#11 『全方迎撃オールレンジガーディマン』
―1―
希望市の東の空、雲の絨毯の上を赤い鏃が右に左に旋回を繰り返していました。
CEFの超兵器レッドイーグルαです。
鏃の後部から青白い炎を激しく吹き出していました。
後方から眩しい光線が機体を掠めます。
追いかけてくるのは、蝶のような翅を持つ怪獣マトゥファーラでした。
背中の翅をオレンジサファイアに輝かせ、触覚から光線を撃ち続けています。
共に戦っていた防衛軍の戦闘機隊は、怪獣を一体倒したところで全機落とされてしまい、もう一機のレッドイーグルβとも離れ離れになっていました。
避け続けるリィサのレッドイーグルに、容易に命を奪う光線が何度も何度も迫っていました。
―2―
ガーディマンはメカキョウボラスとメカメカキョウボラスを倒し、そのまま東の空へ向かっていました。
街を見下ろすと、戦闘機らしき残骸がビルの屋上に突き刺さったり、道路に落ちていました。
パイロット達の安否は空からでは分かりません。
ハカセから通信が入ったので、徐々に高度を上げながら通信に出ます。
『表示したポイントに向かってくれ』
「そこじゃあ、手助けできないよ」
指定された場所は街の一角で、空の戦いに参戦するには遠すぎる気がします。
『焦るなって。こんな時の為に対空兵器を用意しておいたの忘れたのか?』
「ごめん。すぐ向かうね」
ガーディマンは指定された十字路の中心に降り立ちます。
やはり焦っているからか、道路が少しへこんでしまいました。
十字路の中心、四棟のMK-ビルディングに囲まれた道路が円形に区切られ持ち上がっていきます。
同時にMK-ビルディングの壁面が開き、中から沢山のパーツが出てきてました。
ガーディマンの背中に装着されたのは、ランドセルのアームから伸びた四つのミサイルポッド。
ランドセルには更に、様々な砲弾を撃ち出せる二門のキャノンが取り付けられています。
両腕には三つの回転砲身が一つになったガトリングガンが装着されました。
両足は反動を抑える為、道路に固定されます。
全ての方位の敵を迎え撃つその名は……。
「『全方迎撃オールレンジガーディマン』」
―3―
灰色の雲を突き破って現れたのは、一機のレッドイーグルです。
蛾のような怪獣ソンブリブル二体に追いかけられています。
ガーディマンは援護するために呼びかけます。
「聞こえますか? 援護するので高度を落としてください」
自分の位置を相手に伝えました。
『こちらマサシゲ。援護感謝するッシュ』
マサシゲの操るレッドイーグルβが高度を下げて近づいてきます。
後ろについたソンブリブル達が、触覚から雷を放ちました。
レッドイーグルβが回避すると、雷がビルに当たり木っ端微塵に砕け散ってしまいました。
ガーディマンは、射程に入った一体を見つめてロックオン。
背負ったランドセルから伸びたミサイルポッドのハッチが開き、一斉にミサイルが発射されました。
まるで獲物を狙う蛇のように動きながら、障害物を避けて、味方であるレッドイーグルをしっかりと躱して、怪獣に全弾命中します。
無数の爆風に一瞬にして包まれたソンブリブルは、紙風船が破裂するように爆発しました。
役目を終えたミサイルポッドが地に落ち、周囲のMK-ビルディングから新しいポッドが補充されます。
もう一匹のソンブリブルは危険を感じたのか、追いかけるのをやめてビルを盾にするように方向を変えました。
その速度はなかなかのもので、ミサイルポッドのロックオンが間に合わずに逃げられてしまいます。
ソンブリブルはヘリのようにホバリングすると、盾にしたビルから頭だけ出して雷攻撃をしてきました。
ガーディマンは足が固定されているので避けられませんので、シールドの出番です。
円形の道路から現れたエネルギーシールドが雷を見事に防ぎました。
ソンブリブルはシールドを破壊しようとしているのか、攻撃を続けます。
ガーディマンはシールドで自分を守りながら、背中のキャノンを起動します。
適切な弾種を選んでから、目線を怪獣に合わせて、シールドを張ったまま発射しました。
全ての弾丸には特殊なチップが組み込まれておりシールドを潜り抜けることができるのです。
これにより敵の攻撃を防ぎながら、攻撃することが可能になりました。
放たれた徹甲弾はシールドにぶつかる事なく通り抜け、ビルを易々と貫き、隠れていた怪獣に突き刺さります。
弾頭が体内で爆発し、最後まで残っていたソンブリブルは、内側から膨れ上がるように大爆発しました。
―4―
『ガーディマン殿、助かったシュ』
レッドイーグルβは無事のようで、ガーディマンの周囲を飛びまわります。
「リィサさんはどこにいるんですか?」
『リィサ殿は、一人でマトゥファーラと戦っているッシュ』
「そんな、早く助けないと」
『拙者が敵を誘い出すッシュ』
レッドイーグルβは急上昇して雲の中へ消えました。
マサシゲの言葉を信じて待っていると、雲から三つの物体が一直線に飛び出してきます。
順番はリィサの操るレッドイーグルα、マトゥファーラ、最後にレッドイーグルβの順番です。
「二人とも避けてください」
ガーディマンは警告すると、背中のキャノンから徹甲弾を発射しました。
通信を受けた二機のレッドイーグルは、すぐさま左右に避けます。
マトゥファーラは八頭身の美しき肢体をくねらせて、迫る砲弾を簡単に回避してしまいました。
避けられてしまいましたが、リィサは助けることができました。
ガーディマンはランドセル内から新しい砲弾を選択しキャノンに装填して再度撃ちます。
二発の弾丸はある程度飛んだところで、収められていた数え切れないほどの小型弾を、放射状に発射しました。
流石にマトゥファーラも避けきれなかったようですが、翅を青く輝かせて張ったバリアで防いでしまいます。
素早く動くマトゥファーラに狙いが付けられない為、弾幕を張るために両腕のガトリングガンを使います。
両手合わせて六つのガトリングが一斉に回転し、歯車が回るような音を立て始めます。
毎秒数千発の弾丸がシールドを通り抜けてマトゥファーラに殺到しました。
命中はしましたが、やはりバリアを貫通できません。
ですが、ガーディマンと違いマトゥファーラは防御したまま攻撃できません。
それを好機と、二機のレッドイーグルも攻撃します。
リィサのαが機首のプラズマモーターカノンを連射し、マサシゲのβが八門のホーミングレーザーを発射しました。
ガーディマンも両腕のガトリングガンの弾倉を交換しながら撃ち続けます。
しかしバリアは破れません。
何度目かの弾倉交換の僅かな隙を突かれてしまいます。
マトゥファーラは二機のレッドイーグルの攻撃を掻い潜ると、ガーディマンの背後に回り込みました。
直ぐにシールドを動かしますが間に合いません。
触覚から放たれた光線がランドセルに命中してしまいます。
レッドイーグルαが攻撃してくれて追い払ってくれましたが、けれども背負っていたランドセルが熱で溶け、今にも砲弾が誘爆しそうです。
『早く捨てろ』
ハカセの声に従って背中のパーツを強制解除し、シールドを動かして身を守る壁とします。
ランドセルが大爆発し、高熱を帯びた破片が辺りに飛び散りました。
シールドが防いでくれたので助かりましたが、近くのMK-ビルディングは穴だらけになって使い物にならなくなってしまいました。
『リィサ殿が追われているッシュ』
見上げると、何か因縁でもあるのか、リィサの駆るレッドイーグルαを追いかけ始めます。
「ハカセ。使える武装は?」
『キャノンも溶けたし、ミサイルポッドも駄目。ガトリングガンはまだ大丈夫だ』
「じゃあ何とか――」
『いやMK-ビルディングが破壊されたから、弾はワンマガジン分しか無いぞ』
「無いよりマシだよ。早く足のロックを解除して」
ハカセは少し悩んだようですが、ガーディマンの提案に賛成したようです。
『……ロック解除する。弾は直ぐなくなるからな』
「うん。早くお願い」
両足を固定していたロックが外れると同時に、ガーディマンは空に飛び上がりました。
雲を突き抜け、レッドイーグルを執拗に追いかけるマトゥファーラを発見しました。
「リィサさん。今助けます」
―5―
ガーディマンの両手に装備されたガトリングガンが一斉に火を噴き、陽の光を反射しながら大量の空薬莢が排出されていきます。
一秒で数百発も発射された弾頭がマトゥファーラに殺到します。
しかしバリアによって全て阻まれてしまい、虚しく火花を散らすだけでした。
撃ち続けますが、マトゥファーラはバリアを張ろうともせず、素早く動いて避けてしまいます。
弾丸は音速を超えているのですが、ガーディマンの動きが怪獣の速さに追いつけないのです。
「フフフ」
マトゥファーラは嘲るように笑いながら、まるでバレリーナのように優雅に攻撃を避け続けていました。
束ねた無数の砲身は真っ赤になってしまい、残弾僅かを知らせる警告が視界に表示されます。
近距離なら命中率が上がると考えて近づきますが、マトゥファーラの攻撃により、全く近づけません。
その間に射撃を続けていたガトリングガンが沈黙してしまいました。
「弾切れ、こんな時に」
レッドイーグルαは太陽の下で逃げ続けていますが、今にもマトゥファーラの光線が当たってしまいそうです。
遂に一筋の光線が機体の側面を掠りました。
当たったところが溶けて煙が尾を引きます。
エンジンの出力が落ちたせいで目に見えて速度が落ちてきました。
蝶の怪獣は両手を伸ばしてレッドイーグルを掴んでしまいます。
哀れな獲物をやっと手中に収めて愉悦に浸っているのか、マトゥファーラの表情に暗い笑みが張り付いていました。
弾倉交換もできず役に立たないガトリングガンを捨てずに、ガーディマンは全速力で上昇しました。
高度を上げながら両手のガトリングガンにエネルギーを注入していきます。
接近に気付いたマトゥファーラが、忌々しそうに睨みつけながら光線を撃ってきました。
避けながら近づきますが、集中力が切れてエネルギーの注入が途切れそうになります。
避ける事と近づく事と注入する事。この三つ全てが途絶えぬように注意を払いながらバリアに肉薄しました。
「リィサさんを、離せぇぇ!!」
エネルギーを注入した事でエメラルドグリーンに輝いた砲身をバリアに押し付けて高速回転させます。
バリアに擦れて火花が散る中、新たな必勝技を叫びました。
「『ゼロレンジスプラッシャー!』」
回転していた砲口から、一斉にリームエネルギーの弾丸が、翡翠の花が満開になるように飛び出しました。
遂にバリアを砕くことに成功し、マトゥファーラの全身を貫きます。
体から両手が離れた事でレッドイーグルαは自由を取り戻しました。
『ありがとう。助かったわ』
「リィサさん……無事で良かったです」
両手のガトリングガンが緑の粒子となって地面に落ちていきます。
それを目で追うと、翅をもがれた蝶の怪獣が空を見上げたまま息絶えていました。
―6―
ひと段落ついたところで、街の南側から爆発音が聞こえてきます。
「僕、助けに行ってきます」
『待って、私達も行くわ』
『レッドイーグルは二機とも一度戻ってくれ』
突然ハカセが割り込んで、リィサの言葉を否定します。
『二機ともエネルギーが心許ない。一度補給に戻らないと戦えないぞ』
『そんな、一人で行くよりも三人で一緒に行った方が』
「リィサさん。僕は大丈夫です。二人は補給してから来てください」
自分が不甲斐ないと感じたのか、リィサが溜息をつくのが聞こえました。
『直ぐ戻るわ。レッドイーグルα補給に戻ります』
『レッドイーグルβ、補給に戻るッシュ』
二機の赤い鏃はユグドラシルがある方角へ戻っていきました。
ガーディマンはそんな二機を見送って、南に向かって飛び立ちました。
―7―
黒煙が上がる希望市の南では、無数の光線が雲を焦がし、何棟ものビルが崩れていきます。
戦いは二つの場所で起きていました。
バサルトとドーラが操るブルーストークは、頭が無くお腹が突き出た赤い怪獣レイ・ウラトロンと戦っていました。
イブゥが乗るヘビィトータスと防衛軍の戦車隊は、黒いピーナッツのような外殻を纏った四足歩行怪獣グザ・エレトロンと対峙しています。
ヘビィトータスを守るように、戦車隊が前に並んで砲撃を続けていました。
逆扇状に整列した戦車達が、二連装のレールガンを連射します。
グザ・エレトロンは全く気にすることもなく、ピーナッツ型の装甲で弾きながら体当たりしてきました。
ビルを薙ぎ倒し、戦車を軽々と弾き飛ばしてしまいます。
ひっくり返った戦車から乗員が脱出していきます。
ヘビィトータスが狙撃します。
狙うは解析によって判明した唯一の弱点部位を狙います。
しかし、それは針も通らないほど小さな場所なので、動き続ける怪獣には中々命中しません。
外れた槍のような弾頭が側面を擦って盛大に火花を上げただけでした。
ヘビィトータスは近づかれた為、線路を通って急速後退します。
グザ・エレトロンは急制動をかけて無理矢理方向転換して追いかけてきます。
ビルの壁面を破壊し、ホームを踏み潰しながら迫ってきました。
イブゥは追われる事への恐怖心を押さえ付けながら、怪獣の唯一の急所に狙いを定めて引き金を引くのでした。
―8―
ブルーストークは機体を傾けて、地上から迫る光線を避けます。
レイ・ウラトロンは揃えた指先から、破壊光線を空に向けて発射し続けます。
四〇メートルもある巨体のブルーストークは、シールドを張らずに攻撃を避け続けました。
攻撃も防御もしないのは、無駄なエネルギーの消費を避け、一撃必殺を狙っているからです。
レイ・ウラトロンは不満を表すように地団駄を踏むと、全身にある目玉のような発光器官からハリネズミのように光線を乱射してきました。
回避できないと判断して、すぐさまシールドで防御します。
赤い怪獣の突き出たお腹が引っ込んでいます。それは発射するまで少し間が空いた事を意味します。
『リームレーザー発射』
『了解、発射します』
バサルトの指示を受けたドーラが、発射した細いレーザーが機首から発射されました。
上から下に降りていき、レイ・ウラトロンを真っ二つにします。
体を両断された怪獣は、最後の力を振り絞るように地面に倒れながらも、指から光線を放つのでした。
―9―
放たれた光線は街中を横切り、ヘビィトータスの目の前の線路を破壊してしまいました。
マサシゲを乗せた車輌が一瞬浮き上がり、地面に落ちて脱線してしまいます。
蛇のような車体が何十メートルも引きずられて止まりました。
バサルトが安否を気遣います。
『イブゥ。無事か』
少ししてから返事が帰ってきました。
『自分は無事です。ヘビィトータスの損傷が酷く走行不能。主砲システムは動くので攻撃自体は可能です』
通信している間もグザ・エレトロンが道にあるもの全てを破壊しながら近づいてきます。
『攻撃を続けます』
イブゥはそう言ってから、砲身を操作します。
グザ・エレトロンが近づく中、一向に砲撃は開始されません。
『装填システムが故障。砲撃が出来ません』
珍しく焦った声が聞こえてきました。
『直ぐに脱出しろ』
『無理です』
すでに目と鼻の先に怪獣が迫っていました。
イブゥを助ける為に、空を飛んできたガーディマンが割って入ります。
「早く逃げてください」
全身の力を使ってグザ・エレトロンを押し込み、動けないヘビィトータスから離していきます。
両足が地面にめり込むほど踏ん張り、顔が触れ合うほどの近さでガーディビームを撃ちました。
しかし、至近距離でも効果がなく、ジリジリと押されていきます。
「イブゥさん。早く脱出を」
『扉のロックが解除されない。どうやら衝撃で故障したみたいだ』
「そんな……」
ガーディマンは抑えつけながら、この状況を打破する為に頭を働かせます。
すると、あるアイデアを閃きました。
それを実行する為に渾身の力で怪獣を投げ飛ばします。
「イブゥさん。主砲を撃つ用意をしてください」
『だが、次の砲弾がないんだ』
「それは僕がなんとかします。だから照準と射撃をお願いします」
了解したイブゥが砲身を動かし、グザ・エレトロンに狙いをつけます。
『準備できたぞ……けれどどうするんだ?』
「驚かないでください」
ガーディマンは小指ほどの大きさまで小さくなると、ヘビィトータスの砲身の中に入り込んでしまいました。
『な、何してるんだ』
いつもは冷静なイブゥも取り乱したように声を荒げます。
「このまま発射してください」
『下手すれば大怪我するぞ』
「大丈夫です。早く撃って!」
砲身の中に収まったガーディマンは全身をリームエネルギーで保護するように包み込みました。
『君を信じるぞ。発射する!』
全身が緊張で強張った直後、静電気のような刺激が走り、重量が感じられなくなりました。
光速で飛ばされて、視界の風景が一瞬にして変わっていきます。
身体を真っ直ぐ伸ばし、顔の前で両腕をクロスさせて怪獣に迫ります。
狙うは唯一の弱点であるピーナツ状の装甲の先端です。
そこに僅かながらの隙間がある事が以前の戦いで判明していたのでした。
「『クロスヴァレッター』」
翡翠の弾頭と化したガーディマンは、見事に怪獣の急所を貫きました。
弱点を穿たれたグザ・エレトロンの全身にヒビが入って爆発。
細かい破片が街中に飛び散っていくのでした。




