#1 目が覚める
何かを引っ掻くようにも、転がすようにも聞こえる音がする。
直後、闇に包まれた視界が光に包まれた。
ベッドの上でユウタが目を覚ますと、目の前にアンヌがいる。
アンヌはユウタの左手を毛布から出そうとしていた。
「母さん?」
アンヌがこちらを見た。
「目が覚めたようね」
それは母ではなく、白い白衣を着た見知らぬ歳上の女性だった。
初対面の人を「母さん」呼ばわりした事にユウタの顔が熱くなって赤くなる。
「す、すいません!」
看護師は気にした風もなく、ユウタの腕を取る。
「気にしないで。ちょっと腕見せてね」
「はい……うわっ」
持ち上げられた左腕を見て、ユウタは思わず声を上げてしまった。
肘から指まで隙間なく包帯が巻かれている。
同じように右腕にも包帯が巻かれている状態を見て頭の中の糸が絡まってしまった。
痛みのせいではない。
むしろ痛みなどなかった。
なぜ怪我して、病院にいるのかが分からないのだ。
何があったか思い出そうとすると、思い出さない方がいいと脳が警告するかのように、電撃のような痛みが走る。
ユウタが感覚している間も看護師は怪我してる腕を動かして観察していた。
「問題なさそう。ちょっと熱計らせてね」
測り終えた体温計を見て看護師は頷く。
「熱もなし」
「あの、聞いてもいいですか?」
ユウタは包帯だらけの右腕で右の頬をかきながら、検査を終えて片付けを始める看護師に質問する。
「何かしら?」
「僕はなんで病院にいるんでしょう? 」
周りを見渡すと、自分以外の患者はおらず、ベッドもない。
どうやら個室のようだ。
「覚えてないのかしら? 貴方達二人は昨日街で倒れていたところを見つかって、地下シェルターの医療施設に搬送されたのよ」
二人……街で倒れてた?
「それで、警報も解除されたから地上の病院、つまりここに移送されたの。覚えてない?」
「は、はあ」
ユウタはまだ頭がぼやけていて思い出さず、曖昧な返事しかできない。
「でも凄いわね。大怪我したのにたった一日でここまで良くなるなんて驚いてるわ。 貴方のお母様も――」
アンヌがここにいると聞いて、一際大きな頭痛が起きて記憶が蘇った。
まるで、アニメのヒロインのように変身した母が助けに来た事を。
「母さんもここにいるんですね!」
突然の大声に看護師は驚いたのか、僅かに身体を後ろに反らした。
「え、ええ。ここにいるわ」
「案内してください!」
起き上がろうとしたが、急に動いたせいで目眩がしてふらつく。
「急に動いたらだめよ」
「母さんの無事を直接確かめたいんです。お願いです。案内してください」
ユウタが看護師に止められながらも、ベッドから降りようとする。
すると、病室のドアがノックされ、二人ともそちらに注目した。




