番外編その2の7 (約1900字)
ユウタは情報提供してもらうために、ある場所へ向かって飛行していた。
飛行機に乗っているわけではない。背中の反重力推進機関の力で光を放つ街の上空を飛んでいる。
知り合いの警察官はユウタの事は知らない為、もう一つのヒーロー姿で向かっていた。
その姿は身長が三〇センチほど伸びて、百八〇センチとなり、手足も伸び、全身に逞しい筋肉がついている。
皮膚であり鎧である増殖型液体金属を纏う身体は、血管のようにエメラルドのラインが走る白銀で、月光を反射して輝いていた。
頭部に髪や角、鼻や口は見当たらず、顔を保護するように緑の十字のゴーグルが装着されている。
彼の今の名はガーディマンという。
ガーディマンは目的の屋上を見つけ、減速すると、音もなく降りて行く。
屋上では一人の人物が既に来ていた。
危なげなく着地したガーディマンは同時に挨拶。
「こんばんはオオシタ刑事」
「来たなガーディマン」
屋上で待っていたのは、黒のハーフコートに同色のベスト、ネクタイ、スラックスという黒ずくめの男性であった。
彼の名は大下疾騎。今立っている屋上、希望警察署に所属する刑事である。
「全くこんな寒い日に呼び出すなんて、お前と違ってこっちは人間なんだぞ」
オオシタは悪態をつきながら黒のハーフコートのポケットから箱を取り出す。
そこからタバコを取り出し口に咥えると、火も付けずにそのまま口に入れ、噛み砕く。
タバコの正体はよく似たシガレットチョコであった。
オオシタの大好物であるらしく、いつも口に咥えている。
「見ろ。待たせるから、一箱無くなっちまった」
「ごめんなさい」
ガーディマンが素直に謝ると、オオシタはため息をつく。
「別に怒ってねえ。それでここに呼び出した訳はなんだ? 早く話せ」
オオシタは、新しいシガレットチョコの封を開けながらガーディマの方を向く。
その顔は無精髭が見え、短く切りそろえた黒髪から、わずかに白いものが覗いている。
けれど切れ長の瞳は、若々しく強い生命力を感じさせた。
「えっと、今日、マンションに不法侵入して捕まった人いないですか?」
「不法侵入? どんな奴だ?」
ガーディマンはラチカに教えられた特徴を伝える。
「鮮やかな赤のフード付きのコートに白い髪の毛に腰まで伸びた白い立派なお髭のおじいさんが捕まってませんか?」
「赤のコートに長い白髭……ああ。つい数時間前に捕まえたばかりのジジイか」
「そう。そのジジイ……じゃなくて、そのおじいさんの事を教えてください」
「警報装置が鳴って、パトロール中の警官が駆けつけた時には、子供とその老人しかいなかったそうだ」
「で、おじいさんを誘拐未遂の現行犯で逮捕したという事ですね」
「そういう事だ……」
オオシタは苛立ちを滲ませながら、シガレットチョコを音を立てて噛み潰した。
「あのジジイ。取り調べではこっちの質問をのらりくらりと交わしやがって」
気分を落ち着かせるためか、新たなチョコを取り出して口に咥えた。
「何が『早くカツ丼は出ないのかのぉ』だ。古い刑事ドラマの見過ぎなんだよ」
古い刑事ドラマ? オオシタ刑事も実は好きだったりして。
「何、人の顔ジロジロ見てるんだよガーディマン」
「あっごめんなさい。そのおじいさん、釈放してもらうわけにはいきませんか?」
「今は無理だな。一番クロに近い容疑者だ。真犯人が捕まらない限りは釈放はできない」
「じゃあ、真犯人を捕まえればいいんですね」
「犯人の心当たりがあるのか?」
オオシタは、真犯人の手がかりという餌に食いつく魚のように顔を寄せてきた。
「はい。実は……」
ガーディマンはラチカのことは言わずに、彼女が見たという犯人の特徴を教えた。
「ハゲて小太りで茶色のベストか」
「マンション付近で目撃されてませんか?」
オオシタは、考え込むように両手を組み天を仰ぐ。
「その特徴と一致する奴が一人だけいる。実は俺もさっき会って話を聞いてきた」
「それは誰ですか? 教えてください」
オオシタはガーディマンの方に顔を戻し、半信半疑といった様子で口を開く。
「事件のあったマンションの管理人だ」




