番外編その2の9 (約700字)
ガーディマンが飛び上がる少し前。
闇に包まれたマンションの屋上に、明かりも持たずに歩く男がいた。
男は暗闇でも視界が効くのか、まるで障害物の方が避けて行くように歩いている。
右手に黒いアタッシュケースを持った男はある装置の前で止まった。
それは楕円形の全身鏡のようだ。鏡と違うのは鏡面にあたる部分が真っ暗で何も映していない。
小太りで茶色のベストを着た男は、アタッシュケースを地面に置くと、全身鏡に近づき側面に触れる。
すると黒い鏡面が一瞬爆発したような光を放つ。
額が後退し、ニコニコと笑顔の中年男は強い光を見ても、目が眩んだ様子も見せずに淡々と作業を進める。
「これでよし」
作業を終えた男は満足したのか一度頷き、振り向いてアタッシュケースに近づき、中を確認するためにロックを解除した。
中にあるのは衝撃吸収材に包まれたガラスの小瓶だ。数は十個。
小瓶の中身は、青い液体が満ち、小さな人形のようなものが入っている。
それは人形ではなく人間であった。
しかも全員十代前半の子供で、その中にはラチカの祖父が助けたはずの子供も収められていた。
みんな死んだように目を閉じているが、ケース内部の生命維持装置のお陰で仮死状態にあるようだ。
アタッシュケースには一丁の拳銃のようなものも収められていた。
さてと、サンプルの採取はこのくらいにしておくか。
マンションの管理人は、笑みを浮かべて、誘拐した子供の様子を確認すると、ケースを締めてロックする。
そして立ち上がったところで……。
「こんなところで何してるんですか?」
振り向くとそこには白銀の金属生命体がいた。




