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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第7話『狂騒 怪獣達の宴』〜再生怪獣軍団 怨念融合獣DE・O・TE登場〜
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#6『一番頼りになるのはあなた』

 ―1―


『じゃあ、今日はお休みするんだね』


 フワリの心配する声が耳に当てたオーパスから聞こえてきます。


「うん。ちょっと熱あるみたいで、母さんとも相談して休むことにしたんだ」


『そっか。しかたないね。今日の練習も無理そう?』


「……うん」


 休む事で一番気がかりなのがは母の日に送るケーキの練習ができなくなってしまう事でした。


 でも、それ以上に優先しなければならない事態が起きていたのです。


「明日失敗しないように頑張る」


『分かった。今日はゆっくり休んでね』


「うん。ありがとう」


 心の中で謝りながら通話を終わらせました。


 今朝の怪獣出現の報を知り、ユウタは自分の出番が来るだろうと、サヤトに相談しました。


 何が起きてもいいように学校を休むことになったのです。


 ユウタは今、制服のまま自分の部屋で待機していました。


 いつCEFから連絡が来るかと思うと、身体が小刻みに動いてしまい、ベッドに腰掛けていても落ち着きません。


 左手に持つオーパスも汗でじっとりと湿っていました。


 フワリの声を聞いている間は気持ちも落ち着いていましたが、これから起こる戦いの事を考えると、


 身体は熱いのに、心が氷のように冷たいというなんともおかしな感覚でした。


 突然、左手が振動します。


 落としそうになりながらも液晶を確認するとサヤトからでした。


「わっと……はいもしもし」


『ユウタ君、作戦会議の準備が整ったわ。そっちも大丈夫かしら?』


「はい。問題ないです」


『じゃあ、ビデオ通話に切り替えて』


 言われた通りにオーパスを耳から離し、フィギュアたちが並ぶ机の上に置いてビデオ通話をオンにしました。


 液晶にCEFの司令室が映り込みます。


『見えるかしら?』


 サヤトの声は聞こえるが姿は見えません。


 どうやら自らの腕時計(オーパス)で撮影しているようでした。


「はい。ちゃんと見えています」


 画面が動くと、CEFのメンバーの姿が映ります。


 ツトムがいて、筋骨隆々でスキンヘッドの金剛(コンゴウ)厚志(アツシ)に、

 細身で細目の影隠(カゲガクレ)半蔵(ハンゾウ)の姿もありました。


 画面が動くと、部屋の中央にある黄色い球体、管理統括AIのフリッカが一瞬映りました。


『全員揃ったな』


 司令室のメインモニターを背にゲンブが立っています。


 その隙のない立ち姿に、ユウタだけでなく隊員達も気を引き締めました。


『これより、複数同時に現れた怪獣への作戦会議を行う』


 ―2―


 学生が食堂で列を成し、サラリーマンがコスパの良いお昼を買い求めてキッチンカーに並ぶ平和な時間。ヨーロッパ、そして南太平洋では怪獣が暴れていました。


 日本にいる一般人には遠い国の出来事でも、侵略者から地球を守るCEFにとっては、まったく油断できる状態ではありませんでした。


 ユウタはハカセの姿が見えない事が気になりますが、それを聞く前に会議が始まってしまい、聞きそびれてしまいます。


『今判明している情報を教えてくれ』


 ゲンブの言葉に、司令室中央の黄色い球体が点滅を繰り返します。


「はい。日本時間の午前七時、ヨーロッパでは午前零時、南太平洋では午前十時に複数の怪獣が出現しました」


 メインモニターに最初に映し出されたのはドイツに現れた巨人の姿です。


『ベルントはベルリンに降下。そのまま都市を破壊しながらオーデル川の国境を越えて、ポーランドへ向かいました』


 防衛軍ヨーロッパ支部の陸軍が、ポーランドに向かうベルントを攻撃する映像が流れました。


『三度攻撃を行いましたが、全て失敗。ヨーロッパ支部は遅滞行動を行いながらロシアへ撤退しました』


 アツシが手を挙げます。


「失敗の原因は、部隊の集結が間に合わなかったのですか?」


『いいえ。戦力は充分でしたが、敵の行動が予想外でした。これを見てください』


 モニターに防衛軍側の視点で映像が流れます。


 戦車隊が砲撃を開始すると、ベルントは近くの山を盾にするように隠れてしまいました。


『ベルントの知能は予想よりも高く、戦車隊の攻撃をこのようにして防いでしまいました』


 次の映像には黒いモヤのようなものを纏う苔の巨人の姿が映ります。


 防衛軍が攻撃するも、そのモヤによってすべて防がれてしまいました。


 ツトムが凝視しながらメガネのフレームを触ります。


「なんか小さな物体が寄り集まっているように見えますね。もう少しズームできませんか」


 その正体をいち早く看破したのは、細目で見ていたハンゾウでした。


「あれは虫、いやバガーブの大群ッシュ」


『はい。ベルントを護衛するかのように大量のバガーブが追従しています』


 体長四メートルもある虫のような怪物が大群をなしている様子は、画面越しとはいえユウタの背筋を震わせます。


 ゲンブがモニターを見ながら質問します。


「バガーブはベルントと同じく転送されたのか」


『確証はありません。ベルリンではカメラなどが全て使用不能になったせいで映像が残されていません』


 こめかみを指で叩いていたアツシが何かを思い出したようです。


「あの巨人は水に弱かった筈。水を使った攻撃が有効ではないですか」


『ベルントが現れた時、ベルリンでは小雨が降っていました。しかし怪獣は全く意に介することはなかったそうです。

 防衛軍も放水を行いましたが効果はなく、犠牲を増やしただけでした』


「弱点を克服しているのか、厄介だな」


サヤトがゲンブに質問します。


「隊長。ベルントとバガーブへの対処はどうするのですか」


「撤退したヨーロッパ支部の戦力は、ロシア支部と合流し共同作戦を展開するとのことだ」


『次に南太平洋の方です』


 映像が切り替わり、太陽の光を反射するエメラルドグリーンの海とその中央に映る島が映し出された。


『ベルリンの時と同様に突如現れたゼタマウスはそのままA・E・Sカノンを押し潰して破壊。その場に留まっています』


 斜め上から見下ろすカメラの映像が、右から左に動いています。


 どうやら飛行機か何かで撮っているようで、右上にはLIVEと書かれていました。


『ゼタマウスが口の中から出現させたトカゲラの役割は護衛の可能性が高いです』


 モニターに防衛軍の艦艇が表示される。


『日本支部、アメリカ支部は共同で海軍を展開。巡航ミサイルによる攻撃を敢行しました』


 白い尾を引くミサイルが、巨大なラグビーボールに命中します。


 着弾地点から白いかけらが剥がれ落ちていきます。


『敵の外殻の損傷が確認されましたが、極一部が剥がれ落ちただけでした。

 調査の結果、同じような硬度の外殻が何千もの層を作っていて、通常兵器では悪戯に時間を浪費するだけと判明しました』


 次に放たれたミサイルが着弾すると、青いプラズマの光球が生み出されました。


『同様にプラズマ巡航ミサイルも決め手にはなっていません』


 ツトムが歯を割れんばかりに噛み締めました。


「A・E・Sカノンがあれば……」


 以前宇宙での狙撃で使用した電磁投射砲なら、硬い外殻を貫けたかもしれないと考えたのです。


 しかし、それを先読みしたようにAESカノンは怪獣の出現と同時に海底に沈められてしまいました。


「ジキョウ隊員落ち着け。ちゃんと防衛軍の方でも対策を考えてある」


「すいません」


 ツトムは幾分か落ち着きを取り戻し、ゲンブに頭を下げた。


「今後の行動を説明する。我々は二ヶ所に出現した怪獣の迎撃作戦を援護する」


 モニターに表示されている希望市から、ロシアとマーシャル諸島に向かって矢印が伸びていきます。


「コンゴウ隊員とジキョウ隊員はロシアの応援に向かってくれ。カゲガクレ隊員とショウアイ隊員はマーシャル諸島の応援だ」


 四人が一斉に頷きました。


 ゲンブは見上げながら天井のスピーカーに声を掛けます。


「ハカセ。ホワイトクラーケンの用意はできているな」


『バッチリだよ。やっと出番が来たな』


 ハカセは相変わらず礼儀のなっていない返事をスピーカーから返してきました。


「ホシゾラ君」


 突然ゲンブに呼ばれてユウタは素っ頓狂な声を出してしまいます。


「ふぁい!」


 相変わらず、ゲンブの鋭い眼差しと迫力に慣れることができません。


 ゲンブは特に気にしてはいない様子で続けます。


「君には希望市で待機してもらう」


「どっちかに行かなくていいんですか」


 自分の力なら、一度現れた巨人も島のように大きな怪獣も倒せるという自信がありました。


 それと本音を言えばロシアの応援に行きたかったのです。


 レギィとお婆さんが心配でした。


 混乱しているのか、電話も通じずメールを送ることもできない状態なのです。


「ロシア支部とアメリカ支部から新兵器を投入すると連絡が来ている。それに最重要拠点は希望市(ここ)だ」


 ゲンブが床を指差しました。


 その指先が示すのは、地球を蘇らせた力を持つヴェルトオヴァールです。


「これが敵の陽動ということもあり得る。戦力を分散させるからこそ、君には残っていてもらいたいのだ」


「でも――」


 ゲンブの言うことは正論だが、中々従おうという気になれません。


 そんな時オーパスの画面が動き、サヤトが顔を見せました。


「ユウタ君。あなたに与えられた役割はとても重要なのよ。手薄になったここが攻撃された時、

 ()()()()になるのはあなたなのだから」


 サヤトの言葉は驚くほどユウタの心に染み渡っていきます。


 特に『一番頼り』になると言われた時は正直とても嬉しかったのです。


「納得してくれた?」


「分かりました。僕は街を護る為に残ります」


「お願いね。私達が必ず怪獣が日本に近づく前に倒してくるわ」


 話がまとまったタイミングを見計らって、再びゲンブの声が指令室内に響き渡ります。


「では各員の奮闘を期待する。出撃』


「「「了解」」」

「了解ッシュ」


 ブリーフィングを終えた隊員達が司令室を出ようとしたその時です。


 視界が真っ赤に染まり、耳をつんざく大音量がスピーカーから溢れ出しました。


 それは付近に怪獣が出現したことを知らせる警報でした。

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