番外編その2の3 (約900字)
「んん?」
ユウタはおかしな光景を見つけて立ち止まる。
ライトアップされた会場でクリスマスマーケットが開かれていた。
ヨーロッパから日本にやってきたクリスマスマーケットでは、食べ物や飲み物に土産物など、クリスマスの雰囲気にふさわしい華やかなものがたくさん売られている。
クリスマスマーケット自体は別段不思議なものではない。ユウタも小学生まではアンヌと一緒によくここに来ていたからだ。
では何が目に留まったのかというと、入り口に立つ少女にだった。
小学生だろうか身長は百四〇センチくらいで、厚手の白いコートに鍋つかみのような白の手袋、首にも白いマフラーを巻いている。
その少女が鈴のように軽やかで愛らしい声でこう言っている。
「なんで無視するんだよ。ラチカの話聞けー!」
まるで男の子のような口調で、少女はクリスマスマーケットに出入りする人に向かって叫んでいた。
けれども、なぜか誰も反応しない。
一メートルと離れていないところを通った人も、聞こえていないかのように歩み去っていく。
聞こえないふりというよりも、全く聞こえていないように見えた。
なんか変だな。
首を傾げて、その少女の方を見ていると、
「もう! なんで聞こえないんだ……あっお前!」
ユウタの黒い瞳と、少女のツリ目の中の小さな黒目が交差した。
「えっ僕?」
ユウタが自分のことを指差すと、少女が頷き大股で近づいてきた。
「そうお前だよ。ラチカの事見えてるんだろ?」
質問する少女の口調は、自分の姿が見えていることを確信するかのように自信にあふれていた。
「え、えっと、その……」
人差し指で右頬を掻きながら、一瞬どうしようと思ったが、近づいてきた少女の目から頰にかけてうっすらと何かが流れた跡を見つける。
ユウタは彼女の力になることを決意した。
「……うん。見えてる」
「よしお前に決めた!」
少女は白い手袋に包まれた右手でユウタを指差す。
「助けてくれ。じいちゃんが連れ去られたんだ」
思った以上に深刻な事態になりそうだった。




