番外編その2の11 (約1900字)
こうして事件は解決した。
誘拐犯の正体は、人間に変装した異星人であった。
連れ去られ、小さくされた子供達も元に戻り、両親の腕の中へ飛び込んでいった。
時刻は九時になろうとしている。
事件を解決したユウタは自分のマンションの屋上にいた。
ユウタの目の前には二人の人物がいる。
一人はラチカ。もう一人は鮮やかなフード付きの赤いコートに腰まで伸びた真っ白な髭が特徴的な老人であった。
老人が口を開く。
「ユウタ君。この度はワシと孫のラチカ。そして子供達を救ってくれてありがとう」
「いえ。僕は当然のことをしたまでです。ラチカ。おじいさん戻ってきてよかったね」
ラチカは祖父の右手をつかんで俯いたままだ。
「フフフ。ユウタ君に泣き顔を見られたことがよっぽど恥ずかしかったのだろう」
祖父と再会したラチカは、ダムが決壊したかのように涙を流しながら泣いてしまったのだ。
「そ、そんなんじゃねえよ」
顔を上げたラチカの顔は真っ赤だった。
「ラチカ。ユウタ君に言うことがあるだろ。ちゃんと言いなさい」
「うん」
ラチカは祖父から離れてユウタの前まで歩いてくる。
言葉を探しているのかしばらく無言だったが、ユウタは待った。
「ユウタ。ありがとな。じいちゃん助けてくれて。その、本当にありがとう」
「そんな畏まった言い方。ラチカに似合わないよ」
「なんだと。ラチカだって恥ずかしいの我慢して言ってるのに!」
ラチカは今にも掴みかかりそうな雰囲気で、白い手袋に包まれた拳を突き上げる。
「そうそう。それこそラチカだよ」
「なんだそれ。なあ、お礼と言っちゃなんだけど、何か願い事ないか? 一つならラチカが叶えてやるぞ」
「本当にそんなことできるの?」
ユウタはラチカの後ろに立つ祖父の方を見ると、肯定するようにゆっくりと頷いた。
ユウタは大切な人たちの顔を思い浮かべる。
「じゃあ、みんなでパーティ開けたらいいな」
「そんな願いでいいのか?」
「うん。今一番叶えたい願いなんだ」
「分かった。じゃあ、そこから動くなよ」
ラチカは両手を合わせて力を込めると、ユウタに向かって手を開く。
すると、中から雪のような光の球が飛び出して、ユウタの全身を一瞬光らせた。
「今のは?」
「願いが叶うおまじないだ。効果はすぐに現れるだろうぜ」
そのタイミングを見計らったかのように、ラチカの祖父が手を二回叩くと、何処からともなく雪のように純白の毛並みを持つ馬が一頭現れた。
「じゃあな。ユウタ。本当にありがとな」
祖父が先に馬に跨り、その後にラチカも祖父の手を借りて跨った。
「ではユウタ君。さらばだ」
「はいお元気で。ラチカも元気でね」
「ユウタ。もしまた会えたら。そん時またあの店行こうな」
ユウタはファストフード店だとすぐに分かった。
「うん。二人でまた食べに行こう」
ラチカの祖父が、踵で馬のお腹を押すと、馬はゆっくりと歩き出し、次第に速度を開けで夜空へ駆け上がっていく。
ユウタは二人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
家に戻ろうと階段を降りていると、オーパスがショートメールが来たことを告げた。
見ると、フワリが予定を早く切り上げて、偶然にも仕事が早く終わったサヤトと共に帰ってくるらしい。
そんなメールを見ながら階段を降りていたら、声をかけられた。
「あらユウタじゃない」
『あにぃだ』
声をかけてきたのは、ユウタの母アンヌだった。赤ん坊を抱くように飼い猫のホシニャンを抱いて登ってきたようだ。
「母さん帰りもっと遅くなるんじゃなかったの? それにホシニャンまで」
「早く終わったから帰ってこれたの。途中でホシニャンに会ったから一緒に帰ってきたのよ」
『ボクも集会を早く切り上げて帰ってきたんだ』
「そっか。そうだ母さん。提案があるんだけど」
「提案? それを聞く前に家に行きましょう。風邪ひいちゃうわ」
「うん」
アンヌとホシニャンと一緒に帰りながら、ユウタはクリスマスパーティーを開こうと考えていた。
フワリとサヤトにもその旨のメールはすでに送っていたのだ。
それから三十分後。温かな灯りがついたユウタの家では、こんな幸せそうな声が聞こえてきた。
「メリークリスマス!」
夜空からは幸せを結晶化したような雪が降ってきた。
番外編その2 完




