番外編その2の10 (約2000字)
屋上に到着したガーディマンは、大きな鏡のような装置と、中年の男性を発見した。
それはラチカや、オオシタが言っていた特徴と一致している。
「こんなところで何してるんですか?」
鏡の方を向いている中年男性の背中に声をかける。
中年男性は何も答えない。だが動きを止めたところを見ると、ガーディマンの声は聞こえているらしい。
もう一度声をかける。
「あなたは、ここのマンションの管理人ですよね? ここで何してるんですか?」
振り向いた中年男性は、眉間に一瞬しわを寄せたようにだが、それも一瞬の事で、すぐに笑顔を向ける。
「おま……失礼。あなたはガーディマンではないですか。正義の味方が何しにこんな所へ? ああ、もしかして、ここで起きた誘拐事件の関係ですか?」
中年男性は喋りながら、ゆっくりと後ずさりしていく。
「動かないでください。あなたこそ、ここで何してるんですか? 」
「私は、その屋上の点検に、そう立ち入り禁止のここに誰か入ったらしくて、点検してたんです」
ガーディマンは中年男性の手に持つものを指差す。
「点検のために黒いアタッシュケースを持っていくんですか?」
「えっ? ああこれはですね。点検用の道具が、えっとその入っているんですよ」
中年男性の言葉遣いはしどろもどろで、とても信用する気にはなれない。
「じゃあ中を見せてください」
「えっ?」
「そのアタッシュケースの中を見せてください。あなたが言った通り、点検用の道具が入っているなら見せてくれますよね」
「分かりました。それで私の疑いが晴れるなら、お見せしましょう」
笑顔の中年男性はゆっくりと両膝をつくと、アタッシュケースをその場に起きロックを解除して、蓋を開けると、
「これでも喰らえ!」
中を見せず、左手に持ったものをガーディマンに向けてきた。
放たれるビーム。
ガーディマンは光速に近いその光線を回避。
ビームは後ろにあった階段への扉の鍵に直撃し、それを溶かして穴を開けた。
「あなたは一体何者ですか⁈」
走って近づこうとしたガーディマンは動きを止めた。
「動くなガーディマン。動けばこのケースを撃つぞ」
中年男性は左手の光線銃をアタッシュケースに向ける。
「やっぱりお前が誘拐犯だな」
「ああ。そうだ。まさかこんなに早くお前に見つかるとは予想外だったよ」
誘拐犯は笑いながら、全身鏡の方へカニ歩きしていく。
ガーディマンは動こうと隙を伺うが、光線銃はぴたりとアタッシュケースに向けられていて動くに動けない。
だから、何とか時間を稼ぐために質問する。
「誘拐した子供達をどうする気ですか?」
「今の身体は歳をとりすぎた。若く健康的な身体を手に入れることができれば、私はまた長い時を生きることが出来る」
「そのために誘拐するなんて、許さない」
「口では何とでも言えるが、この状態で何が出来る? ガーディマン」
誘拐犯が全身鏡の前に立つと、黒い鏡面が輝き、ゲートを作り出した。
「動くなよガーディマン。子供達の命が失われれば、たとえ私を殺してもお前の負けだぞ」
ガーディマンは拳を握りしめたまま動けない。
だがいつでも動けるように、全身に力を込めてチャンスを待つ。
誘拐犯がゲートまで後一歩の距離まで近づく。
間に合わないか……。
そんなガーディマンの思いをぶち破るように、大きな音を立てて屋上につながる階段への扉が蹴破られた。
ガーディマンと誘拐犯は同時にそちらを見た。
現れたのは全身黒ずくめの刑事。オオシタだった。
「動くな警察だ」
「黙れ人間が」
誘拐犯は素早く左手の光線銃をオオシタに向けて引き金を引こうとするが、それより早く銃声が轟いた。
撃ったのはオオシタだった。
目にも留まらぬ速さでショルダーホルスターから愛用のリボルバーを引き抜き、右半身を前にして片手で狙いをつけて引き金を引いたのだ。
弾丸は誘拐犯の光線銃を撃ち抜き、左手から弾き飛ばす。
同時に右手に持っていたアタッシュケースが床に落ちた。
「くそっ!」
名残惜しそうにアタッシュケースを一瞥すると、左手を抑えながら、転送装置の方は逃げようとした。
誘拐犯の目の前で全身鏡によく似た転送装置から白銀の拳が突き出して大穴を開けた。
転送装置をパンチで破壊したガーディマンは、その勢いのまま誘拐犯の襟首をつかんで持ち上げる。
「子供達を元に戻してください」
ガーディマンは誘拐犯に訴えかける。
「私に何の得があるんだ?」
「みんなを元に戻してください!」
無理やり連れ去り閉じ込められた子供達の辛さを怒りに変え、あらん限りの大声で叫ぶ。
初めて誘拐犯の笑顔が凍りついた。




