く。


「ありがとう、あなた。ユウタを守ってくれて」


 アンヌはそこまで言うと、少し硬い緊張を抱いた表情でユウタに話し掛けてくる。


「……あなたに話しておかなければならない事があるの」


「僕の、身体の事、だよね」


  ユウタの全身が、これから聞く内容に身構えるように縮こまる。


「いつか知ってもらおうと思っていたけど、今がその時だと思うの。聞いてくれる?」


  「……うん」


 聞けば、元の生活には戻れないかもしれない。


 そう分かっていても、 『聞きたくない』なんて言えるはずもなく、ユウタは大きく頷いた。

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