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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第1話 《新生 最弱で最強のヒーロー 前編》 〜EC- 2070シルバーバック登場〜
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#20 ナデシコ色の金属生命体

 ユウタはビルの屋上で、街を破壊するシルバーバックを見ていた。


  すでに防衛軍は敗北し、ビルは次々となぎ倒され、シルバーバックが通った後には破壊の爪痕しか残ってない。


  絶望に包まれたその時、彼は降りて来た。


  全長は頭部の三日月のような飾りを含めて六〇メートル。


  銀のボディに無数の赤いラインが走る鍛え上げられたボディビルダーのような身体を持つヒーロー。


  ユウタが一番大好きで、待ち望んでいた存在がやって来たのだ。


  「ガーディマン! そいつをやっつけちゃえ!!」


  ユウタの叫びに答えるように、ガーディマンはシルバーバックに向かって走り出す。


  シルバーバックは、後ろから迫る巨人に気づいたのか、ビルに容易く大穴を開けられる右拳を後ろに振るう。


  ガーディマンはそれが届く前に、鋭い右ストレートを繰り出し、シルバーバックの胸の球体を易々と貫いた。


  一撃で破壊されたシルバーバックは、拳を引き抜かれ、道路に止まっていた車を潰しながら、仰向けに倒れた。


「やった! ガーディマンが勝った! ありがとうー!」


  大きく手を振ると、ガーディマンがユウタの方を向いてすぐに姿を消した。


  直後、ユウタの視界がガーディマンの顔に埋め尽くされる。


「うわっ!」


  ガーディマンは等身大に縮小し、ユウタの鼻先まで一瞬にして距離を詰めていたのだ。


 驚いたユウタは仰向けに倒れて頭をぶつける。


「イタタ……えっ、何を?」

 

 起き上がろうとしても起き上がれない。


  何故ならガーディマンの左足が、ユウタの右腕を踏みつけているから。


  操られて悪事を働くガーディマンを初めて見た時以上の衝撃で、目の前の正義の味方に対する憧れが、音を立てて崩れ落ちていく。


  ユウタはこれから何をされるか分かって、目尻に涙を浮かべながら首を左右に振る。


 ガーディマンは何の感情も込めてない瞳で、見下したまま、ユウタの右腕を踏み潰した。


「ぎゃ――――――!」




 声にならない叫びをあげて気がついた時、そこにはガーディマンはおらず、何も見えない闇の中だった。


「ここわっ……!」


  何が何だか分からず、起き上がろうとすると、右腕が何かに踏みつけられているように動かない。


 まさか、ガーディマン?


  左手で恐る恐る触れて見ると、それは足ではなく上から落ちてきた瓦礫だった。


 そうだ。咄嗟に避けて……フワリ姉は⁈


「フワリ姉! フワリ姉無事? 無事なら返事して! フワリ姉!」


  大声を出しても、沈黙が無言の返事をするだけだったが、


「う……う〜〜〜ん」


 しばらく経って、か細い声が聞こえてきた。


「フワリ姉! 待ってて、今そっちに行くから」


  ユウタは瓦礫に挟まった右腕を引っ張るも、自分の体重の数倍はありそうなコンクリートから抜け出せない。


「くそ、この、抜けろ」


  ユウタは左手で瓦礫を掴み上に持ち上げようとするが、瓦礫はビクともしない。


「ああああ! もう抜けろ、抜けろぉぉぉぉ!」


  ユウタは自分の中にある力全てを使い切るつもりで、瓦礫を持ち上げようとする。


  すると大きなコンクリートの塊が僅かに浮かび隙間が出来る。


 そのチャンスを逃すことなく、ユウタは右腕を引き抜く。


 バランスを崩した瓦礫は千切れたパーカーの袖を下敷きにした。


 暗闇の中、むき出しの腕を触るが、濡れた感覚もなく、骨も折れてなく痛みもない。


  五体満足なのを確認してから、あたりに目を向ける。


 段々と闇に目は慣れてきているが、それでも幼馴染の姿は見えない。


  先ほど聞こえた声の出所を思い出す。


  確か下からだったはず。近くで倒れてるのかもしれない。


 ユウタは目を凝らすが、やはり暗闇の中では見え難い。


 今度は両腕を使って、掌で床を履くように動かし続ける。


「フワリ姉、何処にいるの? 返事して!」


  返事から位置を探ろうとするも、気を失っているのか返答は返ってこない。


 死んでいるかもしれないという考えは頭から追い出し、腕を動かし呼びかけ続ける。


 膝をつき、硬い床ばかり履いていた掌が柔らかい感触に触れた。


 それを傷つけないようにゆっくりと手を動かし、温かな体温と柔らかな山脈に到達する。


 こ、これって……。


 フワリの豊かな胸だと気付いて慌てて手を退けた。


「わあっごめん!」


「う、うう。ユー、くん?」


  闇の中からフワリの弱々しい声が聞こえてきた。


「フワリ姉。大丈夫? 傷は痛い? 痛いに決まってるよね」


  傷口に響くのか、とても苦しそうな返事が返ってくる。


「いいから、ユーくん、逃げて……」


  暗くてフワリの表情までは見えないが、声音から自分の事より、ユウタのことを心配していることが分かって、今にも泣きそうになる。


「すぐに病院に連れて行くから。もう少しだけ我慢してて」


  ユウタは手探りで出られそうなところを探すが、四方を瓦礫に囲まれ、ネズミの這い出る隙間もない。


  何度か両手で力一杯叩いてみるも、大きな穴が開くはずもなく、余計な振動を起こしたせいで上から細かな破片が降ってくる。


 どうしよう。このままここにいたら二人とも死んじゃう。せめてフワリ姉だけでも助けないと!


  ユウタは(しぼ)みそうな気持ちを奮い立たせ、動かせそうな瓦礫を探し続けた。




「痛い!」


  何度目だろうか。破片に引っかかった爪が剥がれそうになって慌てて手を引っ込める。


 瓦礫をどかそうとしても、持ち上がる筈もなく、小さい破片を少し動かしただけで、上に積もった塊が落下してきそうだ。


  更に細かい粉塵を吸い込んで肺が傷ついたのか、咳が止まらない。


 それでもユウタはフワリを助けるために動かせる瓦礫を探り続ける。


  神様お願いします。フワリ姉だけでも助けてあげてください!


 願いが通じたのだろうか。外から物音が聞こえてきた。


  耳をすますと、床を叩く複数の足音。誰かが歩いているようだ。


「誰か! 誰かそこにいますか! 瓦礫に埋まって動けないんです! 助けてください!」


  瓦礫越しに喉が裂けんばかりに声を出すと、


「そこに誰かいるのか?」


  僕の声が聞こえた!


  ユウタはこの千載一遇のチャンスを逃すまいと、早口でまくしたてる。


「はい。瓦礫に埋まって動けないんです。もう一人は足を怪我してます。酷い怪我です。助けてください!」


「自分達は防衛陸軍の者だ。今瓦礫を退かせるか試してみるから、そこから離れていなさい」


「はい!」


 ユウタはフワリのそばまで戻る。


「もう少しでここから抜け出せるからね」


  フワリからは返事はないが、身体に触れると冷たくなってはいなかった。


  外からはこんな会話が聞こえてくる。


  「これはどうだ?」


「良さそうだ。他のとも触れてないし、退かせれば通れるかもしれない。よしこれでいこう」


  会話が止み、目の前の大きな瓦礫がゆっくりと周りを刺激しないように、外へ倒れ込んだ。


  突然、外から差し込む強い光から目を守るために、ユウタは手で覆いを作る。


  外にいたのは緑の戦闘服を着た二人の兵士だ。光の正体は、一人が点灯させた懐中電灯(フラッシュライト)だった。


  兵士がユウタに声をかける。


「大丈夫か? 今出してやるぞ。さあこっちへ」


  兵の一人が手を伸ばす。穴は人一人が四つん這いで通れるほどの大きさしかない。


「僕より、フワリ姉を、彼女を先に助けてください。酷い怪我してるんです」


「分かった。彼女をこっちへ、さあ急いで! ここもいつ崩れるか分からない」


  ユウタは動けないフワリの身体を、傷に響かないように気をつけながら引っ張り、兵士に手渡す。


 フワリの身体が完全に瓦礫の壁から外に出た。


  その事にユウタはホッと一安心。


「次は君だ。早く手を掴むんだ」


「はい!」


  ユウタが手を伸ばそうとすると、また地震が起きた。規則正しく何度も何度も。


  揺られたせいで、保たれていた瓦礫の均衡が崩れた。


  「危ない!」


  ユウタは手を伸ばしていた兵隊を両手で押し退けた。


  直後大量の瓦礫が落ち、光溢れる唯一の出口は塞がってしまった。




 ユウタは生きていた。崩れた瓦礫は出口を完全に塞いでしまったが、奇跡的に頭上には落ちてこなかった。


  だが、床に体育座りをしたユウタは生きる事に絶望したように俯いている。


  あーあ。僕の人生こんなところで終わりか。でもフワリ姉が助かってよかった。きっと母さんも僕の行動を知ったら褒めてくれるよね。お葬式は簡単に済ませちゃって大丈夫だからね。泣かないで笑って見送ってくれると……。


  フワリ、サヤト、アンヌ、ホシニャンの顔を思い出すと、抱えた膝の震えが止まらなくなり、栓が壊れたように涙が零れる。


「やだよ。死にたくないよ。まだまだ沢山欲しいものだってあるのに、なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!!」


  ユウタの大声が衝撃波となったのか、突然瓦礫が動いた。


  また崩れたと思って、無駄だと分かってても反射的に両手で頭を守る。


  先ほど兵士が退かしたのよりも一際大きな瓦礫が突然上に上がる。


 それを持ち上げていたのは兵士でも重機でもない。


 撫子色の金属生命体だった。

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